1974年10月6日に全26話のシリーズをスタートさせ、その後、複数の続編シリーズ、劇場版、リメイク、実写映画と歴史を重ねてきた名作『宇宙戦艦ヤマト』。その50年にも及ぶ歴史を振り返る展示イベントを東京・西武渋谷店で実施中です。
気になる展示内容は、企画実現までの検討用資料、数々の設定画、原画、美術ボードといった途中成果物はもちろんのこと、当時発売された100円のプラモデルや新聞の切り抜き、レコードなど。まさに『宇宙戦艦ヤマト』を軸とした1970年代カルチャーを網羅するマニアックさです。

続編やリメイク作品などのシリーズの流れを知ることができるだけでなく、当時のファンがどのように“推し活”していたかが垣間見える、文化的にも興味深い内容だと言えるでしょう。
企画・プロデュースを手がけるのは庵野秀明さん。自身も放送当時からの“古参ファン”だったこともあり、その視点で筋金入りのファンも唸る濃い展示内容となっています。
そこで本稿では、1000点を越えるという展示内容を紹介しつつ、一般公開に先立って実施された内覧会で庵野さんが語った本展示会の魅力をお伝えしたいと思います。

◆ヤマトの旅路を紐解く7階展示会場
本イベントは『宇宙戦艦ヤマト』50周年を記念するものであり、その規模に見合うよう、西武渋谷店A館全体でさまざまな催しを行っています。
展示はおもに前半・後半に分かれており、前半は7階にて、後半は2階にて実施。
7階ではアニメ第1シリーズを中心に、企画の成り立ちからヤマトの旅の終わり(最終回)までを、実際の設定画・原画・美術ボード・コンテなどを展示しながら紐解く形に。2階では玩具やレコードなどの周辺展開にスポットを当てつつ、シリーズの大年表を用いてその壮大なる足跡を辿っていました。
そのほか4階ではコラボカフェの営業、7階の紀伊国屋書店では関連書籍の特設コーナーを設置、さらに5階渡り廊下では模型を展示していたりするなど盛りだくさんの内容です。
ここまで作品が愛されたのは、『機動戦士ガンダム』よりも早くに本格SFを描いたこと、また子ども向けとは思えないような衝撃的な内容だったことが理由として挙げられます。「地球滅亡まであと〇日」と毎回カウントされる物語では、地球を救うために大宇宙を旅するヤマトクルーの決死の覚悟が描かれ、とてつもないカタルシスを生みました。
その壮大なる物語性、そして遙か未来を描いた独特のビジュアルは、リアルを重視しすぎる現代では失われてしまった、もはやセンス・オブ・ワンダーの塊。当時のファンにとっては懐かしさを、今のアニメファンにとっては「50年経った今だからこそ感じられる新しさ」が得られる作品になっているかと思います。
その本作がどのように企画され、どのような制作過程を経てファンに届けられたのか? 7階展示場ではそのすべてが資料の原版などを通じて垣間見ることができました。

















◆2階は周辺展開&物販
7階では現存する制作資料を中心に展示していましたが、2階ではグッズを中心とした当時の周辺展開がズラリ勢ぞろい。とくに面白かったのは新聞の切り抜きでした。
ラテ欄と呼ばれる、いわゆる番組欄の切り抜きコレクションは、当時のファンでなければやらないだろう独特のファン行動です。『宇宙戦艦ヤマト』が放送されていた7時30分といえば、当時は子供向けの枠として知られた時間帯。展示されていたのはおそらく関東圏だと思いますが、別のテレビ局では『グレートマジンガー』や『アルプスの少女ハイジ』も放送されていて、「今は失われたキッズ枠」の片鱗がうかがえます。
新聞の番組欄は、その時代のテレビっ子にとってまさに夢への入り口であり、もっとも身近でもっとも簡単に手に入る“関連商品”でもありました。次回を心待ちにして毎朝新聞の番組欄を見る。そして野球中継を知って絶望する……。それもまた当時のキッズ文化の一部でした。
そのほか駄菓子屋や文房具店で売られていたというバンダイのプラモデルシリーズ「メカコレクション」も注目です。100円というお小遣いで手に入る低価格帯で人気だったこともあり、当時のキッズなら一度は目にしたことがあるはず。文房具店がキッズの交流の場で、プラモデルまで売られていたというのも当時ならではでしょう。駄菓子屋とは異なる、ロマンあふれるスポットでした。













