集英社が2024年5月に創刊した、スマートフォン・タブレット端末向けの縦読みマンガサービス「ジャンプTOON」。コマを縦読みに組み替えフルカラー化された、メディア化で話題の人気作品の“タテカラー版”も目を引くが、本サービスならではの魅力がより光るのはここでしか読めないオリジナル作品の数々だろう。
本稿では、その「ジャンプTOON」オリジナル作品より注目作のひとつ『ラスボス少女アカリ~ワタシより強いやつに会いに現代に行く~』をピックアップ。アニメ化にも期待(妄想)を膨らませつつ、その面白さを紹介する。
■あらすじ紹介
「この世界にはもう期待できんか……」。とある異世界、最高難度のダンジョンのラスボスとして生まれた魔王アヴァロンは退屈していた。一万年もの長きにわたり、自分を倒すものが現れないためだ。ついにその世界に見切りをつけたアヴァロンは、究極転生魔法で生まれ変わることを決意する。自分を倒してくれる者と出会い、自分のラスボスとしての物語を終結させるために。

かくして、アヴァロンは20XX年の日本・東京で目覚めた。転生先となった少女……ちょうどその時死ぬ瞬間を迎えた少女・アカリは、残された日記によるといじめを苦に服毒自殺を遂げたらしい。「お前の体を使う駄賃代わりに、そのいじめっことやらには灸をすえてやるとしよう」。そして転生した翌朝。アヴァロンは“イメチェン”したアカリとして家を出る。


アヴァロン=アカリが辿り着いた新たな世界は、ある日突如として現れたゲートから出現するモンスター、およびそれらを狩るハンターが強い立場にあるらしい。そしてハンターたちを管理する組織や育成する学校もあり、元のアカリは学校で落ちこぼれていじめの標的になっていたようだ。アカリがそれらを把握した直後、街なかにモンスターが出現する。
政府も緊急事態と捉える災害級のモンスターだったが、アカリはそれを難なく倒してしまう。「ハンターとはモンスターを倒すもの。つまりモンスターよりも強いやつがいるのは必然。このレベルのやつに道端で出くわせるなら期待できそうだ。」まだ見ぬ強者を求めるアカリが学校に向かうと、校門には自分を目に留めてクスクスと笑う集団が待ち構えていた。
■アヴァロン=アカリという“ラスボス”主人公の活躍が爽快!
第1話はこういった筋書きで始まる本作だが、いわゆる“異世界転生×無双”の分かりやすい面白さが導入部分にありながら、とにもかくにもスクロールを誘ってくれるのはアヴァロン=アカリという“ラスボス”主人公のキャラクターとしての“魅力”だろう。
転生先となった少女は無念の最期を遂げているが、それを知ったアヴァロンは「弱き者の気持ちを本当の意味で分かってやることはできん」と吐露しつつ、せめて報いようと「そのいじめっことやらには灸をすえてやる」とだけ意気込み、少女として第二の生を始めるのが良い。
彼はあくまでも絶対的な強者なのだ。弱き目線に立つことは難しいが、一方でその強さに驕ることもない(なにせ、一万年も“ラスボス”として君臨していたのだ。その必要がどこにあろうか)。未知の世界へと踏み出しても余裕のある、達観した振る舞いであっという間に無双するその姿は、いかにも読者が期待する“ラスボス”だろう。その竹を割ったような性格は、“異世界転生×無双”に馴染みの薄い読者の目にも爽快な主人公として映るはずだ。

