自社オリジナル作品を作りたい―セルルック3DCGと2Dのハイブリッドに挑んだイマジカデジタルスケープの「天神」【あにめのたね2022】 | アニメ!アニメ!

自社オリジナル作品を作りたい―セルルック3DCGと2Dのハイブリッドに挑んだイマジカデジタルスケープの「天神」【あにめのたね2022】

株式会社イマジカデジタルスケープは、2Dアニメと3Dアニメのハイブリッド作品『天神』を制作。プロデューサーの岩澤朋也氏、ふくだのりゆき監督、制作デスクの木村啓太氏、制作進行の中井駿朔氏の4名が取材に参加してくれた。

インタビュー スタッフ
注目記事
PR
自社オリジナル作品を作りたい―セルルック3DCGと2Dのハイブリッドに挑んだイマジカデジタルスケープの「天神」【あにめのたね2022】
自社オリジナル作品を作りたい―セルルック3DCGと2Dのハイブリッドに挑んだイマジカデジタルスケープの「天神」【あにめのたね2022】 全 8 枚 拡大写真

日本のアニメーション産業を担う人材の育成発展を目的としたプロジェクト「文化庁 令和3年度アニメーション人材育成調査研究事業」、通称「あにめのたね2022」。

本プロジェクトは、2014年度より実施されてきた若手アニメーターの育成事業を、昨年度より拡大し、アニメーション制作の全ての工程に関わる人材の育成をめざして実施されている。

そのプロジェクトの1つ、「作品制作を通じた技術継承プログラム」では、制作受託先として選ばれた4社が短編アニメーションの制作を通じた実践的人材育成を実施している。

「あにめのたね2022」特集ページはこちら


今年度の受託先として選ばれた一社、株式会社イマジカデジタルスケープは、2Dアニメと3Dアニメのハイブリッド作品『天神』を制作。同スタジオは、IMAGICAイメージワークスやIMAGICA Lab.を前身とし、同社の事業再編によって現在の社名の下、アニメ制作を行っている。

取材に参加してくれたのは、プロデューサーの岩澤朋也氏、ふくだのりゆき監督、制作デスクの木村啓太氏、制作進行の中井駿朔氏の4名。

セルルック3Dスタッフの育成のために育成事業に参加


――今回の育成事業に応募・参加なさった動機をお聞かせください。

岩澤:大きく2つ理由があります。1つは、3DCGスタッフの育成です。昨今、セルルックのアニメを3DCGで作るタイトルが増加傾向にあり、フォトリアル系の3DCGが得意な弊社も、もっとセルルックCGに取り組みたいと考えていて、きちんと育成の時間が欲しいと思っていました。

もう1つは、弊社は受託制作がほとんどなので、スタッフのためにも自社のIPが持てるオリジナル作品を作りたいと思い、この機会に応募いたしました。

ふくだ:僕は日頃、新人育成のためなら何でもやりますと公言していたので、このお話がきた時は断る選択肢はないと思いました。実は、僕は今回が初監督という立場でして、色々と考えることもありつつ、自分としても経験を積めたので、とても有意義に感じています。

――本作は2Dと3Dのハイブリッド作品ですが、セルルック3Dスタッフの育成という目的でそのようにしたのですか。

ふくだ:そうですね。

岩澤:あにめのたねに応募した段階では、何も決まってなかったんです。ざっくりと2Dと3Dパート半分ずつくらいかなと考えていたのですが、ふくだ監督や演出の山元隼一さんとも話し合い、2D作画と3Dのメリットなどを考えてシーンを振り分けていくことにしました。

――2D作画とCG、それぞれの得意な表現を踏まえて、長所が活かせるようにカットを振り分けていったのですか。

木村:当初はその予定でしたが、監督とも相談した上で、育成のため3Dが苦手とする表情のアップなども挑戦することにしました。

ふくだ:我々は手描きの技術を3Dスタッフに伝えたいという思いがあったんです。例えば、「止める」というのはCGにはない表現です。止めて6コマ動かしてまた止めてというような芝居を作るよう指示しても、3Dスタッフは当初、何を言っているんだろうって感じでした。でも、色々と図を使って説明してみたり、参考になる作品を観てもらったりしたら、指示に沿った動きが上がってくるようになりました。手描きの技術が完璧に伝わったとは思いませんが、ヒントにはなったと思いますから、今後につながる指導ができたなと思っています。

――フォトリアルのスタッフたちがセルルックのCGをやるにあたって、どういう点が難しかったのでしょうか。

岩澤:ほとんど全ての制作工程が異なるので、制作進行の木村と中井も相当苦労したと思います。この2人は、2Dの仕事をしてきたスタッフですから、3Dチームとやり取りする時、言葉の意図が伝わらないこともあったんです。例えば、原図という言葉は2Dアニメでは常識的な単語ですけど、3Dチームに原図と言ってもわからなかったです。そういう言葉の壁や、3Dと2Dアニメのワークフローも全く異なるので、ゼロからコツコツとフローを見直していきました。

――ふくだ監督は3Dスタッフたちと作業する時、どういう点が大変でしたか。

ふくだ:最初の頃、言葉が通じていないことを理解しておらず。説明して伝わっているものだと思い込んでしまっていました。なので、一度振り出しに戻って、説明の仕方も変えていくなど、最後まで試行錯誤を繰り返しました。

