■火星はおとぎ話のための方便
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――本作ではなぜ火星を舞台にしようと思ったのでしょうか。
渡辺:最初に企画を考えた時は、実は舞台は地球だったんです。でも、企画を進めていくうちに色々とやりにくくなってきた。
例えば言語の問題で、地球であるならみんなが共通語を話してるのもどうかと思うし、政治とか難民とかの話が出てきた時に、センシティブな問題も出てくるし、そこで余計な引っかかりができてしまうのが邪魔なんです。
だから、舞台が火星なのは、世界を抽象化、デフォルメすることで、ある種のおとぎ話として描くための方便なんです。そういう抽象化は、アニメの得意技だと思うので。
そもそも、近年のアニメって設定を複雑に作りすぎて、それを説明するために多大な時間を要してしまう。今回やりたいのはそういう世界観を見せることじゃないんで、あえて地球と大きく変わらない設定にしてます。
そのうえで、スーツケースがAIになってて自動的についてくるという、その程度の未来感にとどめて世界に入りやすいようにしています。
■渡辺監督作品はすべてつながっている?
――ところで本作の火星では、ウーロンという通貨単位が使われています。これは渡辺監督が手がけた『カウボーイビバップ』と共通のものですが、意図的に設定に加えたのでしょうか。
渡辺:まあ一応、自分の作品はどれも江戸時代からずっとゆるくつながってるということで、実は細かい設定をいちいち考えるのが面倒くさいというのが理由ですが(笑)。
ただしそれぞれ権利者が違うので、アベンジャーズみたいにいっぺんに出てきたりすることはないと思います(笑)。
――『キャロル&チューズデイ』に参加したアーティストの中にも、渡辺監督作品のファンが多数いますね。スキップの曲を提供したサンダーキャットさんは『カウボーイビバップ』のセリフを刺青で入れるほどのファンだそうで。
渡辺:やはり、日頃の行いがよかったんじゃないかと(笑)。いや、実は最初に決定した劇伴担当のモッキーさんと、ベニー・シングスさんの存在が大きかったんじゃないかな。
彼らはミュージシャンの間ですごく尊敬されてるんで、「このふたりが参加してるんならやるよ!」と言ってくれた人もいました。
■チューズデイが手をケガした本当の理由
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――実際にあがってきた曲を聴いて、演出やシナリオを変更したことはありましたか。
渡辺:もちろんあります。たとえば11話「With or Without You」で演奏した「Lost My Way」は、最初のデモではピアノだけだったんです。でもそれだとチューズデイがやる事ないんで、ギターも足してもらったんですけど、聞いてみるとやっぱりピアノオンリーのバージョンのほうがいいなと。
それでストーリーのほうを変更して、チューズデイがギターを弾けなくすることにしようと。その結果生まれたのが、チューズデイが手をケガするエピソードです。
――そうだったんですね!
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