また、それだけにアカリのキャラクターが非常に立っており、アニメにも親しむ読者ならば、読んでいる段階からすでに脳内で声が聞こえてくる、なんてこともあるのでは。アヴァロンとしての声、アカリとしての声と……筆者の頭の中では既にダブルキャストによるセリフが響いている。
そして、そのアカリに人間として最初に立ちはだかるのが、いかにもないじめっこの三年頭目・柏木である。第2話で彼を調子づかせる、胸ぐらを掴まれ脅されたアカリが涙をこぼしたその理由は、本作の冒頭のハイライトのひとつだろう。その後は柏木との戦いぶりを聞きつけ、“Aランクハンター”の肩書きを持ついかにも強者然とした生徒会長・間島華南もアカリに目を付ける。アカリはあくまでまだ見ぬ強敵を求めているだけで、自ら強さを誇示したいわけではない。
キャラクターとして非常に魅力的なアカリを主人公としつつ、ストーリー展開においてはアカリに相対する彼らが推進力となっていくのもまた本作の面白さだろう。
■「縦読みマンガ」で際立つセリフ、引き立つ表情!バトルに“ならでは”の魅せ方も
そんな本作だが、「縦読みマンガ」という形式もその魅力をより引き立てていることに触れておきたい。
縦読みマンガは1コマ1コマを上から下へと読む形式だけに、画面をスクロールするたび視界に飛び込んでくる吹き出し(セリフ)、キャラクターの表情の1つ1つが、横読みマンガのそれ以上に強く印象に残る。竹を割ったような性格が爽快なアカリのカラッとした話しぶりと豊かな表情(筆者は特に、八重歯を覗かせての余裕ある笑みが好きだ)は、縦読みマンガだからこそより魅力的に見えているものでは。いじめっこの柏木や生徒会長の華南らアカリに関わる人物たちも、縦読みマンガだからこそそのキャラクターが引き立っている部分もあるはずだ。
もしアニメ化されるとしたら、印象的なセリフや表情はぜひ寄りの画面で見せてほしい!……と想像してしまうのは、きっと筆者だけではないだろう。




逆に、縦読みだけに描き方に制約がありそうなもののひとつに“バトルアクション”の描写があるが、本作はここにも“ならでは”のものが光る。バトルアクションも本作の大きな見どころのひとつだが、縦長のコマを生かした縦方向への動きを感じさせる描写は、むしろ横読みマンガ以上に躍動感がある(なにせ、スクロールして読まれることによって、実際に動きが生まれるのだ)。
冒頭で描かれるvs柏木戦、第2話でのアカリが柏木を壁に叩きつける攻撃、第3話での柏木がアカリへ火球を放つ攻撃などはその典型例だろう。スマホで読む読者ならば、画面いっぱいに広がりより迫力が増して見えるのではなかろうか。マンガでのバトルアクション描写といえば見開きを使った大画面のものを想像しがちな読者こそ、“ならでは”の良さに気付けるはずだ。こういった描写も、アニメ化があればいかにも映像映えしそうだ。
・現代日本でハンターvsモンスター!? 妄想膨らむ“現代ファンタジー風日本”という舞台
またアニメ化といえば、現代……かと思いきや跋扈するモンスターとそれを狩るハンターが幅を利かせる現代ファンタジー風の日本、という本作の舞台も、妄想が膨らむうってつけの設定だけにぜひ取り上げておきたい。
第1話において、(元のアカリの日記に「MPは上がらない」「Eランクのまま」と匂わせるワードはあったが)現代日本かと思わせておいてアカリが外に出たとたんにモンスターとハンターの存在が明かされたのは、まさにアカリに同調するようなタイミングで読者にも新たな世界への期待をもたらしてくれた。第1話における、都内と思しき市街地での戦いは(アカリがあっという間に勝ったために)仔細が描かれていないが、以降のエピソードで描かれるものを含め「現代日本(風)の市街地で繰り広げられるハンターvsモンスター」の描写などはぜひアニメの背景美術として堪能してみたいものである。

……と、見どころ満載の『ラスボス少女アカリ~ワタシより強いやつに会いに現代に行く~』は「ジャンプTOON」にて配信中だ。3話分が完全無料で、最新話は毎週水曜日に更新される。
また、一定時間待つと無料で作品を読める「待てば無料」を利用して楽しむこともできるので、JKに現代転生した最強ラスボスの爽快な活躍を、ぜひこの機会に追いかけてみてほしい。
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【 「ジャンプTOON」概要 】
[サービス名]ジャンプTOON(ジャンプトゥーン)
[サービス開始日]2024年5月29日(水)
『ラスボス少女アカリ~ワタシより強いやつに会いに現代に行く~』
(C)岸馬きらく・酒ヶ峰ある/集英社