「声優の歴史」を体系的に学ぶには? オススメの書籍やムックを紹介【藤津亮太のアニメの門V 第46回】 | アニメ!アニメ!

「声優の歴史」を体系的に学ぶには? オススメの書籍やムックを紹介【藤津亮太のアニメの門V 第46回】

アニメ評論家・藤津亮太の連載「アニメの門V」。第46回目は、声優の歴史に関する話題。「声優の歴史」を調べたい人のために、オススメの書籍やムック、論文を紹介する。

連載・コラム 藤津亮太のアニメの門V
  
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5月末に新しい単行本『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』(河出書房新社)が出版される。

同書は雑誌「Febri」で連載されていた連載「声優語」の後半13人分をまとめた単行本で、朴ロ美(ロは「王」偏に「路」)、井上和彦、飛田展男、大谷育江、速水奨、関智一、富永みーな、森川智之、宮本充、千葉繁、平田広明、田中真弓、三ツ矢雄二(敬称略)にうかかがったインタビューがまとめられている(なお連載前半は最初の単行本『声優語』に収められている)。

『わたしの声優道』に収められたインタビューは「芸談」と呼ばれるタイプのものだが、、この仕事がきっかけになったのか、決して声優取材が多い方のライターではない筆者にいくつか声優絡みの仕事の依頼がくることになった。
『アニメ研究入門【応用編】』(現代書館)の「声優論」の項目の執筆もそうした仕事のひとつだった。

今回は、そうした仕事を通じて調べた様々なテーマの中から、声優の歴史に関する話題を取り上げたい。

といっても「声優の歴史そのもの」を取り上げるわけではない。取り上げるのは「声優の歴史に関する本」だ。
書籍やムック(とそこに掲載された原稿)を取り上げることで、自分なりに声優の歴史を調べたい人の参考にしてもらおうというわけだ。

というのも「声優の歴史」については、「これまで何回ブームがあったのか」などに対する「大枠の歴史」はだいたい確定しているのだ(もちろんこれから研究の精度が高まれば見直しも行われるだろうが、既に議論の前提とできる程度の確度は備わっている)。
にもかかわらず、これが頭の中に入っている人は決して多くない。
例えばメディアがなんとなく雰囲気で「最近になって人気が出ててきた職業・声優」と語ってしまうことを拒むためにも、「大枠の歴史」はもっと知られたほうがいいと思うからだ。

まず大きな流れを知るのに、一番アクセスしやすいのが『声優論 アニメを彩る女神たち ~島本須美から雨宮天まで~』(河出書房新社、小森健太朗+遊井かなめ編)に収録された、夏葉薫による「声優史概説」だ。

7ページのコンパクトな原稿ながら、戦前から現在までの声優の歴史が総覧されている。いわゆる一般媒体で声優特集を組もうと思うなら、関係者は一読すべき原稿だ。

本原稿のポイントは、冒頭に置かれた「声優の歴史は、音声メディアの変遷である」という一文で、「音声メディア」の変遷という明確な切り口で歴史を追っている点だ。
この観点を使いつつ、声優の誕生とラジオドラマの人気から始まり、外画の吹き替えを中心にした第1次ブーム、'80年前後のアニメブームと軌を一にした第2次ブームと、そして'90年代に入った第3次ブームと大きな流れがわかりやすくまとめられている。

この原稿に先行して、声優の歴史についてまとまったページを割いているのが2000年に出版された『声優白書』(オークラ出版、松田咲實)。松田は、声優事務所アーツビジョンの創業社長である。
この第1章が「声優の歴史」と題されており、序盤に「業界の一般的な捉え方」としてこれまで第1次~第3次の声優ブームがあったと紹介がされている。

またこの第1章では、声優が出演条件の改善をもとめて、デモなどさまざまな運動を行ってきたことも解説されている。
同書は業界の仕組み、プロになるために求められること、マネージャーの仕事などまんべんなく触れており、出版から時間は経っているものの、声優について語るのであれば目を通したい1冊といえる。

なお同書が扱った要素の一部を現代的にアップデートしたのが『声優をプロデュース。』(星海社新書、納谷 僚介)といえる(著者の納谷は声優事務所マウスプロモーションの前社長)。

主に1960年代以降の記述がメインの『声優白書』に対して、1985年出版の『声優名鑑 アニメーションから洋画まで…』(近代映画社)に掲載された「声優の歴史」は、戦中のラジオから話題を始め、「声優」という仕事が確立していく黎明期を中心に記されている。

筆者は自らも声優で、勝田声優学院も主宰していた勝田久。
本稿は、役者サイドだけでなく、日本語吹き替えが技術的にどのように確立されたかにもかなりの紙幅が割かれており、「声優」を語る時に録音技術もまた射程に入れなくてはならないことを教えてくれる。
勝田はこの原稿に先立つ1979年に『声優のすべて』(集英社)も出版しており、そちらにも声優の歴史に関する記述がある。

一般書籍で発表されたこの2つの原稿を、学術方面から補完している論文もある。
こちらは決してアクセスしやすいものではないが、もし機会があれば目を通すと、一般的な概論よりも、声優のなりたちについてより深く考えるためのヒントが得られる。

まず第一に「メディア史研究」に掲載された森川友義と辻谷耕史の2つの論文。
同VOL.13(2002)に「声優の誕生とその発展」、同VOL.14(2003)に「声優のプロ誕生―海外テレビドラマと声優―」を発表して、戦前のラジオ放送の時代から戦後の吹き替えの時代までの変遷を追っている。いうまでもなく著者のひとり、辻谷耕史は声優・音響監督としても知られている。

もうひとつはアニメーション学会の学会誌「アニメーション研究」第16巻第2号(2015)に掲載された「声優試論―『アニメブーム』に見る職業声優の転換点」(小林翔、京都精華大学大学院マンガ研究科)。
こちらは声優の歴史を整理しつつ、1977年から始まったアニメブームの中でどのような変化が起きたかに迫っている。
ここでは、演劇経験がなく、アニメーションに憧れ養成所出身で声優となった麻上洋子(現・一龍斎春水)を「アニメ声優第1号」と位置づけていることが印象に残る。

こうした概論を前提に、さまざまな当事者の回想録・インタビューなどを読むと、それぞれの話題がより立体的に迫ってくることになる。

たとえば第1次ブームの代表的存在として、「追っかけがいた」と語られる野沢那智。『とり・みきの映画吹替王』(洋泉社)の野沢インタビューを読むと、本人の口からその実態が語られている。さらにいうとこのインタビューでは、森川・辻谷論文でも言及のある「声優のギャラは俳優の7掛け」というギャランティの話などにも触れられている。

まだまだフォローできていない本や原稿はあるだろうと思うが、これから何かを調べ始めようとする人、メディアで声優について言及しようとしている人の入り口になればと思う。

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』、『声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~ 』がある。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。

《藤津亮太》

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