村上春樹の短編を組み合わせた「めくらやなぎと眠る女」で新たに生まれた文脈【藤津亮太のアニメの門V 109回】 4ページ目 | アニメ!アニメ!

村上春樹の短編を組み合わせた「めくらやなぎと眠る女」で新たに生まれた文脈【藤津亮太のアニメの門V 109回】

村上春樹の原作を初めてアニメ映画化した『めくらやなぎと眠る女』。音楽家でアニメーション作家のピエール・フォルデス監督が、村上春樹の6つの短編を再構築した作品だ。

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藤津亮太のアニメの門V
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片桐は通勤電車でまどろんでおり、そこで片桐は宙を飛ぶみみずくんの中に囚われている。この映画オリジナルのイメージシーンに、かえるくんは登場しない。フォルデス監督は、かえるくんは片桐のアルターエゴ(別人格)であると説明するが、あえて解釈するならば、この夢の中で片桐がみみずくんの気配を感じたからこそ、かえるくんは現れた、というふうにも考えることができる。  

いずれにせよ“普通”に生きている小村と違い、片桐はもっと冴えない、もっと何も持っていない、取るに足らない(ような)人間として描かれる。本人の自己認識もそのようなものだ。そんな片桐が、かえるくんと協力して、東京を震災で救う使命を引き受けることになる。  

“普通”である小村がどんどんその“普通”を引き剥がされていくのに対し、片桐はかえるくんを通じて何もないところから、自分を発見していく。最後のかえるくんの戦いも、片桐は実際には意識を失っていて参加できるはずがなかった。しかしかえるくんは、意識を失った片桐が、東京の地下で繰り広げられたみみずくんとの戦いで、いかに勇敢に自分を支えてくれたかを語る。片桐もまた夢の中で覚醒したのである。  

すべてが終わったあと、片桐がかえるくんが語った『アンナ・カレーニナ』の本を買ったのは(これは映画オリジナルのエピソード)、彼の覚醒の勲章であり、同時にかえるくんとの友情の証なのである。  

では、キョウコは本作の中でどのように描かれたか。失踪までは小村の視点でしか描かれないキョウコ。彼女の内面に迫る手がかりとなるのは<5>のエピソードだ。


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《藤津亮太》

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