■色鮮やかな非現実の中で描かれるリアルさ
――『モノノ怪』の世界観に対する印象を教えてください。
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黒沢 本作の設定資料をいただいたときに、絵の細かさと、なによりも監督の熱量から来る設定の細かさに圧倒されました。やっぱりこの世界観が大好きだと、本作と対峙してあらためて感じています。
悠木 アニメーション業界自体にセンセーションを巻き起こしたシリーズですよね。多くの方が「その手があったか!」と思っても、他の追随を許さない。そんな印象の作品です。TVアニメの映像を今見ても、新しさを感じられます。しかも本放送からこれだけ時が経っても、まだ新しい表現を残していましたからね。TVアニメ放送当時に感じた魅力が今の技術で帰ってきますし、色彩と緻密さの迫力に飲まれる感覚がありました。
――本作のストーリーについても、印象を教えてください。
悠木 絵のアーティスティックさ、非現実さに対して、「ありえちゃったら怖いな」となぜか共感できる怖さを終始感じていました。しかもそれが、淡々と仕事をこなせるアサの視点で描かれていきますから。武器を持たない人々がメンタルで殴り合っているような濃度の作品です。
黒沢 「なんでわかっているのに繰り返しちゃうんだろう」と、本作を見て皆思うかもしれません。とくに女子には、あらためて突きつけられて絶望してしまう部分があると思います。男性視点の感想もぜひ聞きたいですね。
悠木 気になります! 嫉妬の感情は男性にも絶対ありますし、仕事に対する向き合い方にも思うところがあるはずです。
あと、これまでさまざまな作品に登場した唐傘お化けが、いちばん怖く描かれていると思います。
黒沢 唐傘史上最恐。
悠木 そう! 唐傘って舌を出して一本足で歩いてくる、かわいいお化けとして描かれることが多かったじゃないですか。でも本作はめちゃくちゃ怖かったです! 『モノノ怪』って、絵が明るいホラーなんですよ。
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黒沢 私がもうひとつ感じたのは、状況を言語化していくおもしろさです。薬売りさんが「形」「真」「理」を探っていく過程を見て、「言語化するって、こういうことなんだな」と感じました。
悠木 名前が付けられていけばいくほど、目の前の歪みが明らかになっていきますよね。日本の文化は、いかに大事なことを口にしないか、という方向性で発展していったのだと、本作を見てあらためて思いました。
黒沢 台本を読み返しても、明言していないことの多さに気付きますよね。気に入っているセリフを聞かれても、ひとつに絞りきれないか、物語の核心を突きすぎて言えない。きっと古き良き日本を描こうとすると、セリフの傾向もそうなるのだと思います。麦谷たちにもいいセリフがあるんですけど、ネタバレになるので言えません(笑)。
悠木 麦谷のほかのセリフはほとんど「はぁ~ん?」「ですよね~?」でしたよね(笑)。そのポップさすら飲み込んでいく大奥の闇が、本作では描かれています。情念に満たされた大奥の輪郭をかたどっていく物語だと感じました。
■「モノノ怪しかいないじゃん!」大奥と『モノノ怪』の親和性
――本作に出演する前後で、大奥に対するイメージは変わりましたか?
悠木 すごいバケモノがいたんだな、と(笑)。
黒沢 わかります(笑)。あと、大奥について文献などで調べるうちに、アサやカメのように選ばれるためには相当お家からアプローチをかけないといけないのだと知って。それを考えると、本作の結末にもさまざまな意味合いが含まれていそうです。ほかにも間取りや役割などがうまくできているシステムだな、と勉強になりました。
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悠木 人間をシステムにしている感じがありますよね。しかも絶対に人が歪んでしまうようなシステム。それを本作ではとても強調していて、恐ろしさが伝わってきます。
大奥は映画やドラマ、アニメなどで何度も描かれてきましたが、それを今回『モノノ怪』の解釈で見られたのがうれしかったです。皆さんも「『モノノ怪』×大奥」と聞いたとき、相性のよさにピンと来たと思います。
黒沢 「モノノ怪しかいない空間じゃん!」って(笑)。
悠木 これまで扱ってこなかった、とっておきの舞台だと思います。だから私は本作をきっかけに大奥のイメージが変わったというよりも、「『モノノ怪』的大奥解釈」を見られてよかったです。
――本作でお気に入りの女性キャラを教えてください。
悠木 淡島さんと麦谷さんです。2人はとてもいいヒールとして登場しますが、きっとヒールでは終わりません。言動は意地悪なのですが、コミカルに演じてくださっていますし、がんばって生きているのできっと嫌いにはなれないと思います。全員が一生懸命生きている大奥の被害者としてわかりやすく描かれている2人なので、ぜひ注目していただきたいです。
黒沢 溝呂木の双子の娘である二日月ちゃんと三日月ちゃんが好きです。キャラクタービジュアルの時点でとてもかわいくて。しかも歌声が印象的です。自分が本作の円盤を買うとしたら、「あの歌を聴きたい」という理由になると思いました。ほかにはフキ様の、どエロいシーンも最高です!
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――今作での薬売りの活躍はいかがでしたか?
黒沢 カッコよく見得を切る瞬間が増えましたよね。
悠木 きっと劇場版だから!
黒沢 なるほど、有料仕様なんですね(笑)!
悠木 みなさん薬売りさんのカッコいいところが見たいわけですから。そこはあってくれないと困りますよね。
黒沢 薬売りさんは主人公でありつつ、最大のボケでもあると思いました。周りの警備のお兄ちゃんたちと、ちぐはぐした会話をしているのが抜け感になっています。
悠木 ひとりだけまったく違うことを警戒しているし、まったく違うことで抜けている。その浮世離れ感が魅力的です。
どの時代にも絶対にいない異質な存在として、薬売りさんがいます。それでいて男子でも女子でもない感覚がありますよね。何もかもの中立。だからきっと退魔の剣が抜けるのでしょう。
黒沢 剣を抜くときの指、真似したくなりますよね! アクションシーンも本当にカッコいいです。まるで天狗のような身軽な動きに驚きました。
悠木 薬売りさんってキービジュアルの時点でもすでに素敵ですが、アップで描くと本当に華がありますよね。彼が出てくるシーンは一層華やかです。しかもあのビジュアルでアクションを描いているのもすごいです!
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