ライブ声出し復活― コロナ禍を経た今後の“楽しみ方”はどうなる? 声優・アーティスト「桃井はるこ」にインタビュー 2ページ目 | アニメ!アニメ!

ライブ声出し復活― コロナ禍を経た今後の“楽しみ方”はどうなる? 声優・アーティスト「桃井はるこ」にインタビュー

ウルトラオレンジを愛しヲタ芸を愛するシンガーソングライター・桃井はるこさん。自身が手掛けた楽曲でもサイリウムをテーマにした作品が多く、ライブ現場主義の創作スタイルを貫いています。そんな「モモーイ」に声出しライブに対する想いや創作論についてうかがいました。

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■モモーイ流! ライブを意識した楽曲制作スタイル

――桃井さんはクリエイターとしても活躍されており、自身の曲はもちろん楽曲提供もされています。
作詞作曲ではコールが入る余地を作るなど、ライブ重視の創作スタイルとお聞きしましたが、それは今も変わらずですか?

桃井 少し変わりましたね。コールがまだ一般的じゃなかった時代はコールしやすいよう間を開けるとか、初めてライブに来た人でも応援できるよう覚えやすい曲にしたことはありました。

でも今はそこまで重視しなくなりましたね。自分が想定していたのとは違うコールがファンの皆さんから出てくることがあり、それを楽しみにするようになりました。

――今はどういった作り方をされているのですか?

桃井 ボーカルの迫力が増すようにとか、その人がそこで歌っている感じがするように……とかですね。たとえばサビ前の5秒間をめちゃめちゃ伸ばしたりすると、みんな「フゥーーー!!」って高まってくれるんですよ。そうやってパフォーマンスを引き出すことでコールを促すようにしたいと思うようになりました。

――なるほど。

桃井 2月28日にリリースされたばかりの純情のアフィリアの新曲「ファンシー・フリー・デストロイヤー」は私が作詞作曲を担当させていただいたのですが、声出しOKのタイミングだったので、最後にみんなで「デストロイヤー!!」って叫んでもらうことをイメージしました。

あとはアウトロをなくし、メンバーの声で曲が終わるようにしましたね。それもファンの皆さんに「そこにメンバーがいる感」をより強く感じてもらいたくてそのようにしました。

――どこか桃井さんの創作スタイルは独特な気がするのですが、何かベースになっているものがあるのですか?

桃井 おそらく根底の部分でプロ野球の応援が影響している気がします。私はヤクルトスワローズのファンですけど、ジャイアンツの応援歌って工夫されていると思うんですね。

ジャイアンツの応援歌って選手の名前を叫ぶところが必ずひとつあって、応援団の人が「わからない人は『坂本』だけでも叫んでください!!」って言うんですよ。

つまり応援歌を知らなくても、1ヶ所叫ぶところを入れるだけで参加できるんです。それに触発されたのが先ほどの「ファンシー・フリー・デストロイヤー」の「デストロイヤー!!」の部分なんです。

応援歌って、どれだけ選手のためになっているか実は分かりませんよね。その意味では「お前のことが大好きなんだよ!」という観客側の意思表示であり欲求だと思うんです。そこってアイドルと重なるんですよ。

――創作スタイルの話はフレーズの意味や楽曲としての完成度を語るインタビューをよく見かけますけど、桃井さんのように「その先にあるもの」というか、ライブの盛り上がりまで考えているのは珍しい気がします。

桃井 おこがましい言い方ですけど、私はその場を制圧できるかどうかで盛り上がり方が違ってくると思っているんです。私が作った曲をそのアイドルが歌ったときにライブ会場がその色で一色になるかどうか、一瞬で空気が変わるかどうかをつねに考えて作っています。

幸い私は編曲の方に恵まれているので、「ファンシー・フリー・デストロイヤー」もすごく高揚感あるアレンジにしていただきました。ただ恵まれすぎて自分で編曲することがなくなっちゃいましたから、最近はまた自分でやろうかなと考えています(笑)。

あとVTuberの名取さなさんに提供した「PINK,ALL,PINK!」は、まだVTuberのライブステージが一般的ではなかった頃でしたので、ファンの皆さんがコールし慣れていないだろうと思い、繰り返しのコールを入れて一体感を出しやすくしました。

ただあの曲を作った直後にコロナになってしまいましたからね。公演中止になったりして彼女も随分と辛い思いをしたと思うんです。今は歌えるようになって私も本当に嬉しく思っています。

――最近はKizuna AI株式会社所属のVTuber・loveちゃんにも楽曲提供されていましたね。

桃井 「love chance -らぶのおんがえし-」ですね。2月18日にloveちゃんが単独ライブ「lovechan 1st live “dreamy girl”」を開催したのですが、「love chance -らぶのおんがえし-」は歌うだろうなと思っていたところへ、私の「もっと、夢、見よう!!」もカバーしてくれて本当に驚きました。まさかのサプライズだったんですよ!

もともと「もっと、夢、見よう!!」は、私の音楽活動のひとつであるUNDER17が解散しそうな時に、言えなかった本音や自分の決意みたいなものを書いた特別な曲でした。その曲をアレンジして歌ってくれてたんです。自分の根底から沸き上がってくるものは、どんなに時間を経ても共感してくれる人がいるんだなと噛み締めましたね。

loveちゃんもまだまだ暗中模索というか、それこそVTuberは道なき道ですから、そこが当時のUNDER17と重なったのかなと感じています。20年の時を経て共感してもらえるって、音楽って本当にすごいです!!

