「バーチャルさんはみている」は“アニメ”なのか? 従来アニメとの決定的な違いは…【藤津亮太のアニメの門 第43回】 | アニメ!アニメ!

「バーチャルさんはみている」は“アニメ”なのか? 従来アニメとの決定的な違いは…【藤津亮太のアニメの門 第43回】

アニメ評論家・藤津亮太の連載「アニメの門V」。第43回目は、2019年1月より放送中の『バーチャルさんはみている』を題材に、「アニメとは何なのか?」を考える。

連載 藤津亮太のアニメの門V
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2019年はまだ始まったばかりだが、いろいろな意味で「2019年ならではの1作」を挙げるなら、それはもう『バーチャルさんはみている』で決まりなのではないだろうか。

これは、人気のあるバーチャルYoutuber(Vtuber)を絡ませてコントをやらせようというコンセプト番組だ。
まず、このコンセプトからして2019年でしかありえない。各Vtuberの人気頼みの徒花企画としても(だからこそ?)極めて“2019年的”だし、逆に、今後こうしたVtuberをタレント的に起用する番組が定着したとしても、この番組がスタート地点であるのは間違いない。

これまでに3DCGキャラクターを使って、コントっぽかったり、フリートークっぽかったりする笑いを繰り広げる作品はあった。『gdgd妖精s』から『ひもてはうす』に続く作品群がそれに相当する。

けれど『バーチャルさんはみている』は、それらの作品とも似ているようで決定的に違っている。

ひとつはカメラと使い方。
『バーチャルさんは見てる』はポイントポイントで手持ちカメラ風のカメラワークが挿入される。
たとえばメインの6人がそれぞれネタを披露するシーンでは、各人をとらえる時にほぼ手持ちカメラが採用されている。
Vtuberが実にバタバタと上半身を動かすので、それを追いかけるためなのかもしれない。

このカメラワークは、Vtuberが「そこにいる」感覚を強調することになる。
もちろんVtuberはバーチャル空間内には実在しているわけだから、手持ちカメラが採用されるのは極めて自然なことではある。

ただ一方で、こうしたフレームの揺れは、笑いを楽しもうとすると案外ノイズになってくる。
キャラクターの会話のやりとりの中で、どうメリハリをつけて、流れを作るのか。そういう発想とはコンフリクトしている。
過去の3DCGキャラクターによるコントは、コントを伝えるためのカメラワークに軸足があったことと比べると大きく違う。

この点は会話をどう見せているかに注目するとさらに差ははっきりする。
『バーチャルさんはみている』は、Vtuber同士の会話の時にカット割りを工夫することで会話のリズムを整え、伝えたいところを強調するということをしていないのだ。

『バーチャルさんはみている』のカットつなぎは、ステージ上にいるキャラクターを生中継感覚で捉えて、キャラクターをなるべく均等になるようにスイッチングしている感覚に近い。
つまり本作は、コントよりも「Vtuberがそこにいること」を強調した作りになっているのだ。

この「ノイズの多さ」という特徴は、手持ちカメラの多用だけではない。Vtuberの演技についてもいうことができる。
『バーチャルさんはみている』を見ているとわかるとおり、Vtuberは腕を顔の近くに持ち上げつつ、上半身全体を使って動きながらしゃべることが多い。

これはVtuberがVtuberとして振る舞っている時の動きを引き継いでいるがゆえの特性なのかもしれない。
だが、その時とはフレームも目的も異なっている。だから、演技としてみるとかなり不思議なものになっている。

当然ながらこうした動きの「ノイズ」も笑いを伝えることにはあまり貢献していない。お笑いのための動きになっていないからだ。
だがこれもVtuberというキャラクターを見せるための動きだと考えれば理解ができる。

つまり『バーチャルさんはみている』という番組は、笑いは入り口、番組らしくするためのギミックに過ぎず、ゴールをVtuberをTVで(実況映像風に)活躍させるというところに設定して作られているのだ。

そう考えると、Vtuberの3DCGモデルが、動く度にパーツが食い込んでも、物を持ったり扉を開けたりする様子がぎこちないことをまったく気にしていないことも納得がいく。
それがVtuberなのだから、別に3DCGアニメキャラクターのような作りである必要はないのである。

そういう意味で『バーチャルさんはみている』は「アニメ」に分類されているけれど、アニメとは決定的に違う。
これは『バーチャルさんはみている』を見ていると、「アニメとは何なのか?」を考えさせられるということでもある。

アニメというメディアが担う役割はいくつかあるが、ビジネス的には「TV放送を通じて、多くの人にキャラクターを共有させる」というのはその中でも大きなものだ。
ここでポイントなのは、キャラクターの共有には、劇中の物語をを通じて視聴者とキャラクターの間にある種の関係性を築くということに大きな意味があるのだ。

ところが最近はソーシャルゲームや今回のVtuberのように、アニメ化以前に、ある種の関係性がしっかりできているメディアが登場してきた(マンガなどの原作ものは、ケースバイケースなのでここではちょっと置いておく)。
そうなるとアニメは、その関係性を再確認するメディアという意味合いが強くなる。
もちろんアニメを入り口にしてVtuberに関心を持つ人もいるだろうけれど、そこはおそらくメインのターゲットではない。
楽しそうにしていたら興味を持ってもらえるだろうというぐらいのさじ加減ではないだろうか。

アニメを楽しむということの何割かはキャラクターを楽しむ(それは時に消費の様相を呈するわけだが)ことである以上、他のメディアで既に出来上がっているキャラクターを楽しむだけのアニメが出てくるのは必然といえる。
2年ほど前から垣間見えてきたこの傾向が、Vtuberという異質なものを取り扱った結果、『バーチャルさんはみている』ではでそれが特に際立って見えているのだ。

そしてたぶんこれからこういう傾向は広がっていくのではないかと思う。
そういう意味でも2019年に『バーチャルさんは見ていた』があったことを覚えておくことに意味があると思う。

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』、『声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~ 』がある。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。

《藤津亮太》

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