◆庵野秀明さんが語る展示の注目ポイントは?
オープン前日に実施された内覧会では、ヒロイン「森雪」を演じ、現在は講談師「一龍斎春水」として活躍する麻上洋子さん、東北新社代表の小坂恵一さん、そして庵野秀明さんがテープカットに登場。それぞれ本イベントや『宇宙戦艦ヤマト』への想いを語りました。
小坂さんは「庵野さんをはじめ多くの方々のご協力・サポートによって、この全記録展を開催することができました。大変にうれしく思います。ご来場された皆さんには、『宇宙戦艦ヤマト』がいかに素晴らしい作品であるかということを感じていただければと思います」と発言。
麻上洋子さんは「ここにもし、松本零士先生と西崎義展さんがご臨席くださって、握手を交わしてくださったらどんなにうれしいことであろうと想像しています」と“空”へ想いを馳せます。さらに「古代くんも、島くんも、そして真田さんも艦長も、きっと見守っていてくださっていることと思います」と、富山敬さん、仲村秀生さん、青野武さん、納谷悟朗さんを偲んで、思い出の中に微笑みかけていました。
庵野さんは『宇宙戦艦ヤマト』という作品について、「同世代の人にとってはエポックメイキングなアニメーションでした。あと何世紀語り継がれてもいい作品だと思います」と語りつつ、これまで作品を支え続けてきたファン、この展示会のために協力してくれた全関係者に感謝しながら “未来のファン”にも期待を寄せます。

その後に同会場で実施された合同取材では、アニメ評論家の氷川竜介さんも登壇。庵野さんとともに本展示会に込めた想いを語ってくれました。

庵野さんと氷川さんによると、『宇宙戦艦ヤマト』という作品は衝撃をもって当時の視聴者に迎えられたそうです。
それまでのアニメ作品はどれも「テレビまんが」であり、子供に見せるためのものとして作られてきました。ところが『宇宙戦艦ヤマト』はその常識を覆し、当時では考えられないほど描き込まれた宇宙船がそのままのクオリティーで活躍していたことに感激したそうです。またハードな人間ドラマも展開され、「何もかもが新しい」と思わせてくれる作品だったのです。
氷川さんは当時高校2年生でしたが、番組を制作していたオフィスアカデミースタジオに見学で訪れた際、設定画の存在を知って大いに驚いたといいます。なにしろ当時はアニメ雑誌などまだ創刊されていないころ。作画の手本となる設定画が存在するなど夢にも思っていなかったため、アニメを見る目が一変しました。
今回の展示会で公開された資料の数々こそ、まさに当時、氷川さんが衝撃を受けた「理由」そのもの。そして庵野さんが愛した「世界」のすべてがこの「宇宙戦艦ヤマト 全記録展」だと言えるでしょう。

なお今回の展示会で企画協力した「特定非営利活動法人 アニメ特撮アーカイブ機構」とは、庵野さんが理事長、氷川さんが副理事長を務める団体で、おもにアニメと特撮作品の文化を守り継承することを目的とした組織です。
その団体の理念のもと、散逸しやすい当時の貴重な資料を保護しつつ、当時のスタッフなどに呼びかけをして貴重な資料を提供してもらったのが今回の「宇宙戦艦ヤマト 全記録展」です。そのため現存する資料を原版のまま展示できたり、庵野監督でさえ雑誌の特集やムック本で見たこともなかったような原画なども展示することができたりしました。
展示品の見どころについて庵野さんはこう胸を張ります。
「すべての展示に力を入れました。どこも手は抜いていません。可能であればもっと原版を展示したかったのですが、中には大判サイズの原画もありますし、スペース的に難しい判断を下さなければならない場面もありました。そういった資料は高精度のスキャン画像を作成し、縮小して展示しています。それでも雑誌やムック本で見るよりは精度が高い展示になっているかと思います」
そして2階会場に展示しているメカコレクションのプラモデルシリーズについても、「ヤマトブームでプラモデルが売れたから『次はガンダムでやろう』ということになり、後のガンプラブームへ繋がりました」と歴史的な関係性を説明。どちらが偉大かというわけではなく、歴史の文脈として興味深い説明をしてくれました。
ほかの展示会で設定画や原画のパネル展示がされるのはよくある光景かと思いますが、半世紀前の原画の原版、アフレコ風景、手書き原稿や玩具、さらには新聞の切り抜きまで見られる展示会はそうそうないはず。
映画作品とは異なる庵野監督の熱意の塊、そして当時の“オレたち”の推し活の姿、文字通り文化的にも貴重な資料がまとめて見られるのは、50年記念という節目を迎えてなお人気の『宇宙戦艦ヤマト』ならではでしょう。この機会を逃す理由などありません。
会期は2025年3月15日から3月31日。
会期終了まで、あと……〇日。



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庵野秀明 企画・プロデュース/放送50周年記念「宇宙戦艦ヤマト 全記録展」
開催期間 :2025年3月15日(土)~3月31日(月)
開催場所 :西武渋谷店 A館 7階・2階 特設会場
〒150-8330 東京都渋谷区宇田川町21-1(JR渋谷駅ハチ公口より徒歩3分)
開催時間 :10:00~20:00 (最終入場19:30)
※3月19日(水)は決算棚卸のため19:00(最終入場18:30)までの営業。
企画・プロデュース:庵野秀明
主催 :株式会社東北新社
企画 :カラー/アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)/乃村工藝社
制作 :乃村工藝社/東北新社
協賛 :バンダイナムコフィルムワークス
チケット購入はローソンチケットまで。
(C)東北新社/著作総監修 西崎彰司 ※西崎彰司氏の“ざき”は「山」に「竒」が正式表記。