――VTuberが周年ライブや生誕祭で歌う曲は、そのときの本人の気持ちを代弁するケースが多いです。その意味では、桃井さんの楽曲ってぴったりなものが多いと思うんですよね。

桃井 何かを演じるというよりは、本人が歌ってるから気持ちを重ねやすいんですかね。今年はサブスクにも力を入れようと思っているので、ぜひよろしくお願いします(笑)。

▲2020年12月13日に「赤羽 ReNY alpha」で開催された「桃井はるこバースデーライブ2020 『ロスト・アンド・ファウンド -Lost and found-』」。

■怒涛の変化を迎えた3年間で得られたものもあった

▲2021年5月22日に「Veats Shibuya」で開催された「桃井はるこ20周年ワンマンライブ 『20世紀のロミオたちへ』」。後ろにアコースティックコーナー用の楽器が待機しています。

――この3年の変化といえば、桃井さんのワンマンライブでは新たにアコースティックコーナーを取り入れました。以前は全力疾走で駆け抜けていましたが、ゆったりできるアコースティックコーナーが入ることで楽しみ方が広がりましたね。

桃井 発声禁止が、逆に「自分の歌をしっかりと聞いてもらえるチャンス」だと思ったんです。CD用に録音したのとは違う聞こえ方がしたり、歌詞をじっくりと味わっていただいたりできたらと思いました。

もちろん若者が騒ぎたくなる気持ちもわかっています。私も20代の頃はギュウギュウになりながらライブに参加していましたし、高校生の頃はアイドルの現場でジャンプしていましたからね。

――新しい試みもそうですが、そもそもこのコロナ禍で年に2度、ワンマンライブを欠かさずできたというのが奇跡的でした。そのあたりからも桃井さんがいかにライブを大切にし、自分の居場所を守るために踏ん張ってきたかわかります。

桃井 毎年ワンマンライブができているのは本当にありがたいですよ。思い返せば2019年までは発声がOKで、その中でいかに自分の声がかき消されないか、ある種のバトルをお客さんとしていました。コールって悪者にされがちですけど、どんなにコールの声が大きくても、私がそれ以上に大きな声で歌えばいいだけなんです。

私は歌がうまいと言われるよりは、ライブがおもしろかったとか、「なんかモモーイがすごかった」と言われるほうが嬉しいんです。そしてその「なんかすごい」にはモモイストも含まれているんです。それがコロナ禍で発声禁止になり、「なんかすごい」ができず自分の声だけで勝負しなきゃいけなくなったことでずいぶんと悩みました。

でも発声禁止の状況でも「モモイストならきっとここでこういうコールを入れてくれるはず」と思っていましたから、次第にモモイストの心のコールが聞こえるようになりました。それに配信という新たな公演形式がプラスされたことで「モニターの向こうにもモモイストがいる」と考えるようになり随分と励まされました。

――そういえばワンマンライブはこの3年で配信も同時に行うようになったんですよね。

桃井 おそらくコロナ禍にならなかったら絶対やっていなかったと思います。ライブは現場で観て価値があると思っていますし、それは弊社の社長も同じです。ただ実際にやってみると、「県をまたげないからありがたい」とか、「子育て中でも参加できました」という感想をいただいて、やってよかったなと思いました。選択肢が増えるのはいいことです。それにこの3年、悪いことばかりではなかったと思いたいじゃないですか。

――配信はただ便利になったというだけでなく、そのアーティストの一番輝いているところを観る機会を増やしてくれます。でもやはり映像と現場は別物なので、できるなら現場に行きたいですよね。

桃井 そう思ってもらえるよう、これからもがんばります。

■公開生放送番組「モモーイ党せーけん放送」も声出し解禁に!!

――桃井さんが月に一度やられている「モモーイ党せーけん放送」という番組でも、このたびようやく発声OKになりました。桃井さんにとってはその番組のミニライブコーナーが3年ぶりの発声OKライブになるわけですが、番組を直前に控えた今の心境はいかがですか?

桃井 どうなんですかね……。当初はけっこう「声出し解禁になる日を待っています」というおたよりをいただいたんですよ。最近はあまり言われなくなりましたけど(笑)。

セットリストも提出していないので悩み中ではあるんですけど……たぶんコールを意識した曲を選ぶのかな……。

ただ声出しOKをきっかけに「はじめて観覧に来ました」というかたがいらっしゃると嬉しいですね。楽しんでもらえるよう頑張ります。

――しかも番組開始10周年という節目です。

桃井 ありがたいですよね。この「モモーイ党せーけん放送」という番組はトークコーナーとミニライブで構成された番組です。緊急事態宣言の期間は歌えない時期もあり、マスクをしてトークのみで終わらせたりとか、キーボードを持ち込んで演奏をしたり、とにかくどうにか乗り越えたこともありました。それだけにお客さんの前で歌える喜びを今噛みしめています。

あと今回は、トークコーナーのおたよりテーマのひとつに「『転売ヤーをぶっとばせ!』の口上を考えよう!」というものを入れてるんですよ。

――「転売ヤーをぶっとばせ!」は、このコロナ禍に桃井さんがYouTubeで発表した新曲ですね。

桃井 そうなんです、その曲のコール部分を募集したんです。というのも、コールってヲタ芸と同じように迷惑行為に思われている部分がありますよね。そんな風潮になりつつあったところへこの発声禁止ルールです。どこか最近のライブ文化から失われつつあるような気がして寂しく感じていたんですよ。

確かに歌声にかぶってうるさいと感じる時もあると思います。ただ私はコールの楽しさも知っていますから、良いところも悪いところも理解した上で「色々な楽しみ方があって良いんだよ」ということを提示したくて、今回このメールテーマを設定しました。

その、みなさんが考えたコールを発表したあとにライブコーナーに入ろうと思っています。はたしてどうなることやら……(笑)。


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《気賀沢 昌志》

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