独立系プロデューサーの役割とは? 業界注目の3人が語る日本アニメの可能性と未来【IMART 2022レポート】 | アニメ!アニメ!

独立系プロデューサーの役割とは? 業界注目の3人が語る日本アニメの可能性と未来【IMART 2022レポート】

マンガ・アニメの未来をテーマにした業界カンファレンスIMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)2022が、10月21日から23日の3日間にかけて開催された。

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「アニメ業界、独立プロデューサーの視点」IMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)2022
「アニメ業界、独立プロデューサーの視点」IMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)2022 全 7 枚 拡大写真

マンガ・アニメの未来をテーマにした業界カンファレンスIMART(国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima)2022が、10月21日から23日の3日間にかけて開催された。

マンガ・アニメ業界の先端で活躍するイノベーターや実務家を一同に集めた基調講演が多数行われる同カンファレンス。2日目セッションでは、アニメの企画を取り仕切るプロデューサーにスポットを当てた「アニメ業界、独立プロデューサーの視点」のセッションが開催された。アニメのプロデューサーは、制作スタジオやビデオメーカー、テレビ局など様々な事業体に存在するが、近年独立系のプロデューサーが活躍し始めている。このセッションでは、活躍が期待される3人がこれからのアニメ業界と独立系プロデューサーの役割について語った。

登壇者は、バーナムスタジオ代表取締役社長、ライデンフィルム代表取締役の里見哲朗氏エニシヤ株式会社代表取締役・プロデューサーの細井駿介氏アーチ株式会社代表取締役、株式会社グラフィニカ代表取締役社長、株式会社YAMATOWORKS取締役の平澤直氏の3名。

まずモデレーターの数土氏は、独立系プロデューサーという存在の珍しさに触れた。里見氏は、正確な数はわからないが、15、6社くらいあるのではないか、プロデュースがひとつの業務として認められて、プロデュース能力だけで会社をやれるようになっているので、近年増えているのではと現状を俯瞰した。細井氏は、今は資本ありきで企画を立ち上げるのではなく、アイディアで企画を決められるようになってきている、配信系会社の資本で製作するアニメも増加しているので、そうした企業からすると独立系のプロデューサーのほうが組みやすいこともあるのではと分析。

登壇者の3名はいずれも企画のみのプロデュース会社を運営している傍ら、制作能力を持ったスタジオの代表を務めている。細井氏のエニシヤは企画だけでなく制作機能も有した会社だ。これら、企画会社を運営しつつ、別のスタジオで代表を兼任することについて問われ、平澤氏は、スタジオは基本的にクリエイターとの付き合いを考え、お金を出す側との付き合いや企画を決めるという点は後回しになりがち。立ち上がったばかりの新しい会社だとなおさらノウハウがないので、独立系プロデューサーはそこを補えると互いのメリットがあることを強調した。

話は、現在のアニメ業界の現状について移る。業界内でも特異なポジションである独立系プロデューサーの立場から、現状のアニメ業界はどう見えるかとの問いに、細井氏は、コロナ期間中にいろいろな変化が起きたとのこと。引き続き海外での売り上げが作品にとって大きな比率を占める状況に変わりはないが、「海外に売れそう」という視点だけでなく、どんな作品を出し、どこにどうやって届けるかにフォーカスする段階に変わってきている。

一方で、パッケージがすごく売れる作品もいまだにあり、パッケージがコレクターズアイテムになってきていると指摘。平澤氏は、パッケージと配信の関係について、サブスリプション型の配信サイトがアーカイブではなく一定期間で配信終了してしまうことが浸透してきているので、パッケージにも需要があり、製作委員会も見直されてきていると補足した。

平澤氏は、配信以外の変化として映画の需要の高まりを挙げた。東映アニメーションの『ONE PIECE FILM RED』の国内大ヒットに加え、北米市場で『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』が全米興行収入1位を取っている。日米両方で1位を獲得している東映アニメーションは年間売上予想760億円となり、映画のヒットが好調要因となっている。

また、海外市場の中での中国市場の立ち位置について、里見氏は、一時期は北米並の金額で権利を購入してくれていたが、今は引き締め傾向にあると話す。細井氏は、ビジネスとしては大きな意思決定に左右されることも多くリスクが高いが、一方でクリエイティブな面では中国国内のプロダクションのノウハウもたまってきており、中国とどう向き合っていくかは大きなトピックだという。

平澤氏は、中国といっても上海や北京と地方都市では事情が異なり、そうした地方都市の企業から一緒にやりたいという話が来ているほか、ネット以外のサービスもあるので、これから挑戦していこうという人もまだまだいる、KADOKAWA原作の作品を中国のスタジオで元請けすることも発表されるなど、生態系が変化してきていると語った。

続いて、話は配信事業者への話題に移る。まず挙がった話題は、Netflixが日本アニメの製作本数を絞るという記事が、先日話題になったことについて。里見氏は、同社はもともとビッグデータで意思決定する会社なので、多少本数が減ること自体は方向転換ではないと考えているという。かつてよく言われた、製作委員会不要論やNetflixがアニメ業界を救ってくれるという過剰な期待の裏返しに過ぎないのではと述べた。

平澤氏は、「製作委員会は基本的にどうリスクを分散するかで構成メンバーが変わってきた。リスクを分散することで、多くのクリエイターに活躍する機会が与えられて、そうした才能が今の業界を支えている」と見解。
細井氏も、大手配信会社の資本だけで(日本のアニメ産業に従事している人たちの生活を支えるために必要な)アニメ製作本数をまかなえるわけではない、製作委員会はアニメ業界を豊かにするためにも必要だと語り、里見氏も『オッドタクシー』のような攻めた企画こそ、リスク分散しないと実現しないし、産業の繁栄のために製作本数を確保する必要があると指摘した。

近年の製作委員会の傾向として、平澤氏は大ヒット作ほど構成メンバーが少なめではないかと提議。『鬼滅の刃』は3社のみで出資しているが、配信会社へのプリセールスで、人気原作などは売上の数字が読みやすくなった結果、人気原作など勝ち筋がある程度見えている企画はリスク分散する必要がないためで、その最たる例はMAPPAが一社単独出資した『チェンソーマン』だと語った。
一方で、攻めた企画など、これまで通りリスク分散しながら立てる企画もあるだろうから、メリットとデメリットを意識して使い分けていくことになるのでは、と今後の製作委員会のあり方についての展望を話してくれた。

最後に、日本のアニメ業界に対して悲観的か楽観的かを問われ、平澤氏は、今が自分のキャリアの中で一番良い状況で楽しいし、日本アニメに可能性があると証明するためにやっていると力強く言った。細井氏は、非アニメ業界の方々の中でもアニメを使って何かやりたいと考えている人が増えているし、海外の従来のアニメファン以外の層へも認知が拡がっており、ますます多様な企画や取り組みを行えるようになってきたのでポジティブに捉えているとコメント。

里見氏は、アニメの人気は世界的に高いのでアニメ自体は存続していくだろう、だが生き残っていくために変化は必要。変化のために血が多く流れるか、少なくて済むかの違いはあると思うので、気を引き締めていかないといけないと語った。

《杉本穂高》

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