ラフ原システムを見直しレイアウトシステムに―「宇宙キャンパー/チッチ」を制作したプロダクション・プラスエイチの狙いとは【あにめのたね2022】 | アニメ!アニメ!

ラフ原システムを見直しレイアウトシステムに―「宇宙キャンパー/チッチ」を制作したプロダクション・プラスエイチの狙いとは【あにめのたね2022】

2020年に設立され、磯光雄監督の『地球外少年少女』を発表し注目を集めた株式会社プロダクション・プラスエイチ。本事業では『宇宙キャンパー/チッチ』を制作し、現在のTVアニメ制作で常態化しているラフ原システムを見直し、レイアウトシステムにトライしている。

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ラフ原システムを見直しレイアウトシステムに―「宇宙キャンパー/チッチ」を制作したプロダクション・プラスエイチの狙いとは【あにめのたね2022】
ラフ原システムを見直しレイアウトシステムに―「宇宙キャンパー/チッチ」を制作したプロダクション・プラスエイチの狙いとは【あにめのたね2022】 全 8 枚 拡大写真

日本のアニメーション産業を担う人材の育成発展を目的としたプロジェクト「文化庁 令和3年度アニメーション人材育成調査研究事業」、通称「あにめのたね2022」。

本プロジェクトは、2014年度より実施されてきた若手アニメーターの育成事業を、昨年度より拡大し、アニメーション制作の全ての工程に関わる人材の育成をめざして実施されている。

そのプロジェクトの1つ、「作品制作を通じた技術継承プログラム」では、制作受託先として選ばれた4社が短編アニメーションの制作を通じた実践的人材育成を実施している。

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今年度の受託先として選ばれた一社、株式会社プロダクション・プラスエイチは、2020年に設立され、今年磯光雄監督の『地球外少年少女』を発表し注目を集めた。本事業では『宇宙キャンパー/チッチ』を制作し、現在のTVアニメ制作で状態化しているラフ原システムを見直し、レイアウトシステムにトライしている。

取材に参加してくれたのは、プロデューサーの本多史典氏、荒川眞嗣監督、制作デスクの株本毅氏の3名。

昔の技術にも素晴らしいものがある


――あにめのたねに応募した動機はなんでしょうか。

本多:ちょうど制作ラインが空いていて、荒川監督にこの話をしたところ「いいね、やろう」ということになりました。

――荒川監督と本多さんは、シグナル・エムディ時代、2016年のあにめたまごの育成事業にもご参加されています。こうした育成事業の意義をどうお考えになられていますか。

本多:新人にきちんと教える時間は普段の現場ではなかなか用意できませんから、この機会は非常に有意義です。

荒川:そうですね。自分が若い時は先輩に見てもらいながらOKにたどり着くようにやっていたんですけど、今はなかなかそれができないので、今回みたいにやれるのが正しいと思います。

――昨今、アニメ産業で技術の継承が難しくなっている根本的な理由はなんだとお考えになっていますか。

荒川:かつては、日本アニメーション、タツノコプロ、東映動画、東京ムービーなど、それぞれの会社に独特の技術がありました。動かし方もレイアウトの取り方など全部違ったのですが、今はフリーのスタッフが多くなって会社ごとの特徴がなくなっています。それで、みんなでなんとなく流行りのものを追いかけてしまうという状況になっていて、20年くらい前にはあった技術がどんどんなくなっています。でも、その中にも素晴らしいものもありますから、自分としては、かつての東京ムービー系の動かし方を伝えたいと思って参加していました。

シンプルな線のキャラクターの方が育成に向いている


――その技術を伝えるため、今回の作品コンセプトはどのように決めたのですか。

荒川:まず線の少ないシンプルなもので良いものができないかと考えました。昨今、携わっているアニメは線が多くて大変なものが多いんです。『地球外少年少女』も大変でした(笑)。僕が若い頃にもそういう作品はありましたが、動かしていて楽しいアニメもたくさんあったんですよね。

――育成する際、シンプルで線の少ない作品の方が教えやすいのでしょうか。

荒川:その方が基礎が学びやすいです。40年くらい前なら、動画から原画になる時は、『ドラえもん』のようなシンプルなものからスタートしていました。シートのつけ方とかタイミングとか、絵コンテから演出意図を読み取ってどう絵にしていくのかとか、シンプルな方が勉強しやすいんです。

なぜかというと、複雑な絵になればなるほど、絵を描くだけでいっぱいいっぱいになってしまって、動かし方まで気が回らないんですね。教える側にも負担ですし、そういう理由でシンプルなキャラクターデザインにしました。

――本多さんは、課題意識を持って今回の育成事業に参加したのでしょうか。

本多:今の荒川さんのお話と近いですが、線が多くなればなるほど1枚仕上げるのに時間がかかります。本来なら構図やレイアウトなどもトライ&エラーしたくても、1枚描くのに精一杯になってしまうので、それ以上のことを求めるのが難しい状況です。アニメーターの立場からしても、1枚にかける時間が増えるほど稼ぎも減ってしまいます。今回はシンプルなデザインなので、カットの構図や凝った動きを考えることに時間を使えたと思っています。

――プラスエイチさんは、今回の制作でラフ原システムの見直しをはかり、レイアウトシステムを導入したそうですが、この2つのメリット・デメリットをご説明いただけますか。

本多:ラフ原システムは基本的に上手い人を前提にしています。レイアウトを修正しなくても描ける人なら全く問題ないですが、新人の場合、そうもいきません。そうなると後で作画監督や演出の段階で直さないといけなくなります。

