同作では対馬に流れ着いた流人の朽井迅三郎が、地元の武士とともに蒙古軍の襲来に立ち向かう。蒙古軍が本土に向かうまでの圧倒的不利な7日間の戦いが描かれている。7月10日のアニメ放送を前に、著者のたかぎ七彦先生にアニメの見どころを聞いた。
アンゴルモア元寇合戦記
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■「元寇」に決めたのは史料「蒙古襲来絵詞」のインパクトが鮮烈で記憶に残っていたから
――本作を描くにあたって、元寇をテーマに選ばれたのはなぜですか?
たかぎ
学校で学んだ時はインパクトが薄かった「元寇」が、実はものすごく世界観が大きくて面白いと知った高校生の時の記憶がずっと残っていたからです。
中学校くらいで「元寇」について教わる時に、教科書に載っている「蒙古襲来絵詞」の絵がありますよね。全2巻の絵巻なのに教科書には陸上戦の1コマしか載っていない。それを図書館で全巻読んだら、異民族の寺院が出て来たり、海戦を描いたり、火薬が飛んだり内容がものすごくスペクタクルで驚きました。
――大学では史学科の西洋古代史を専攻したにも関わらず、日本史の「元寇」を描きたいと思うほどビジュアルが鮮烈だったと?
たかぎ
すぐに元寇を描こうと思ったわけではないんですが、前作では幕末もの(『なまずランプ ~幕末都市伝説~』)を描いたので、次回作は世界史と繋がる話にしたいと考えた時に、やっぱり元寇かなと。あまり描いている人がいなかったというのも決め手でした。
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――2度の蒙古襲来において1度目の文永の役(1274年)を、それも本土ではなく対馬を舞台に選んだのはなぜですか?
たかぎ
やっぱり1度目のほうが、事件としてインパクトがありますよね。最初に見た教科書に載っている絵も文永の役のものなので、最初から描いて行くのが面白いだろうなと思いました。
現在は文永の役では神風はなかったとも言われていますが、これまで蒙古軍が博多に1日しか滞在しないで撤退したとされてきた中で、対馬には8日前後くらい滞在している。
それなのに教科書では詳しく触れられていません。この期間に何があったんだろう?と文献を調べたら、流人の存在や佐須浦の合戦などが載っていたので、「これは話にしたら面白い」と思ったんです。
■“傭兵のメンタル”から主人公は生まれた
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――主人公の朽井迅三郎は実際に対馬で戦った「口井藤三」から名前を取ったと聞きました。なぜ流人という設定にしたのでしょうか?
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たかぎ
元来、その地に住んでいて侵略者が来たから守るため命懸けで戦うのは当たり前だと思うんです。そこにアウトローな人間が流れ着いて、守るために戦いに参加するというシチュエーションがやっぱり面白いじゃないですか。
鎌倉時代は武士が土地を守るために戦っていましたし、幕府による本領安堵というご恩と奉公の関係もありましたから、それに縛られない流人がいかに戦いに入っていくのかというのも見せ方として熱いかなと思いました
朽井迅三郎は文献にあった流人の「口井」から名前を取りましたけど、流人が戦いに参加するきっかけや境遇を考えた時、現代で言うと傭兵が近いだろうなと思ったんですね。
なので、傭兵本人の体験記などを参考にして、迅三郎たち流人のキャラを肉付けや、様々な出自の流人が集団としてどう戦うかなどを考えました。価値観はこの時代の人のものだとしても、戦うとしたら今も昔もメンタル的な部分は共通だと思うんですよ。
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――朽井迅三郎ありきでもの物語の方向性が定まったと思いますが、彼の生き様はどのように決めたのですか?
たかぎ
そこも傭兵本人の体験記などを読んで、込み入ったものを引きずるというよりも、目の前の戦いに対してすべきことをするブレない人間性を目指しました。
「〇〇の仇を取らなければ!」というのは他のキャラにはいるんですけど、迅三郎に関しては哲学的な思考ではなく本能で戦うという、できるだけ単純な人間に見えるように描いています。もちろん、迅三郎にも色々とあったんですけどね。