「生き残るメディア 死ぬメディア」 インタビューを通して見るメディアの最前線
12月に上梓された まつもとあつし氏の著書「生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスの行方」(アスキー新書)は、なんとも刺激的なタイトルだ。
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ただし、街中にあまた溢れるスマートフォンから電子書籍、ソーシャルメディアなどのメディア関連本から特に本書を手に取るべき理由は、情報の新しさだけでない。まつもと氏のメディアに対する視線、インタビュー形式という入り込み易いスタイルにある。
ITに結びつく新しいメディアの変化は、テクノロジーや企業戦略、あるいは社会論で語られることが多い。しかし、そうした変化は実は、個性的な人によって引っ張られてことが多い。まつもと氏はここでその人に目をつける。人の言葉を借りることでより分かりやすく説明するだけでなく、しばしばものごとを左右する人の思いの部分を伝える。
また、インタビューのかたちは、情報としてのキーパーソンの言葉だけでなく、そのインタビューイーを選んだ まつもと氏自身の視点も伝えている。彼がいまメディアで最も重要だと考えた人たちだ。さらに質問の選択を通じて、まつもと氏が考えるメディアへの関心、メディアのシフト、その中でのソーシャルの重要性が伝わる。
もともと本書は、アスキー・メディアワークスの情報サイト「ASCII.jp」で連載している「メディア維新を行く」を基に構成されたものだ。連載時には分断されていた情報が、書籍になりつながったことで、個別のインタビューや記事も意図もつながって見えて来た。例えば、ニコニコ動画、YouTube、Gyao!とつながれば、著者の意図することは明白だ。
ただ、電子書籍、動画配信、ソーシャルサービスのつながりは明らかになるのだが、その今後の方向性への踏み込みはやや物足らなく感じた。過去のメディアのビジネスモデル、そして現在起きている変化については合理的に説明されている。納得が出来る。
しかし例えばアニメビジネスのバリューチェーンの再構築が必要としたら、具体的にどういったモデルが可能なのか、映像以外で利益を得る「グッドウィルモデル」はいかに成立するのか、そうしたことをより詳しく知りたいと感じた。勿論、これだけ複雑化した状況に回答を与える難しさは承知のうえだ。
というのも、まつもと氏は「メディア維新を行く」の未掲載のインタビューでその考察を進めているからだ。それが分かっているだけに、本書では優れた小説の前編だけを与えられたような歯がゆさも感じる。本書に未収録の連載では、共感型のマーケティングに成功した『イヴの時間』や無料配布のDVDでビジネスを成立させた『ブラック★ロックシューター』などアニメ関係者にも興味深いインタビューが豊富だ。おそらく遠くない将来に実現するであろう新たな本により、まつもと氏はこの分野の論客としてさらに注目されるに違いない。
[数土直志]
ASCII.jp:まつもとあつしの「メディア維新を行く」
/http://ascii.jp/elem/000/000/518/518975/
《animeanime》