“漫画が芸術となるのは素敵なこと” ルーヴル美術館特別展音声ガイド神谷浩史インタビュー
7月22日より森アーツセンターギャラリーにて開催中の、ルーヴル美術館特別展「ルーヴルNo.9~漫画、9番目の芸術~」。展示会場で聴くことができる音声ガイドを担当する神谷浩史さんに話をうかがった。
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フランス、ベルギーのフランス語圏で広く親しまれている漫画=バンド・デシネ(BD)。20世紀後半には「第九の芸術」と称されるようになり、フランスは国を挙げてBD作家を支援している。ルーヴル美術館は2003年に「ルーヴル美術館 BDプロジェクト」を立ち上げ、フランス国内外の作家を対象に“ルーヴル美術館をテーマに自由に描く”というオファーを出した。日本からも数々の有名漫画家が参加しており、すでに作品を発表済みの荒木飛呂彦、谷口ジロー、松本大洋のほか、この特別展のために新たに五十嵐大介、坂本眞一、寺田克也、ヤマザキマリが加わり、ルーヴルをテーマにした作品を描き下ろしている。
展示会場で聴くことができる音声ガイドを吹き込んだのは、人気声優の神谷浩史さん。漫画を芸術として案内する役にどのような気持ちで挑んだのか。さらにはご自身の漫画の思い出まで、たっぷりとお話を伺った。
[取材・構成=大曲智子]
ルーヴル美術館特別展 「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」
http://manga-9art.com/
■音声ガイドの設定は、キュレーター風のBDオタク
――漫画でルーヴル美術館を表現するというプロジェクト「ルーヴル No.9」、とても面白い企画ですね。神谷さんはどのように感じましたか?
神谷浩史(以下、神谷)
そもそも僕が不勉強なせいで芸術に対する定義が曖昧なところでの感想になってしまうのですが…芸術作品って瞬間的に生まれるものではなく、時を経て後の世に芸術作品として認められるというような歴史を感じるイメージがあります。一方で漫画というと、子供の頃から慣れ親しんでいるものというイメージ。日本の漫画もフランス語圏のBDも、ストーリーを考え、コマ割りを作り、複数の絵を描く…基本的にひとりの作家が生み出すものとしては相当な労力を要するものだと思うんです。それをルーヴル美術館が芸術作品として扱うというのは、とても素晴らしいことだと思いました。
――その音声ガイドを神谷さんが担当されましたが、収録にあたってどんな準備をされたのでしょうか?
神谷
事前にいただいた原稿をもとに、なるべく調べられる範囲で、作家さんのことを調べました。16作品あるのですが、それぞれに「こういう雰囲気でお願いします」というような指定があったので、それをもとに自分なりに考えて持っていきました。スタジオでそれを披露し、制作サイドのスタッフさんたちとイメージをすり合わせるといった感じです。
――神谷さんならではの音声ガイドとして、どんな特徴があるのでしょうか。
神谷
まず語り部としての設定があるんです。音声ガイドのイメージというか、キャラクター設定のようなものとして、「知的でクール。スマートなキュレーター風」という指定がされていました。その彼は「BDオタク」でもあるということで、特に好きな作品について語るときはちょっとそういう部分が出てきたりもする。作品の中にフキダシがあると、登場人物になりきって読んでしまう癖もある。僕の職業柄、セリフを音にするのは通常業務なので、そこは存分にやらせていただきました。
――BDアーティスト、日本の漫画家、全16人による16作品で構成される展示となります。展示全体を見てどんな印象を持ちましたか。
神谷
日本で言うところの漫画がフランス語圏ではBDと呼ばれていて、日本の漫画とは受け入れられ方が少し違うんですよね。日本の漫画はコンビニでも手軽に購入できますが、フランスのBDは主に大型書店で取り扱われているとか。作風の違いは見た目からも感じ取ることができます。その違いを感じると、もうちょっと日本の漫画家さんたちを優遇してあげてもいいのになって思ったりもしますけれどね。
――構図やタッチなど作風そのものも違いますしね。
神谷
今回参加されている谷口ジローさんの漫画は僕もとても好きなんですが、谷口さんのあるインタビューを読んだとき、「1コマ描くのに一日かかることもある」とおっしゃっていたことに驚いて。それだけ緻密な絵作りをされているから、谷口さんの作品はBD文化のフランスでも受け入れられ人気が高いのかもしれません。でも日本では雑誌連載の月刊や週刊ペースでの発表が一般的ですから、制作するにあたってはスピードが求めらるのも事実だと思います。
――日本の漫画はスピーディに読まれることが多いというのも、作り方に影響しているのかもしれません。
神谷
そうですね。いろんな面で、漫画のあり方そのものが日本とフランスでは違うということを感じました。理想とする絵にたどり着くまで筆を入れ、時間の概念から解き放たれたところで制作し、きちんと発表できるということが理想だとは思うんですが、日本の漫画家さんのペースだとなかなかそれは難しい。ジレンマの中で作品を生み出すことがプロなのだろうとも思いますし、僕らも声優として限られた時間の中でベストを尽くすという課題を常に課せられていますから、制限の中で奮闘する気持ちもよくわかります。BDは基本的にフルカラーで、1年に1冊くらいという制作ペースだそうなので、その違いも今回の展示では理解していただけると思います。
(次のページへ続く)
《大曲智子》
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