新潟国際アニメーション映画祭はどう変化した? 海外作品からレトロ作品まで…見逃せない貴重な作品が集結 | アニメ!アニメ!

新潟国際アニメーション映画祭はどう変化した? 海外作品からレトロ作品まで…見逃せない貴重な作品が集結

2025年3月15日より新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)が開催となる。第3回を迎える今回、コンペティションへの応募作品が前回を上回る数になり、審査にも力が入ったと語る井上伸一郎。フェスティバル・ディレクターとして、映画祭のみどころについて語ってもらった。

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第3回新潟国際アニメーション映画祭
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2025年3月15日より新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)が開催となる。第3回を迎える今回、コンペティションへの応募作品が前回を上回る数になり、審査にも力が入ったと語る井上伸一郎。フェスティバル・ディレクターとして、映画祭のみどころについて語ってもらった。

[取材・文=藤津亮太]

(C)2024Hikita Chisato


●井上伸一郎 プロフィール
合同会社ENJYU代表。数多くの映画やアニメのプロデューサーを務める。アニメ雑誌「ニュータイプ」創刊時に副編集長、マンガ雑誌「月刊少年エース」創刊編集長、KADOKAWA代表取締役副社長などを歴任。最新情報はインスタグラム@inoueenjyuをチェック。

■より「映画祭」らしくパワーアップ


――3月15日から新潟国際アニメーション映画祭が始まります。地方発の国際アニメーション映画祭として2023年に始まったNIAFFも今回で第3回です。井上さんは、フェスティバル・ディレクターとして初回から関わっていますが、フェスティバル・ディレクターとはどういう役職なのでしょうか。

井上 自分でこういう言い方をするのも変なのですが、映画祭の“顔”であることを求められているのかなと受け止めています。表方として映画祭の開会や閉会の挨拶をしたり、裏方としては、さまざまな会社にうかがって映画祭への協力をお願いしたり、というのが主な仕事です。あと私を介すると借りやすくなる作品があれば、その仲介をします。

――第1回に上映された『花の詩女 ゴティックメード』(永野護監督)などは、まさに井上さん案件ですね。

井上 そうですね。あと第2回だと、高畑勲監督のレトロスペクティブを行ったので、権利者やご遺族にご挨拶にうかがったりもしています。そういう裏方の仕事が中心です。

――今回の第3回は、発表されているプログラムを見ると、第2回以上にさまざまな企画が予定されているようです。今回のみどころを教えていただけますでしょうか。

井上 まずはやはりコンペティションを見ていただきたいですね。第1回、第2回を経てNIAFFの知名度が上がったこともあると思いますが、前回までを大きく上回る28の国・地域から69作品が寄せられました。そこから共同製作を含む14カ国の12作品がコンペに選ばれました。応募がこれだけ充実すると、コンペ作品を選ぶ選考会もかなり喧々諤々とした議論が繰り広げられました。ですから12作品に絞る過程で、注目作とか話題作であるにもかかわらずコンペには選ばないという判断も出てきました。そういう議論ができたということ自体が、コンペティションの充実を反映したことだったと思います。

――第2回よりもさらに「国際アニメーション映画祭」らしくなったわけですね。

『オリヴィアと雲』監督=トマス・ピシャルド・エスパイヤット

井上 去年もそういう傾向にはあったんですが、コンペに応募があった国のバリエーションが非常に増えています。個人的に驚いたのは、今回コンペインした作品のひとつはドミニカ共和国の作品(『オリビアと雲』トマス・ピシャルド・エスパイヤット監督)だったことです。昔は長編アニメーションを制作する国は世界の中でも限られた国でしたが、今はさまざまな国が長編アニメーションを制作するようになっていることをより感じました。世界のさまざまな長編アニメーションは、見る機会も限られていると思うので、こういう機会にぜひご覧いただけるといいなと思います。ちなみに日本作品からは『ルックバック』(押山清高監督)、『化け猫あんずちゃん』(久野遥子・山下敦弘監督)がコンペインしているので、そちらも興味ある方は足を運んでいただければと思います。

『ルックバック』(C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会

――コンペティションとともに映画祭の大きな柱となるのがレトロスペクティブです。第1回は大友克洋監督、第2回は高畑勲監督がフィーチャーされてきました。

井上 第3回は今 敏監督を取り上げます。没後14年になりますが、今 敏監督が日本を代表するアニメーション監督であることは変わりません。その作品を、TVシリーズの『妄想代理人』も含めて一気に見られるのは、非常にいい機会だと思います。監督作だけではなく、レイアウトなどスタッフとして参加した『老人Z』(北久保弘之監督)、『走れメロス』(おおすみ正秋監督)、『機動警察パトレイバー 2 the Movie』(押井守監督)、『MEMORIES』(大友克洋総監督、森本晃司・岡村天斎・大友克洋監督)も上映されます。

――『走れメロス』は、DVDにもなっていない映画なので、この上映の機会は非常に貴重ですね。

井上 そうですね。この機会を逃さないでほしいですね。

『走れメロス』©1992.太宰治/朝日新聞社・テレビ朝日・新潮社・電通鉄鋼ビルディング・ビジュアル 80

――そのほか注目のプログラムを挙げるとなにになりますか。

井上 プログラミング・ディレクターの数土直志さんがこだわったプログラムは、オールナイトを中心に行う「日本のアニメCGの転換点」と、ストップモーションアニメのスタジオ・ドワーフにフィーチャーしたドワーフ特集があります。

