第2回新潟国際アニメーション映画祭― ユニークな各賞に輝いた作品の“思い描いたビジョン”とは【藤津亮太のアニメの門V 105回】 | アニメ!アニメ!

第2回新潟国際アニメーション映画祭― ユニークな各賞に輝いた作品の“思い描いたビジョン”とは【藤津亮太のアニメの門V 105回】

3月15日から20日まで新潟市内で、第2回新潟国際アニメーション映画祭が開催された。同映画祭の今年の印象を振り返る。

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3月15日から20日まで新潟市内で、第2回新潟国際アニメーション映画祭が開催された。筆者は、選考委員としてコンペティションのノミネートに携わったほか、現地で合計3つの舞台挨拶・トークセッションの進行役を担当した。ここでは、コンペティションの結果を中心に、同映画祭の今年の印象を振り返りたいと思う。  

第1回との一番大きな違いは、コンペティションに応募された作品が、29ヵ国49作品と昨年を大幅に上回ったことだ。事務局の働きかけも大きかったと聞いたが、「国際アニメーション映画祭」という名前に見合うだけの、応募作の厚みがあった。

審査はまず、筆者を含む選考委員4人によるノミネート作品の選出がある。選考委員は各自が全49作品を鑑賞した上で議論を交わし、12作を選び出した。この12作品から、グランプリを含む各賞を選出するのが3人の審査員。アイルランドの制作会社カートゥーン・サルーンのノラ・トゥーミー監督が審査員長を務め、カナダ国立映画庁(NFB)のプロデューサーを長年勤めたマイケル・フクシマ、細田守作品で知られるスタジオ地図の齋藤優一郎プロデューサーとともに、審査を行った。  

審査の結果は次の通り。グランプリを『アダムが変わるとき』(カナダ/ジョエル・ヴォードロイユ監督)、傾奇(かぶく)賞を『アリスとテレスのまぼろし工場』(日本/岡田麿里監督)、境界賞を『マーズ・エクスプレス』(フランス/ジェレミー・ペラン監督)、奨励賞を『インベンダー』(アメリカ/ジム・カポビアンコ監督、ピエール=リュック・グランジョン監督)が受賞した。このユニークな各賞は、昨年押井守審査員長のときに決まったのもので、今年もそれを踏襲することをノラ・トゥーミー監督が決めたのだという。  

グランプリの『アダムが変わるとき』は、イケてない15歳のアダムの夏の様子を描いた内容。絵柄でいうとかつての『ビーバス・アンド・バットヘッド』のような、個性を強調したスタイル。アダムは、周囲から嘲られたりしながらタフな日々を過ごし、最後にほんの少しだけ変化を見せる。  

審査の前にノラ・トゥーミー監督は、「審査員としては、ストーリーテリングにおけるビジョンの明確化、つまり思い描いていることがクリアに表現されているか、に着目します。自分が熱意を込めたストーリーがわかりやすく表現されているか、ですね。それがとても重要だと考えています」(「第2回新潟国際アニメーション映画祭、ノラ・トゥーミー審査員長談話公開 アニメ一色になる新潟を楽しみ尽くすイベントも同時開催」映画.com/https://eiga.com/news/20240308/17/)と話をしている。審査員長の意見だけで決まるわけではないが、確かに『アダムが変わるとき』は、ストーリーテリングにおけるビジョンの明確化は、とてもちゃんとできていた。  

入賞しなかった作品で印象的だったのは『スルタナの夢』(スペイン/イザベラ・エルゲナ監督)。スペイン人の画家イネスが、ベンガルの作家・社会活動家ロケヤ・ホサインの著作に惹かれ、旅の中でさまざまな思いを巡らせる物語。本作は、現実の世界をペインティング・スタイルのルックで描き、書籍の内容などを切り絵で表現するなど、アニメーション表現の魅力が豊かにあり、筆者は、本作もグランプリの目があるのではないかと思っていた。しかし本作は、独特のムードはあるもののストーリーテリングの妙は薄く、そこが『アダム』と大きく異なるところではあった。  

傾奇賞の『アリスとテレスのまぼろし工場』は、2023年9月から公開された国内作品なので、内容を知っている人は多いだろう。同じ時を繰り返す地方都市に閉じ込められたまま、ずっと暮らしている中学生たちが主人公の物語は、寓話的なファンタジーの部分と、感情の機微のキメの細かさが共存している独特な語り口。個人的に、贈賞するならこの傾奇賞が一番ぴったりくると思っていたので、納得の結果だった。なお本映画祭には、アニメーションの中でも技術職のスタッフを顕彰する蕗谷虹児賞があり、本作の東地和生美術監督が受賞している。  

境界賞の『マーズ・エクスプレス』は女探偵と旧式アンドロイドのバディが事件を追うSF。『ブレードランナー』や『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』といった過去のSF映画の延長線上でかつ、同時にバンド・デシネの雰囲気も色濃くある。日本のアニメファンなら「リアル系作画」の系譜に位置づけて楽しむ人もいるだろう。こうして作品の背景にさまざまな文化の連鎖を感じることができるからこその「境界賞」ということだろうか。  

個人的にノミネート作品の中で「境界」を強く感じたのは『オン・ザ・ブリッジ』(スイス・フランス/サム&フレッド・ギヨーム監督)だった。本作は監督たちが、緩和ケア病棟で取材をした約20人の言葉がベースになっている。また、取材を受けた人々が思い描いたイメージを描き、それも本編に反映されたという。それぞれの人生に対する思いを集めた点で本作はドキュメンタリーそのものだが、本作はそれを「ひとつの列車に乗り合わせたさまざまな人々」という象徴的なシチュエーションでアニメーションとして再構成している。その点で、ノンフィクションとフィクションの境界線上に位置する、アニメーション・ドキュメンタリーならではの1作といえる。  

奨励賞の『インベンダー』は、フランスで過ごした晩年のレオナルド・ダ・ヴィンチを題材にしたストップモーションアニメ。どこまで史実に忠実かはアヤシイ感じもしたのだが――なにしろダヴィンチがアニメで発明品のプレゼンテーションを行うシーンがあるのだ――、キャラクター造形のかわいらしさや、ポイントで挿入される手描きアニメの魅力などがあり、愛らしい作品になっている。  

4月12日から公開が始まる『クラユカバ』(日本/塚原重義監督)も、奨励賞の可能性はあるかなとは思ったが、アニメーションとしての表現の多様性という意味で、審査員は『インベーダー』を選んだのではないだろうか。  
ちなみに映画祭の期間中は、毎日デイリーペーパーが発行され、そこには識者によるコンペ作品の星取表とコメントも掲載されている。これも人それぞれの観点があり、審査員とも異なるまた別の価値観が示されていてとても楽しい。デイリーペーパーはURLがら辿って読むことができるが、星取表以外にも、さまざまな記事が掲載されているので、気になる方はこちらもぜひチェックしてほしい。  

コンペディション作品になるべく多くの配給がついて、一般の人にも広く見られる機会があることを願っている。ちなみに昨年グランプリの『めくらやなぎと眠る女』(ピエール・フォルデス監督)は今年夏の公開が決まっている。


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《藤津亮太》

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