「藤津亮太のアニメ文章道場」の制作裏話と「少女革命ウテナ」提出原稿【編集後記】 | アニメ!アニメ!

「藤津亮太のアニメ文章道場」の制作裏話と「少女革命ウテナ」提出原稿【編集後記】

1週間のうち編集部が気になったニュースや、苦労した記事の裏話などをお届けしていく「編集後記」。

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「藤津亮太のアニメ文章道場」の制作裏話と「少女革命ウテナ」提出原稿【編集後記】
「藤津亮太のアニメ文章道場」の制作裏話と「少女革命ウテナ」提出原稿【編集後記】 全 2 枚 拡大写真
みなさん、こんにちは。アニメ!アニメ!編集長の沖本茂義です。

連休はどう過ごされましたか? 僕は映画を満喫し、『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』、『TENET』、『窮鼠はチーズの夢を見る』を観ました。
とくに『エヴァガ』は会場のあちこちですすり泣く声が聞こえてくるほど、本格的に泣かせてきましたね……。まだ観てない人はぜひ劇場でご覧ください。

さて、本記事を第一弾として、アニメ!アニメ!の「編集後記」をこれから毎週お届けしています。1週間のうち編集部が気になったニュースや、苦労した記事の裏話などをお届けしていきます!

今回は僕が企画・編集した記事について。

◆ ◆ ◆

9月19日に特集記事「【プロの添削】よいアニメレビューを書くには? ~藤津亮太のアニメ文章道場~」を公開しました。



アニメ評論家であり、アニメ!アニメ!で「藤津亮太のアニメの門V」を連載中の藤津亮太さんに、アニメレビューのコツを教えてもらおうという企画です。
読者の皆さんからご応募いただいたアニメレビュー原稿を添削いただき、具体的なリライト過程からレビューに必要な心得やノウハウを伝授してもらいました。

添削企画ということで、カギとなるのは読者様からのご応募。「どれだけ集まるかなぁ……10本は集まるといいなぁ」とドキドキしていたところ、最終的に集まったのは30本!
なおかつどの原稿も独自の着眼点があり、「どれを記事で使わせてもらおうかなぁ……」と悩んでしまうほどでした。

記事制作の流れは以下。
・藤津さん&編集部ともに全ての原稿を拝読

・オンラインMTで藤津さんに原稿全体への総評&各原稿への寸評をいただく/記事掲載用に添削する原稿を3本ピックアップ

・藤津さんに原稿3本を添削&コメントをしていただく

・ライターのいしじまえいわさんに藤津さんのコメントをまとめて頂く(記事掲載用&応募者様へ送付する寸評の2つ)

記事で掲載したのは3本の添削原稿のみですが、その他ご応募いただいた全員に寸評をお送りしました(藤津さん、かなり大変だったと思いますが、本当にありがとうございました……!)。

嬉しかったのは、寸評送付&記事公開後、ご応募くださった方がSNSやメールなどで「すごく参考になった!」とポジティブな反応をしてくれたこと。ブログでも紹介してくださった方もいらっしゃいました。
以下、僕が見つけられた範囲で掲載させていただきます。

>アニメ評論家の藤津亮太さんに「アニメレビュー」を添削してもらった話
>リズと青い鳥 -アニメ!アニメ!に応募した記事の改稿-
>「藤津亮太のアニメ文章道場」応募原稿(『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』レビュー)


たいていの記事は「メディア→読者」と一方通行な関係性になりがちですが、今回のように読者を巻きこんだ記事企画は今後も増やしていきたいですね。

ちなみに、僕もちゃっかりレビュー原稿を送り、藤津さんからフィードバックをもらいました。はい、完全に公私混同です。でもこんな機会めったにないですからね…!

ということで、せっかくなので僕の提出原稿と藤津さんからの寸評を掲載します。

提出原稿


    「世界観」という言葉がある。
    アニメの文脈では、ファンタジーやSF作品においてキャラクターを取り囲む世界や設定を指して「あの作品は世界観がいいね」なんて使われ方をする。
    だが、本来的には「その人がどういう視点で世界を捉えているか?」を表す言葉だ。生きている「世界」は同じであっても、「世界観」は人それぞれ違う。

    『少女革命ウテナ』の決めゼリフ「世界を革命する力を!」には、この「世界」というワードが含まれている。

    難解と評されがちな劇場版『少女革命ウテナ アドゥレセンス』も、上述した「世界観」をキーワードに読み解くと、作品が伝えるメッセージはシンプルであることが見えてくる。
    世界を絵で表現する本作の「美術」に作り手の意志を感じられるからだ。

    本作の美術を手がけたのは巨匠・小林七郎。『ガンバの冒険』や『あしたのジョー2』などで知られる氏の絵描きとしてのポリシーは「カメラのレンズが捉えた写実的な描写ではなく、心の眼で描く」というもの。つまり「主観」を絵に込めている。
    では、劇場版『ウテナ』の美術はどんな「主観」が反映されているのだろうか。