「日本のアニメCGの転換点」は、ここ四半世紀ほどのCGアニメの歴史を振り返るもので、2004年の『アップルシード』(荒牧伸志監督)、1998年のOVA『青の6号』(前田真宏監督)などが前田監督・荒牧監督のトーク付きのオールナイト上映で見られます。また別日には『FINAL FANTASY』(2001年、坂口博信監督)の上映もあります。

ドワーフ特集では最新作『ボトルジョージ』(堤大介監督)と『こまねこのかいがいりょこう』(合田経郎監督)が上映されます。

『青の6号』 (C)1998 小澤さとる/バンダイビジュアル・EMI ミュージック・ジャパン

■新潟アニメ映画祭ならではの企画にも注目

――最初にコンペティションのお話がありましたが、NIAFFには大川博賞、蕗谷虹児賞というふたつの賞もあります。こちらも3回目になりますが、こちらについても教えていただけますか。

井上 大川博賞・蕗谷虹児賞は、経営者とクリエイターとして日本の戦後のアニメーション文化の立ち上げに大きな役割を果たしたおふたりの名前を冠した賞で、どちらも新潟出身であることから設けられました。制作現場のさまざまな職種にスポットを当てることが狙いで、第2回から大川博賞は制作スタジオを、蕗谷虹児賞は個人のスタッフを顕彰するものと役割を決めて、受賞者を発表しています。

今回の大川博賞はシンエイ動画さん、蕗谷虹児賞は、アニメーターの押山清高さん井上俊之さん、音響監督の木村絵理子さん、音楽の林ゆうきさんに贈賞させていただくことになりました。

蕗谷虹児賞の皆さんの仕事はそれぞれ素晴らしいものです。どうしても賞というと監督が顕彰されることが多いわけですが、監督やプロデューサー以外の方の仕事に注目してもらいたいという狙いがあります。

また、シンエイ動画さんは長い歴史をもち、映画『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』といった作品をコンスタントに丁寧に作っている一方、近年は、『窓ぎわのトットちゃん』『化け猫あんずちゃん』『とびだせ!ならせ! PUI PUI モルカー』と挑戦的な企画に挑んだことが、贈賞に繋がりました。

『化け猫あんずちゃん』©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会

――大川博、蕗谷虹児の両氏が新潟出身ということですが、新潟にちなんだ企画もいろいろと用意されています。

井上 新潟とアニメーションという企画があり、新潟にあるアニメスタジオ(紺吉、ProductionI.G新潟スタジオ)の作品上映やトークを行ったり、新潟出身の長井龍雪監督の『空の青さを知る人よ』の上映とトーク、新潟の佐渡ヶ島が舞台の『アイの歌声を聴かせて』の上映とトークがあります。このほか日本アニメーション学会によるシンポジウム「基幹産業となる『アニメ』において地方はどのような役割を果たせるのか 価値創出のための新潟モデルを考える」や、協賛企画として新潟大学とラサール芸術大学(シンガポール)による研究発表「アニメーション研究の最前線2025」もあります。

――井上さん自身が登壇する企画はあるのでしょうか?

井上 私はオープニングの『イノセンス』の上映に合わせて、ProductionI.Gの石川光久さんのお話を伺うのと、2025年が雑誌「ニュータイプ」の40周年にあたるので「ニュータイプ40周年記念トーク」に登壇して、過去にニュータイプがとりあげてきたアニメ映画のお話をできればと思っています。

『イノセンス』(C) 2004 士郎正宗/講談社・IG, ITNDDTD

――井上さん自身は、アニメーション映画祭の意味や意義をどのように考えていますか。

井上 意義は2つあると思っています。ひとつはコンペティションに象徴される、普段見ることのできない地域や国、普段触れることのない監督の作品が上映されるということです。しかもかなり量としてまとまった形で見られる。それは映画祭ならではの体験で、とても貴重なものだと思います。だから「知らないな」とか「難しそうだな」とか構えずに、気楽に足を運んでもらいたいなと思っています。コスパとかタイパとかいろいろ言われて、最近では評価の定まった作品しか見ない傾向がありますが、未知の作品を見て「なんだこれは?」という驚く経験も重要ではないでしょうか。見たことのないものを見ることで、予想外のおもしろさを感じてほしいと思いますね。

――もうひとつはどういうものでしょうか。

井上 それは監督や関係者と近い距離感で話を聞くことができるところです。第2回のときには、来日した監督を作品上映後にファンが囲んで、即席Q&Aが行なわれたこともありました。リモートで遠くの人とやりとりできる時代ですが、距離の近さ、コミュニケーションの濃密さも、映画祭の魅力だと思います。

東京からだと新潟まで新幹線で2時間ぐらい。ご飯のおいしい土地でもあるので、ちょっと飲みに行くぐらいのつもりで訪れていただいて(笑)、さらに映画祭でほかではできない体験を味わってもらえると、とても楽しいのではないでしょうか。

【新潟国際アニメーション映画祭 概要】
日時:2025年3月15日~20日
会場:T・ジョイ新潟万代、シネ・ウインド、新潟日報メディアシップ日報ホール、新潟市民プラザ、開志専門職大学(シンポジウム・展示)

上映チケット:大人1500円~、高校生以下500円~


新潟国際アニメーション映画祭

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『ルックバック』(C) 藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会
『走れメロス』(C)1992.太宰治/朝日新聞社・テレビ朝日・新潮社・電通鉄鋼ビルディング・ビジュアル 80
『青の6号』(C)1998 小澤さとる/バンダイビジュアル・EMI ミュージック・ジャパン
『化け猫あんずちゃん』(C)いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会
『イノセンス』(C) 2004 士郎正宗/講談社・IG, ITNDDTD

《藤津亮太》

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