スタジオぴえろ創設者・布川郁司が語る、日本のアニメの強みと業界の課題【インタビュー】 2ページ目 | アニメ!アニメ!

スタジオぴえろ創設者・布川郁司が語る、日本のアニメの強みと業界の課題【インタビュー】

アニメサイト連合企画「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」の第16弾は、スタジオぴえろ取締役最高顧問・布川郁司にアニメ業界の過去現在と、今後業界が目指すべき方向についてうかがった。

インタビュー スタッフ
注目記事
スタジオぴえろ・布川郁司インタビュー
スタジオぴえろ・布川郁司インタビュー 全 16 枚 拡大写真

■アニメをビジネスとして成立させる仕組みづくりが急務


――ぴえろは、1984年に版権管理事業を行う「株式会社ぴえろプロジェクト」を設立するなど、アニメビジネスに早い時期から取り組んでいました。アニメをビジネスとして成立させる必要性を、どんなところで感じていましたか?

布川:我々の仕事はギャランティありきのコマーシャルアートであり、アカデミックな芸術作品とは違います。
先ほど“ANIME”と評価される作品のほとんどは30分番組だと言いましたが、その放送枠は今や主に深夜帯、1作品1クールものがほとんどです。

アニメーションの制作費は、回数をこなすほどに制作費が下がります。理由は、設定や音楽などを作るコストの比重が最初ほど高いから。
ところが1クール作品の場合は、設定がやっと積み重なったと思ったらもう終わりで、また新しい作品を作り始めなければいけません。そうなると、新しい作品に合わせて監督もスタッフも変える必要が出てくるので、コストが非常にかかります。

人材不足も重なって、制作キャパシティが限界に達している点が、現在もっとも問題になっています。

――スタジオを維持するコストもかかりますね。

布川:そこも問題ですね。制作費だけではスタジオを維持できない構造的な仕組みが、アニメ業界にはあります。
幸いぴえろは、過去のコンテンツの権利があるおかげでなんとかやっていけている。アニメーションは作れば財産になりますから。

今は、製作委員会でも出資が100パーセント集まらずに、足りないまま無理して制作している状況に陥っている作品もあると聞いています。
特に1クールの作品だと、放送前に商品を作る必要がありますが、売り上げが立つかどうかの見通しは非常に難しくなり、スポンサーもなかなか手を上げづらい。
これまでは製作委員会制でなんとか乗り切ってきましたが、それも限界が来ていると感じています。

スタジオぴえろ・布川郁司インタビュー
一方で、1クールだからこそオリジナル作品の制作が可能になったり、若くて優秀なクリエイターが出て来たりする良い面もあるんですよ。
そこは否定しませんが、需要と供給のバランスが悪いため、1クールアニメでの成功モデルがなかなかつかないんです。

国内だけですべてを補うのに限界があるのなら、製作委員会に外資を入れたり、海外の制作会社と合作したりする方向性も考えなくてはいけません。

――現在では、海外の制作スタジオへの発注も増えていると思います。

布川:ハリウッドも、いろんな国のスタジオの力を借りて大作を生み出しています。今はインターネットも発達していて、画像のデータのやり取りも便利になっているのだから、ものづくりがワールドワイドになるのはとても良いことだと思いますよ。
そうやって日本の技術が世界に広まれば、“ANIME”の裾野も広がるでしょう。

日本のアニメーションは、マンガ文化と切っても切れない関係があります。マンガ誌が毎週、毎月のように発売されて、定期的に新しい作品が生み出されている環境は、他の国にはありません。

海外の人は、日本の制作力と創造力に驚愕します。1人のクリエイターの独創性に頼るところが大きいマンガ文化は、今後も廃れないと思いますが、アニメーションは逆にたくさんのクリエイターの力を集結して作品を作り上げる文化です。
マンガ原作で大きく発展してきた日本のアニメーションですが、紙文化が弱ってきているこれからの時代は、むしろオリジナルアニメに挑戦していく時代になるのではと予測しています。

――視聴者がアニメを鑑賞する媒体も、TVから配信へと移ってきていますね。

布川:利益の面から言っても、配信モデルの収益が大きくなってきています。
これから、コンテンツはどんどん有償化されていきますから、制作と収益両面を時代に合わせて変えていく必要があると思います。それをやるのはクリエイターではなく、プロデューサーの役割。

日本では、演出家は演出しかしないという完全分業制が根強く、作品に演出家の独断や好みが強く出る傾向にあります。
しかしビジネスとして組み立てる場合、だれかひとりのニュアンスで仕事をしている状況は良くない。

世界的には、プロデューサーがディレクションしたり、ディレクターが演出、プロデュースしたりするのは当たり前。プロデューサーはお金や労力の計算だけではなく、視聴者のニーズを把握するマーケット感覚を持ち、それを作品に反映させるバランス感覚を持っていないと、いつまで経っても現場は豊かにならない。

だからプロデューサーになる人でも、絵コンテやストーリーを読む力を身につけて欲しいと思い、若い人材にビジネスを学ぶ場としてNUNOANI塾をスタートしたんです。


→次のページ:キャラクターを進化させ、継承していく時代へ
  1. «
  2. 1
  3. 2
  4. 3
  5. 続きを読む

《中村美奈子》

特集

この記事の写真

/
【注目の記事】[PR]