父であるヘルムに対し、侍女のオルウィンはヘラにとっての精神的な母親である。それはオルウィンが母親のようにヘラをケアしているからではない。
オルウィンとヘラの重要なのは、ウルフとの戦闘にヘルムたちが出かけていき、残されたヘラと会話をするシーンだ。ここでオルウィンは、かつて男たちがいなかったとき、女たちが盾を持って戦ったというエピソードをヘラに語る。映画冒頭では「もう残っているものはいない」と語られ、忘れ去られた存在であった「盾の乙女(シールドメイデン)」のひとりがオルウィンであったことが言外に明かされる。そしてこのオルウィンの思いがヘラに受け継がれる。
最後のウルフとの決戦のとき、男性の兵士はローハンの民の脱出のために働いていることもあり、ヘラは単独でウルフに決闘を申し込む。そしてこの戦いの最後は、オルウィンが投げてよこした盾で決着がつく。これは「盾の乙女」がここに受け継がれたという意味合いであり、映画『ロード・オブ・ザ・リング』を知っている観客であれば、本作のナレーションがやはり「ローハンの盾の乙女」と呼ばれたエオウィンであることに思い至ることになる。盾の乙女の精神は、オルウィンからヘラを経て、200年後のエオウィンまで受け継がれたのだ。
ヘルム王と2人の王子の死去により、第一家系はここで途切れ、フレアラフが王となったことで第二家系が始まる。ここにひとつの断絶がある。しかし、その一方で本作は、血統に縛られずに「継承されていくもの=盾の乙女の精神」を描いている。この継承者の側面が、ヘラとオルウィンの関係で描かれる。
オルウィンのもうひとつ、ローハンの民の運命を託されたヘラの自覚を促すと役割も担っている。ヘルムからローハンの民を託されたヘラに対し、彼女は、王とはひとりで考え決める存在であると諭す。この言葉は序盤、ヘルム王が王座に座り誰もいない広間で、ひとりで考えごとをしていたシーンと呼応して意味を持ってくる。そして同じようにひとりで王座に座るウルフの姿を照らし返すことになる。