「キャロル&チューズデイ」渡辺信一郎監督が語る、最終話の舞台裏そして今後の作品づくりは?【インタビュー】 | アニメ!アニメ!

「キャロル&チューズデイ」渡辺信一郎監督が語る、最終話の舞台裏そして今後の作品づくりは?【インタビュー】

『キャロル&チューズデイ』より渡辺信一郎総監督にインタビュー。音楽や物語などにまつわる制作秘話や、今後の作品づくりの意欲もうかがった。

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『キャロル&チューズデイ』(C)ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会
『キャロル&チューズデイ』(C)ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会 全 15 枚 拡大写真
“奇跡の7分間”で最高のフィナーレを飾った『キャロル&チューズデイ』。数々の楽曲、音楽に真正面から向き合ったストーリー、魂のこもった作画や声に心動かされた人も多いだろう。10月30日には『VOCAL COLLECTION Vol.2』や『ORIGINAL SOUND TRACK』の発売も予定されており、まだまだ目が離せない。

本作は『カウボーイビバップ』などで抜群の音楽センスを見せた渡辺信一郎総監督の集大成ともいえる作品。
そこで渡辺監督を直撃し、音楽や物語などにまつわる制作秘話や、今後の展開に迫る。さらに『キャロル&チューズデイ』を終えた監督に、今後の作品づくりの意欲もうかがってみた。
[取材・構成=ハシビロコ/撮影=HitomiKamata]

渡辺信一郎総監督渡辺信一郎監督

■音楽が生まれる瞬間を描きたかった


――『キャロル&チューズデイ』は、くり返し描かれる「曲作りのシーン」が印象的です。演奏シーンのみならず、なぜ音楽が生まれるまでの過程を見せることに力を入れているのでしょう?

渡辺:アニメで音楽ものって色々あるけど、自分が音楽をテーマにした作品をやるなら、「音楽が生まれる瞬間」を描きたいと思ったからです。
直接のきっかけは、ジョン・カーニー監督の映画『はじまりのうた』と『シング・ストリート未来へのうた』()。どちらも曲を作る過程を描いてて、そこが面白かった。

未完成の曲を聞かせるのでもエンターテインメントたりえる、というか俺もああいうのやりたいなと(笑)。まあ、結果的にはだいぶ違う作品になったと思いますが。

※『はじまりのうた』は恋人と別れて失意の底にいた女性ミュージシャンと、落ちぶれた音楽プロデューサーがタッグを組み、新たな一歩を踏み出す物語。『シング・ストリート未来へのうた』は1985年のダブリンを舞台に、夢に向かって挑戦する高校生バンドを描いた作品。


――1話「True Colors」でキャロルとチューズデイが曲を作るシーンは、どのような手順で制作しましたか。


渡辺:作曲とプロデュースのベニー・シングスさんに、曲づくりの過程を思い出してもらいつつ音を録音してもらい、その音に合わせて日本のミュージシャンにエア演奏してもらって、それを実写で撮影、編集。それをもとにアニメーターが作画してます。

実写映画を撮ってからアニメを作っているようなものなんで手間はかかるけど、演奏者の無意識の動きを含めたニュアンス、グルーヴ感みたいなものは想像では描けない。リアリティーを出すためにはこの作業が必要なんです。

――火星を舞台としていたり、AIによる音楽制作が普及していたりとSFテイストな世界観ですが、音楽描写は徹底してリアルに描かれているように見えます。

渡辺:SF的な部分は背景にすぎなくて、今作は音楽というものの素晴らしさと、音楽をやりたいという初期衝動をもった女の子たちを描く、というのがいちばんやりたかった事です。
だから、演奏シーンが嘘っぽく見えてしまったら意味がないし、そこは時間がかかってもこだわるポイントなんです。

――初対面だったキャロルとチューズデイが曲作りをしながら心を通わせるシーンでもありましたね。その後の曲作りからもふたりの成長が伝わってきます。

渡辺:キャロルとチューズデイの触れ合いとか絆が深まっていくのを、なるべくセリフとかじゃなくて音楽シーンで見せたいと思ってました。
今回は単に音楽を題材にした作品、っていうんじゃなくて、表現手段そのものが音楽であること、それがやりたかった。歌のシーンになったら、ハイここからは歌、と分かれるんじゃなくて、歌の中にもストーリーがあるんです。

たとえば6話で、スキップとクリスタルのシーンは台詞だけでは分かんないかも知れないけど、それは歌のシーン込みで表現してるんです。だから、内容を分かってもらうために歌詞に字幕をつけたんです。


■政治を抜きに音楽は描けない時代



――第1クールはキャロル&チューズデイの結成からデビューまで、第2クールは社会の中で歌うことの意味を模索していく物語だと感じました。音楽と社会のつながりを描こうと思った理由は?

渡辺:第1クールではそもそも、キャロチューのふたりはデビューもしてないし、自分たちのことで精一杯で、他のことはあんまり目に入ってない。
自分たちを確立した第2クールで、やっと自分たち以外のことが見えてくる感じですね。

第2クールの大筋は「他者との出会いの中でふたりが成長していくこと」。
その他者というのは、デズモンドとかフローラみたいな、彼女たちがこれまでに会ったことのないような人たちだったする場合もあるけど、自分たち以外のもの、たとえば社会みたいな事もそこに含まるんじゃないかと。

それまであまり考えたことのなかった、「社会の中の自分たち」みたいなことも考えざるをえない、そういう流れの一貫として政治的なものも出してるつもりです。
だから政治ドラマにしたかったわけじゃなくて、彼女たちの成長の一貫としての描写なんです。

ただ、『キャロチュー』に政治的な話が出てくると嫌がる人もいるみたいで。

――そうなんですね……。

渡辺:でも現代の音楽シーンを見たら、テイラー・スウィフトやビヨンセだって政治にコミットせざるを得ない時代です。
ミュージシャンが、ただいい曲をつくって良かったねってだけの話じゃ済まない。別に、特定の政治家とか事件を揶揄したり、なんてことがしたいんじゃないんです。
いまの空気を吸って生きていれば、こういう話になるほうがむしろ自然じゃないかなと。

――Netflixで全世界に配信されることも、政治要素を入れることの後押しになったのでしょうか。

渡辺:そう、世界的な視点で見ればこんなのむしろ普通じゃないかな。「『キャロル&チューズデイ』にすら政治が出てこざるをえない」状況という事です。


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《ハシビロコ》

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