    ウテナとアンシーが暮らす鳳学園の背景を見てみると、白亜の学園建築、真っ赤な薔薇で埋め尽くされた空中庭園、部屋を埋め尽くす白い布など、全てのシーンが極限的な美に満ちている。
    鳳学園が「閉じた世界」であれば陰鬱に描くという発想もありえそうだが、理想化されたまでに美しい世界として描かれているのだ。
    この鳳学園が極限まで美しく描かれているからこそ、ウテナとアンシーが自らの意志で「外のセカイに出る」という決断をすることの重みが増してくる。

    さらに重要なのが、美しさが極まることで現実離れした「作られた世界」という印象を与えていることだ。
    とくに本作では「背景が動く」という驚きの表現が飛び出し、視聴者に「ありえない」という感覚をもたらす。背景原画をパーツ分けし、カメラ撮影して動かすというアナログ時代においてはかなり手間のかかる手法を用いており、作り手の意志があることは明らかだ。

    アニメーションは、「絵で描かれたキャラクターを本当に生きているように見せる」ものだとすると、ウテナとアンシーが暮らす世界を「リアル」に描く手法もあったはずだ。
    対して、本作では書き割り的な「つくられた世界」、つまり「虚構」であることが強調されている。

    「映画」という虚構から鑑賞者がエンドロールを迎えて必ず現実に戻ってくるものだとすれば、この「作られた世界」で暮らすウテナとアンシーもいつかは現実に戻ってくる……そうした予感も抱かせる。

    薔薇の花嫁をめぐるデュエリストとの決闘、"王子様"を失った過去との決別を経て、ウテナはアンシーを「閉じた世界」から「外の世界」へと連れ出そうとする。
    追手とのカーチェイスが展開されるクライマックスで印象的なのは、背景として描かれた「真っ白な城」が敵として立ちふさがること。
    アンシーとウテナが心をとらわれていた「王子様」、さらに視点を引いて見ればこれまで多くの少女マンガが描いてきた"王子様神話"のメタファーだ。

    王子様の姿をした鳳暁生の甘言を断ち切り、ついに「外の世界」に飛び出したウテナとアンシー。
    文字どおり裸一貫となったふたりを取り囲むのは、美麗さに満ちた鳳学園とは打って変わり、険しい「荒野」の世界。人が生きていくにはあまりにも困難そうだ。
    本作の美術がキャラクターの主観を反映させたものならば、なぜ幸せに満ちた明るい世界として描かなかったのだろうか。

    これは、ウテナとアンシーが「世界をリアルに捉える視点」を手に入れた、と解釈すれば納得がいく。
    夢のような「つくられた世界」に対して、えてして「現実」とは厳しいものである。とくに本作が公開された約20年に比べ、現在は情報すらも個人に最適化されつつあり、「世界をありのままに捉える」ことが難しくなっている。
    「信じたいものだけを信じる人」、アンシーの言葉を借りるなら「あの世界でしか王子様でいられない人」になりやすい時代なのだ。

    では、暁生やかつてのアンシーのように「生きたまま死んでいる」状態にならないためには、どうすればいいのか?
    ウテナが言うように「鍵」はすでに自分の手の中にある。
    美しく、気高く生きようとすること。「閉じた世界」から「外の世界」に飛び出そうとすること。「世界を革命する力を!」と声高に表明する、その「意志」こそが何より大切なのだ。

    ウテナとアンシーにとっての「革命」。それは自らの「世界観」を変容させることであった。

    ここで忘れてはいけないのは、「革命」が起きたのはウテナとアンシー、ふたりの内面だけではないということだ。
    観客自身の「世界観」も変容している。気高く美しく生きようとする、ふたりの「意志」に心を動かされたのならば。


藤津さんの寸評


    『ウテナ』は世界観が独特な作品ですが、ツカミとして「世界観」を本来の意味からたどっているのが先ず良いです。そこから、美術の話につながり、小林七郎さんの発言を引用、キャラクターの視点が変わったことがラストの荒野の描写につながる話など、「美術」を軸とした主張が首尾一貫しています。

    ただしテーマに対してやや冗長に感じられます。たとえば、下記一節、

    >難解と評されがちな劇場版『少女革命ウテナ アドゥレセンス』も、上述した「世界観」をキーワードに読み解くと、作品が伝えるメッセージはシンプルであることが見えてくる。
    世界を絵で表現する本作の「美術」に作り手の意志を感じられるからだ。

    こちらもカットでよいでしょう。現状2000文字程度ですが、削ぎ落として1200字ほどに圧縮すると切れ味が増すはずです。あるいは美術の話を800字程度におさめて、もう1テーマ盛り込んだり、作品全体の話に広げるなどしてあらためて2000字程度にまとめるのもよいでしょう。


たしかにご指摘のとおり冗長で、もっと圧縮できますね……。もっと精進します。

《沖本茂義》

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