岩澤:2Dアニメのタメツメとか、監督も一生懸命説明してくださったんですけど、3Dチームも上手くアニメーションを作れなくて監督にも迷惑をおかけしてしまいましたし、制作の2人も大変だったと思います。

――制作進行のお2人の立場では、普段の2Dの仕事を比べてどんな点が違いましたか。

木村:今回は、3Dを2Dアニメのワークフローで作成するつもりでした。2Dアニメはタイムシートで動きを管理して、演出や監督にチェックしてもらいます。しかし、3Dにはタイムシートがないので、テストムービーを書き出してもらってチェックするのですが、その時にフレーム単位の修正やキャラクターの位置修正の指示が上手く伝わらないことがあるなど、色々難しかったです。

中井:ずっと2Dアニメの制作の仕事をしてきて、3Dはほとんど経験がありませんでしたから、3Dスタッフから上がってくるムービーが果たしてどの程度進捗が進んだものなのか、判断がつきませんでした。2D作画なら進捗は見ればすぐわかるんですけど、どうしても感覚的に3Dのムービーの進捗状況が掴みにくくて、スケジュール感をつかむのに苦労しました。

モーションキャプチャデータはいかに活用すべきか


――今回はモーションキャプチャを使用したとのことですが、この狙いは何でしょうか。

岩澤:いくつかありまして、2D作画も3Dも含めて、実際の人間の演技を見て、それを作画やアニメーションに落とし込むということ。後は、モーションキャプチャを使うと3Dの制作スピードも上げられるのでそれも狙いでした。しかし、今振り返ると、この狙いはあまり上手くいかなかったかもしれません。

――それはどういうことでしょうか。

岩澤:モーションキャプチャのデータには、一連の芝居の動きがついています。監督がタメツメをつけるためにここで止めたいと思っても、役者さんは絶えず動いていますから、きれいなキーポーズを別に作る必要があるんです。これだとモーションキャプチャを使っている意味はあまりないのではという意見が3Dチームからも出てきました。

今回ご参加いただいたアドバイザーのナカジマさんにこの点を相談したところ、手付けで動きを作った方がアニメっぽくなるよということだったので、結果としてはかなり手付けで動きを作っています。

木村:モーションキャプチャデータは2Dスタッフにも共有していますが、わりとスタンダードな芝居が多かったので、今回の場合はあってもなくてもあまり変わらなかったかもしれません。モーションキャプチャーによるリファレンスは、よっぽど難しい動きや格好いいアクションの時には、あった方がいいとは思います。

――昨年の育成事業では、クラヴマガ(軍式護身術)団体「クラヴマガ・ジャパン株式会社」さんに取材して、格闘シーンの参考動画を撮影されていましたね。

岩澤:そうですね。昨年の作品には、武器がたくさん出てきたので、武器の扱いに長けたアクションアクターさんに、きちんとした構え方などを教えていただきました。

ふくだ監督は、若手に「自分でやってみて撮影してごらん」と言っていました。例えば、寝て起きるみたいな単純作業は自分でできますから、それを参考にするようにということです。若手は、時に頭の中だけで処理してしまうので、簡単な芝居なら自分でトライしながら身に着けるのが良いかなと思います。

――本作の中で、難しい芝居はどの部分でしたか。

ふくだ:後半のシーンで、寝そべっている女の子の周囲に着地して駆け寄ってくる芝居があるんですが、ああいうのは思ったよりも難しいんです。パースがあってないと人物が滑ってるように見えてしまうので。でも、そういうところは若い人たちがは思った以上にきちんと描けていて、安心しました。今回、2D作画と3Dの絵の違いは出てしまいましたが、動きや芝居に関してはそれほど違和感なくできましたし、全体的にはなかなかよくできたと思います。

リモート育成はやはり大変


――本育成事業は、昨年に続いてコロナ禍での実施となり、昨年もリモートで作画の育成はとても難しいという話が出ていましたが、昨年と比べてリモート育成という点で前進できましたか。

岩澤:去年と比べるのは難しいですが、本音を言えばやっぱりリモートでの育成はすごく難しかったですし、もどかしい思いもありました。ふくだ監督にもホワイトボードの図解や実際に描いているものをリモートで見せてもらうなど色々なことをやっていただいたんですが、やはりやりにくかったのではないでしょうか。

ふくだ:やりにくいのは確かですが、そうは言っても今はリモートでやるしかないので、その条件で何ができるか模索するしかないです。週に一度Zoomのミーティングで詳しく解説するなどして、必要最低限のことは伝えられたと思います。作画はもっと奥が深いので、本当はまだまだ教えてあげたいことはたくさんあるんですけど。それでも、試行錯誤しながら、最後の方にはある程度リモート育成でも手ごたえを感じられるようにはなりました。

参加者から、いくつかメールもいただきましたが、勉強になったと言ってくれています。基本的な考え方の下地を作ってあげれば、あとは積み上げていけばいいので、アニメーターとして間違いなく仕事を続けていけると思います。

木村:今回の育成対象者には、私がイマジカに入る前からの知り合いで、個人でアニメのMVなどを請け負っていた人もいました。そのスタッフはスタジオに所属していたわけではないので、動く絵は描けても、タイムシートの記入が経験不足だったり、監督の演出意図が汲み取ったりするのが不慣れだったんです。そういう点を監督たちにきちんと指導してもらえて、すごく勉強になったと言っていました。

「あにめのたね2022」特集ページはこちら


《杉本穂高》

特集

この記事の写真

/
【注目の記事】[PR]