レイアウトシステムは、まずレイアウトの段階でチェック工程を入れて戻しますから、修正作業を減らせるわけです。

荒川:ラフ原システムだと、パースが駄目なら全部直して、同じ原画を2回描くことになるので、時間の無駄なんです。どうしてそういうシステムでやらざるを得なくなっているかというと、今はスケジュールに余裕がなくて、絵と音作りを同時並行で行わねばならず、早めに音響さんに映像を渡さないといけないからです。本当ならレイアウトシステムの方がいいんです。音作りにしても、本来なら絵も色もつけた状態の映像を渡した方がいいでしょうし。

――スケジュールを管理する制作進行[1]である株本さんにもお聞きしたいのですが、普段の商業作品のやり方と今回のレイアウトシステムと比較してみて、スケジュール感はいかがでしたか。

株本:レイアウトシステムにしてチェック工程が増えると、その分スケジュールがタイトになると思いがちですけど、レイアウトの段階で、コンテや演出意図とのズレも直せますから、原画作業以降のスケジュールはむしろ安定しました。レイアウトシステムにはそういうメリットもあります。

今回は育成目的なので、各アニメーターにそれぞれベテランスタッフがついて指導しましたから、その指導の時間を作る難しさはあったんですけど、原画以降の作業に関してはスムーズでした。

本多:ラフ原システムにも良い点はありますから、基本的にはケースバイケースで、誰に発注するかによって使い分けられると良いかなと思いますね。ラフ原システムは、チェックするまでもない上手い人に対しては有効だと思います。

デジタル作画の課題


――成果発表の際、本多さんはデジタル作画の課題についても言及されていました。紙の時と比べてデジタル作画の質が良くないというお話だったと思います。

本多:作監の修正や、原画から動画をトレスする時の精度の問題ですね。デジタルのトレスは紙に比べて精度が低いのでは、という話が作画監督から出たんです。紙で求められるレベルのトレスをデジタルでも追求すべきじゃないかということで、技術継承ということを考えた時に、まだそこが上手くいっていないかなと思います。

――それは、デジタルと紙のシステムの違いゆえなのか、それとも作業者の慣れや技量の問題なのでしょうか。

本多:紙で厳密にチェックしていた時と比べると、デジタルの方がちょっとチェックが曖昧なところがあると思います。紙でのトレスと今のデジタルのトレスで比較すると、アンチエイリアスの滑らかな線じゃなくて、雑な言い方すると、ドット絵みたいな線を引いているんです。その線のニュアンスの取り方が紙と比べるとやりにくい部分があって、ツールの問題もあるかなと思います。

――荒川監督は、紙とデジタルの違いについて思うところはありますか。

荒川:今回僕がキャラクターデザインも担当していますが、あまり線に頼らなくていいデザインにしました。本当は細く始まって太く終わるとか、線の強弱があるのが僕の好みですけど、今回はデジタルなのでできないと思ったんです。作監の伊藤さんが頑張って味のある線にしてくれていますけど、デジタルでどこまでできるのか僕にはまだわからないです。

――本多さんは、デジタルデータの管理の問題についても言及されていました。

本多:紙なら色々な人がチェックしたハンコやマークがついているから、それが演出から上がってきたものか作監チェックを通ったものなのかとか、進捗が一目でわかるんです。紙は物理的な物質ですから変えようがないわけで、原本の担保も可能です。しかし、デジタルはどのデータが最新のものかがわかりにくいので、古いデータに描いてしまったりすることも起こるので、この辺の管理システムの構築は今後の課題です。

良いものを丁寧に作る会社を目指す


――育成事業ということもあったと思いますが、定期的に講座を開いていたようです。商業作品の現場でも可能でしょうか。

本多:そこにお金と時間をかけられるかが今後の課題になると思います。スケジュールの問題で難しいのですが、本当は教えたい人はいっぱいいると思います。

――荒川監督、それから今回原画指導で参加されている小田川幹雄 [木須3]さんなどは、本当はもっと教えたい方々なんですか。

荒川:僕は教えたいと思っています。流行りの動きだけじゃなく、トラディショナルな動かし方にも格好いいものはあるので、そういうのをきちんと教えたいです。

――今回の作品の具体的なシーンで、荒川監督のこだわった動きはありますか。

荒川:冒頭に宇宙バイクで主人公のチッチが砂漠に突っ込むんですけど、そういうシーンはリアルに考えずに、砂の動きをデフォルメにしてほしかったですね。結構、真面目なものが上がってきたので、自分で直したんです。せっかく非リアルなキャラクターで作るので、もっと大袈裟でもいいし、もっと凝ってもいいんです。

今のアニメで大げさな表現をするには、顔を崩すとか大きい汗を描くとか、記号的になりがちなんですけど、僕は芝居でコミカルに表現したかったので、今回は記号的なものは1カットもないです。

――浅野いにおさん原作の『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』のアニメ化を手掛けることはすでに発表されていますが、今後どんな方向に会社を発展させたいと考えていますか。

本多:浅野さんの作品にはすでに制作インしていまして、しばらくはそれに専念する形になります。基本的には良いものを丁寧にしっかり作っていくことを会社のブランドにしていきたいです。ですので、『地球外少年少女』や浅野さんの作品ような線の多い作品も、シンプルな子供向けの作品もどちらも作っていきたいです。

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《杉本穂高》

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