「鬼滅」大ヒット、新型コロナに揺れた2020年アニメ業界…次のトレンドは?【藤津亮太のアニメの門V 第65回】 | アニメ!アニメ!

「鬼滅」大ヒット、新型コロナに揺れた2020年アニメ業界…次のトレンドは?【藤津亮太のアニメの門V 第65回】

アニメ評論家・藤津亮太の連載「アニメの門V」。第65回目は、日本のアニメにおける「コロナ後の世界」を考える。

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新型コロナウイルス感染症の流行で世界が大きくゆさぶられた2020年。今回は「コロナ後の世界」という観点から、これからのことを考えてみたい。

まず制作工程について。
取材の中で折に触れて聞いてみると、緊急事態宣言の中でアニメーターの在宅勤務は進んだという(逆にいうと制作や演出はそれまで通りスタジオに入らないと仕事にならない)。
おそらくそれと並行して作画のデジタルへの移行もじわじわと進んでいると思われる。ただこの在宅勤務推奨の流れが、アニメの制作工程全体のデジタル化を後押しするかというと、なかなかそこまで単純ではない。

一番のネックは、個々人が使うツールがデジタル化しても、アニメの制作工程のデジタル化は完成しないところにある。アニメ制作のデジタル化で一番必要なのは、アニメ制作のワークフロー全体が、デジタル化することにあるからだ。
しかし、ここについてはまだ各スタジオも様子見やテストの段階にある。そしてもちろんそこには、各工程にデジタル/アナログが混在しているから、管理がデジタルに移行できないという、「ニワトリと卵」の関係もある。

制作管理をデジタル化するメリットはいろいろあるが、そのうちのひとつはスタジオの所在地に縛られず、全国どこでも働けるようになることだ。
これまでは川下(個人の作業)からデジタル化が進んできたが、川上(制作管理)からのデジタル化も考えていったほうがよいはずだ。それは、これからの「人の移動を抑えつつ、ビジネスを動かしていく」という社会の体制とも合致している。自然な変化の流れを待って変わるのではなく、今が意思を持って制作体制を変えていく好機のように思う。
どれぐらいのスピード感で制作管理がデジタル化していくかが、2020年以降のアニメづくりにおいて大きなトピックとなるのではないだろうか。

そしてリモート環境が前提になるからこそ、スタッフ間のコミュニケーションをどうとっていくのかも重要になってくるはずだ。
そこではおそらく、通信制高校におけるスクーリングのように、定期的にフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションの場を意図的に設けるとか、あるいは関係者が雑談できるチャットのようなバーチャルで他愛もない話ができる場所を用意するとか、スタジオが本来担っていた「場」としての機能をどう用意するか、ということも、制作工程のデジタル化には欠かせない要素となるはずだ。
そしてここに関しては、近い将来の話ではなく、在宅勤務率があがっている現在でも重要なトピックになるのではないか。

では一方でアニメの内容はどう変わっていくだろうか。
今、現実の生活は、マスク、ソーシャルディスタンス、リモートワークと大きく変わっている。たとえワクチンが普及しても、感染を抑える必要性は変わらないから、こうした要素は今後も「新しい生活様式」として残っていくだろう。
そうすると、その実態をどこまで映像作品に(あるいはアニメの原作となるマンガや小説に)反映していくか、という問題がそこに生まれる。

「フィクションだから」とあえて、そこを意識せずに表現する手段もあれば、「世界観のリアリティが物語を支える」と現実を反映する方法もあるだろう。
そこに正解はないが、作品内容を表現する前に一度、「その作品にとって、どこまで『新しい生活様式』を反映したほうがいいか」を考える工程が加わることになる。

しかし、これがSFやファンタジーであればそこまで「新しい生活様式」を考える必要はない。
これは特にSFやファンタジーというジャンル色を徹底しなくてもよい。「現実と違うもうひとつの世界だ」とわかるサインとしてSFやファンタジーの要素があればよいわけで、そう考えると、これから(2~3年後から?)は「現実とよく似ているが、ちょっと違う世界」というアニメが増えてくる――という予想は成り立つ。

幸か不幸か、日本のアニメはそうした非現実的な要素を孕んだ設定の中で、思春期的なビビッドな感情を扱うことを得意としてきた。だから、これからは、そういった手法が改めてクローズアップされるようになるのではないか。
あるいはいわゆる「日常系」の原作を提供しているマンガ雑誌の新連載で、「新しい生活様式」がどう扱われているかも、これからのアニメにおける「新しい生活様式」の扱い方を予想するヒントになるだろう。

そしてもうひとつが『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が大ヒットした影響だ。
ヒットを後押しした要素ひとつひとつは決して珍しいものではない、というのはさまざまなところで指摘されている通り。

ここで気にしたいのはその余波で、これにより原作を持つ出版社の存在感が大きくなるのは間違いないだろう。
例えば『鬼滅の刃』の音や映像でわかるところまで説明する過剰な台詞は、原作の台詞をそのままアニメに持ち込んでいるからだが、この「原作を変えなかった部分」も、ヒットの理由のひとつで挙げられている。こうした原作由来の部分が成功要因として、後のアニメ化でも踏襲される可能性が高い。マンガという媒体で小さく生んで、アニメで(関連商品を含め)大きく育てる、というこの過程において、「そもそも原作あればこそ」という考え方がこれまで以上に説得力を持つことになるだろう。
細田守監督作品、新海誠監督作品がヒットした後、オリジナルを中心にさまざまなアニメ映画が制作されたが、それと同じメカニズムで「原作に寄り添い」「TVアニメと連動した」アニメ映画が今後、増えるのではないか。

一方で今年は海外のアニメ映画の秀作も数多く公開された。中でも『ウルフウォーカー』や『Away』は、非常に個性的なビジュアルとそれに支えられた作品世界を持っていた。
もちろん企画成立のバックグラウンドが日本のアニメ映画と異なるということもあって、その個性は際立ったものだった。日本のアニメ映画もそれなりにバラエティに富んでいるが、ここまでの個性は絵柄一つとってもなかなか獲得できていないのが現状だ。
世界中で多様なアニメ映画が制作される中、日本のアニメ映画も(企画成立のバックグラウンドから変えることで)もうひといき「個性的」な領域に踏み込む流れが生まれてもいいはずだ。

来年以降「原作に沿ったアニメ映画」の流れが強まるなら、その反対側に位置するであろう、「個性的なアニメ映画」が生まれ出る潮流もまた強まってほしいと思うのだった。

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』、『声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~ 』、『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』がある。最新著書は『ぼくらがアニメを見る理由 2010年代アニメ時評』。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。

《藤津亮太》

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