スタジオぴえろ創設者・布川郁司が語る、日本のアニメの強みと業界の課題【インタビュー】 3ページ目 | アニメ!アニメ!

スタジオぴえろ創設者・布川郁司が語る、日本のアニメの強みと業界の課題【インタビュー】

アニメサイト連合企画「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」の第16弾は、スタジオぴえろ取締役最高顧問・布川郁司にアニメ業界の過去現在と、今後業界が目指すべき方向についてうかがった。

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■キャラクターを進化させ、継承していく時代へ


――日本のアニメ業界は、これからどんな方向を目指すべきだと思いますか?

布川:日本は、古いものをどんどん捨て去って、常に新しいものを求めていますが、まったく新しいものを生み出すには限界があります。
最近のハリウッド映画は、古いコンテンツを今の技術でリメイクした作品が多いですよね。例えば、ミッキーマウスのように100年以上もキャラクターを進化させ続けていくことを、日本のキャラクターでもやるべきだと思います。
過去ヒットしたものを継承していくのも、大事なことではないかと。

――『おそ松くん』をベースにした『おそ松さん』は、社会現象を起こすほどの大ヒットとなったのも、時代のニーズに合わせた進化を遂げたからと言えますね。そういったアイデアは、どのように生まれてくると考えていますか?

『えいがのおそ松さん』(C)赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会 2019『えいがのおそ松さん』(C)赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会 2019
布川やはりクラシックでヒットしたものは、その時代の視聴者の琴線に触れる「芯」があったということです。そのヒットする「芯」があれば、時代に合わせて少し体裁を変えれば、新しい商品になる可能性が高い。
『クリィミーマミ』も35周年を迎えましたが、制作当時は1年間のTVシリーズとしての構想しかなかったんです。それでも今なお受け継がれ、愛されているのは、時代を経ても視聴者の興味を引く「作品の魂」があるからこそでしょう。

『魔法の天使クリィーミーマミ』(C)ぴえろ『魔法の天使クリィミーマミ』(C)ぴえろ
私はよく「作っているものに対して、魂を入れろ」と言うんですが、どんなに当たった作品でも、魂が入らないとつまらない。会議で合議制のもと「これでやりましょう」と決まったものは、大抵おもしろくなりません。
逆に、プレゼンでプロデューサーや監督が、「この作品に惚れて惚れてしょうがなくて、これがやれなかったら死ぬ」というくらい、熱病にうかれた人のほうが勝ち上がります。スタッフを集めるにしても、「こういう思いで君を選ぶんだ、こういう風にしたいんだ」という熱意が伝わらないと、作品に魂は宿ってこないですね。

アニメーションは大勢で作りますが、キーとなるのは監督、シナリオ、キャラクターデザイナーや作画監督などせいぜい6~7人がメインスタッフ。それにキーになる声優さんを数名キャスティングできれば、だいたい作品のイメージを作ることができます。
プロデューサーがそのイメージをきちんと作り上げられるかどうか、そしてそれをスポンサーに対してプレゼンできるかどうかが大切です。

――その成功例が、『おそ松さん』ですね。

布川:『しろくまカフェ』の下地があったからというのもありますが、プロデューサーのアイデアと演出家である監督の意図が、うまくかみ合った結果でしょうね。

スタジオぴえろ布川氏によるアニメプロデュース論は、自著「『おそ松さん』の企画術」でも詳しく説明されている。
――これからのアニメ業界には、どんなことが必要だと思いますか?

布川:まずは制作体勢のデジタル化。限られた予算の中でコストパフォーマンスを上げるためには、必須です。
これは心配するまでもなく、学校でデジタル技術を学んでいる人が増えているので、世代交代が進めば自然と変わってくると思います。そうなると、量よりも質が求められるので、よりクオリティの高いストーリーやキャラクターを生み出すために創造力を豊かにしていくことが、主題になると思います。

そして、アニメのハリウッドになるくらいの気持ちや野心を持った人たちが、業界にどんどん入って来てほしいですね。
クリエイターやアーティストももちろん必要ですが、彼らの仕事を作り、引っ張っていくプロデューサーが必要です。アニメーションをもっともっと進化させてみたいという人、特に語学が堪能な人に入って来て欲しいです。

NUNOANI塾にも、中国や韓国、台湾などから参加している塾生もいます。日本語が理解できれば国籍問わずに大歓迎です。受講期間の1年で学べることには限りがありますが、2年目は授業料なしで来てもいいよという風にしています。だからみんな、2年間塾に来ていますよ。

――スタジオとして、人材育成に取り組んでいることはありますか?

布川:本来なら、ぴえろの中でやることかもしれませんが、現場に入るとなかなか学びの場を持つのが難しいんですよ。せっかく憧れのぴえろに入ったけれど、厳しい現実を見て、志半ばで現場を去って行く子を見ると忍びない気持ちになって。
だから現場から少し離れたところで、「アニメは楽しいんだよ」と気持ちを共有できる場を作りたいなと思って、塾をやろうと思ったんです。

スタジオぴえろ・布川郁司インタビュー
――スタジオを応援してくれるファンには、どんなことをして欲しいと思いますか?

布川:エンターテイメント業界の最先端は、やはり音楽業界。CDは売れなくなった今はライブに集中して、会場でライブグッズを売って収益をあげています。
それと同じ事がアニメ業界でもできると思うし、すでに2.5次元舞台で次々とマンガ、アニメ原作の作品が作られていますよね。
そういったリアルの交流で、送り手と受け取り手のいろんなコミュニティが生まれるのも、大事なことかなと。

放送や配信だけだと、後ろ側にいるお客さんの思いが我々には届きづらいし、逆に我々の思いもお客さんに届きづらい。
相互が交流できるのは、アニメフェアのようなイベントなので、イベントに足を運んでもらうのもアイデアかなと思っています。

もちろん我々送り手側も、声優さんをはじめ、監督や演出、脚本家などのスタッフもステージに上げてしゃべってもらうように仕掛けるべきではないかと思っています。
そうやって相互で積極的に交流を持つのが大切だと思いますね。

ただしそこはちゃんと、ギャランティを発生させてビジネスにしなくてはいけません。
やっぱり、そういうことができるプロデューサーが必要ですね。

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《中村美奈子》

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