「ジョジョ」「はたらく細胞」のデイヴィッドプロダクション、原作ファン唸らせるアニメづくりの秘訣は?【インタビュー】 3ページ目 | アニメ!アニメ!

「ジョジョ」「はたらく細胞」のデイヴィッドプロダクション、原作ファン唸らせるアニメづくりの秘訣は?【インタビュー】

アニメーション制作スタジオ、デイヴィッドプロダクションより代表取締役社長の梶田浩司氏と、TVアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズのアニメーションプロデューサーで取締役の笠間寿高氏にインタビュー。原作ファン唸らせるアニメづくりの秘訣とは?

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■作画のフルデジタル化への転換


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――スタジオ立ち上げ当初は「デジタルを捨てた」とおっしゃっていましたが、現在はむしろ「フルデジタル作画」の制作体制が特色となっていますが、どのように制作体制の変換を行ってきたのでしょうか?

梶田
私や笠間は、セル画がデジタルに移り変わった時代を経験していたので、必ず作画もデジタルに移行すると考えていました。
そこで必要になるのが、スタッフの育成と、実際に機材やソフトに触りながら、どんな風に使ったら活用できるのかという利用開発でした。
そこで2009年あたりから、デジタル作画室室長の宇治部正人を筆頭にしたチームを組んでスタートし、フルデジタル作画への移行をはかってきました。

現在は、シンガポールのカカーニ社が開発した、自動中割り生成機能着付き2Dアニメーション制作ソフト「CACANi(カカーニ)」を導入しながらやっています。
2、3年前に日本で販売されたときは、バグが多くて使い方が難しいので、あまり普及しなかったんです。
しかし宇治部が、「実は意外と使えるかもしれない」とひっそりと使い続け、バグの修正や欲しい機能などをリクエストしたら、レスポンス良く修正が帰って来て……ということを緩やかに繰り返しているうちにソフトの性能が向上しました。

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スタジオ内デジタル作画室の作業風景
――スタッフの育成面では、どんなことをしていますか?

梶田
最初からデジタル作画で仕事を覚えてもらっています。以前は、まずは紙である程度技術を磨いてからデジタルに移行した方が良いと考えていましたが、手書きで引ける力強い線の魅力や、対象を立体で捉える能力の開発は確かに弱まるものの、デジタル化によって得られるメリットのほうを優先させました。

誤解を恐れずに言うと、「アニメーション」として考えた場合、絵は「素材」という位置づけになります。
最初からデジタルから入ったほうが、自分が描いた絵が他のセクションや演出によって色々な使われ方をされることに対し、自然に受け入れやすくなる傾向があるようです。
逆に、他の方と協力して絵を描いたり、これまでのアニメーションの分業に捉われずに、映像を作る、という事に意識をもって作業にあたるようになってきました。
そこで透過台を全面的に液晶タブレットに置き換えたのが、3年ぐらい前ですね。
さらにコンテや作画のデジタル化だけでなく、映像面の進化にも対応すべく、新たにCG部門を立ち上げました。

2Dと3DとVFXの境界はこれからどんどん曖昧化していくし、曖昧にしていかなければいけないと考えています。
今までは、CGは外注・提携して制作していたのですが、映像表現の曖昧さを生かしながら絵を動かすアニメーションを作りあげていくには、同じスタジオで演出家も参加して制作していく方が良いと考えた結果です。
立ち上げからまだそれほど時間は経っていませんが、少しずつ効果が出始めています。

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――デジタル化のメリットとデメリットを教えてください。

笠間
フルデジタル化のメリットは、大きくふたつあります。

ひとつは、移動に関わる時間的なロスとコストが減り、より絵づくりの作業に集中できる環境になったことです。
情報の共有化も簡単で、連絡ミスや伝達ロスも減りました。クオリティに直接関係しないコストと時間が削減できてよかったという声が上がっています。

もうひとつが、各部署のスタッフが同じソフトの上で「同じ作品の素材を作る」という意識が生まれたことです。
原画、動画、背景、CGなど、他の素材と連動させながら完成させていくことへの抵抗感がガクンと減り、部署間のシームレス化が進みました。
それぞれのスタッフが、デジタルで手軽に完成形のイメージを作ることができるので、「こんな風にできるんだったら、作画ではこんなことをしてみよう」という風に、広い視点を持って自分の仕事に取り組めるようになったと思います。

敢えてデメリットがあるとしたら、業務の垣根が低くなり自由度が上がった分、制作フローが複雑化してしまったことでしょうか。

梶田
でも、やりたい人にはどんどんやってもらいたいので、絵コンテのデジタル化も推奨しています。
コンテの段階から、ある程度尺のイメージがつかめるので、隣で仕事をしているアニメーターに「こんな素材を作って欲しい」とか「こんな絵が描けそうか?」といったやり取りが始まるのを、私もよく目にしています。

デジタルという軸を持って、いろいろなクリエイターたちがスムーズに繋がり、連携が強まっていることを、日々実感していますね。
中には、動画ソフトを使って自分で編集した映像に音楽までつけて、「こんな風にやってみたいです」という、踏み込んだ提案も出て来ています。
仕事の領分に踏み込まれた方は少なからずショックを受けるので(笑)、そこは充分に配慮しつつ、どんどんチャレンジしていって欲しいなと思っています。

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――そういった環境を作るために、普段からどんなことを心がけていますか?

梶田
今まで培ってきた経験から、今の制作体制ができあがっています。デジタル化で、役割のあいまいさや変化が常に起きていますが、基本的に「最も付加価値の高いところに投資し、活用していく」という方向での体制づくりにチャレンジしています。
私自身は、そこに必要な社内外のコミュニケーションを意識して、「とにかく直接、人に感想を聞いて歩く」ようにしています。

TVアニメ『はたらく細胞』は、中国での反響が大きく、Bilibili(ビリビリ動画)で1億4千万回再生という、始まって以来の数字を叩き出したんです。
中国出張では、どこに行ってもその話題になるので、「どういうところが面白かったですか?」と聞くと、自分とはまったく違った見方をしていることがわかり、とっても参考になりましたね。

萌え系やファンタジー作品が多い中、人間の体内を舞台にして、細胞を擬人化するというアイデアを含めて、アニメファン以外の一般層でも楽しめる珍しい作品だと好評でした。
そういう感覚は万国共通であること、そして一般層に視点を向けた企画がうまく当たると、世界的にも広がりやすくなるんだな、と感じさせてくれた恩のある作品の一つになってくれました。


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《中村美奈子》

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