「アニメ産業レポート2022」から読み取るテレビと動画配信の在り方【藤津亮太のアニメの門V 第89回】 | アニメ!アニメ!

「アニメ産業レポート2022」から読み取るテレビと動画配信の在り方【藤津亮太のアニメの門V 第89回】

11月上旬に2021年のアニメ産業の概況をまとめた『アニメ産業レポート2022』がリリースされた。こちらから、アニメビジネスの概況と、TVアニメと配信のこれからを考察していく。

連載 藤津亮太のアニメの門V
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11月上旬に2021年のアニメ産業の概況をまとめた『アニメ産業レポート2022』(日本動画協会)がリリースされた。
こちらでまとめられたアニメビジネスの概況と、いくつかのニュースを照らし合わせながら、TVアニメと配信のこれからを考えてみたい。


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■メディア媒体を絞らない「ウィンドウ戦略」


まずとっかかりとして読みたいのは、東洋経済オンラインの「Netflixが日本での「アニメ製作」を減らす事情」(https://toyokeizai.net/articles/-/627318)。

この記事では、Netflixが本年4月に会員減少を発表した後の、レイオフや広告付きプランなどの事業再構築を取り上げ、それが国内のアニメ製作・制作会社が進めてきたNetflix用企画に影響を与えている、というふうに話は進む。

そこで指摘されているのが、Netflix独占配信だと作品の周知が行き届かず、作品の2次展開(グッズ販売など)が難しいというポイントだ。このあたりはSNSなどでも「独占配信作品は存在感がなく、地上波と比べて、ファンが反応する機会を損失しているのではないか」という指摘がされている通り。

同原稿は「アニメ制作会社がNetflixなどの動画配信に注力する流れもあったが、「直近では2次展開しやすいテレビに回帰する動きが強まっている」(アニメ制作会社幹部)」(同原稿)と状況を解説している。
この記事の取材内容はその通りの部分もあるが、気になるところもある。「Netflix独占配信の企画」と「動画配信への注力」があまり区別されずに扱われていることと、動画配信とTVを二者択一の存在としてとれる扱いにしている点だ。

ここで大前提を確認しておきたいが、『アニメ産業レポート2022』にも「昨年(引用者注:2020年)にTV市場を上回った配信市場は、名実ともにアニメの視聴ウィンドウの中心的存在になったといえる」という指摘がある通り、すでにアニメ産業は配信ビジネスなしでは立ち行かないのである。ただし大事なのは、だからといってTVが不要なメディアとはならないことだ。
『アニメ産業レポート2022』には、ビデオパッケージ販売から動画配信へというビジネス構造の変化を前提に、メディアミックスがさらに進化した「ポートフォリオ型収益」へと変化していくと現状の流れを分析している。

筆者なりにポイントをまとめると、従来のメディアミックスが「メディア」間をコンテンツが“越境”していく点にフォーカスがあてられていたのに対し、ポートフォリオ型収益は、「メディア」の越境というより多数の「ウィンドウ」へと同時にパラレルに展開していくというイメージだ。そしてそのウィンドウごとの規模に見合った収益を上げてトータルとして全体としてビジネスを回そうという発想だ。この発想の背景に、TVアニメがSVOD(定額制動画配信)で配信されるのは、メディアの越境ではなく、「ウィンドウ戦略」と考えたほうがわかりやすい、というところがあると考えられる。

なので大状況としてみると、動画配信かTVかではなく、動画配信「も」TV「も」(さらにいえば劇場でのイベント上映も)視野にいれて、その作品のポートフォリオを組み立てていく時代になりつつあるのが現在の状況なのだ。だから動画配信との対比で「TV回帰」という部分にだけ注目するのは、いささか視野が狭いと思う。動画配信「も」TV放送「も」必要なポートフォリオ型収益の場合、それはあくまで展開するウィンドウの比率が少し変わるだけの問題に過ぎない。

このポートフォリオ型収益という観点でみると、Netflix独占配信の弱点も、Netflixの「独占」等の縛りによって、製作委員会が柔軟なポートフォリオが組みにくい、というふうに再解釈することができる。ただこれは、あくまでNetflix独占配信作品の弱点であり、アニメ産業の稼ぎ頭となった配信サービスと全般の弱点ではなく、むしろレイヤーが異なる。むしろ劇場公開との連動(『地球外少年少女』『バブル』『雨を告げる漂流団地』)が続くNetflixが、製作委員会とどのように協業して、ポートフォリオ型収益にコミットしていくか、あるいは、しないのかが今後の注目点になるだろう。

逆にNetflixだけでなく配信サービス全体に共通する問題点もある。『アニメ産業レポート2022』によると、配信サービス業界全体にビジネス・データの開示の姿勢が薄いことを指摘する。
「制作会社へのフェアな還元を確保するには、配信事業者による更なるデータの開示が必要だ。2022年6月には、公正取引委員会がニュースサービスを運営するプラットフォーム事業者に対して、報道機関各社が共同でデータ開示を求める行為が独占禁止法上問題にならないという見解を公表している。配信が作品視聴のメインウィンドウになった今こそ、放送・ビデオグラム・劇場映画のような指標となる数字が示されることが求められている」。


■TV局がアニメに期待するのは「放送外収益」


ここで一方のTVのほうに目を転じると、アニメションビジネス・ジャーナルのTwitter(@animationbiz_jp)が紹介した、テレビ東京・石川社長の定例会見が興味深い。

石川社長は『SPY×FAMILY』について10月の定例会見で「平均視聴率はALLで1.8%。特筆すべきなのは、タイムシフト視聴率が5.6%。特に10月1日初回のタイムシフト視聴率は6.0%と、テレビ東京のタイムシフト視聴率として過去最高」とその人気の高さを報告した。7月の会見では「我々にとって非常に重要な原作の確保ができたという作品」と期待を語っていたが、その第2期がスタートし、期待に応える数字を挙げたのである。(ちなみにタイムシフト視聴率が高いのは『SPY×FAMILY』が小学生にまでリーチしているからという背景があるだろう)。

ここだけ見ると「TV回帰」の可能性も脳裏をかすめるが、それほど話は単純ではない。
『アニメ産業レポート2022』では在京局のアニメへの取り組みを総覧する中で、テレビ東京の現状にも触れている。同社は2020年から2023年までに「配信とアニメ」に関する粗利益を150%増にすると計画を立てていたが、好調のため目標を180%増(186億5400万円)に情報修正した。

つまりテレビ東京にとって、アニメはまず放送外収入を得る重要な手段であり、その上で、視聴率もとってくれればありがたい、という位置づけであることが見えてくる。視聴率が長期的にじわじわと下がっている状況で、放送外収入を得られるアニメは重要なコンテンツで、これは大なり小なり他局でも似たような状況といえる。
TV局もまた製作委員会の一員として、まず全体的な「ポートフォリオ」を考えており、かつてのように単純にTV放送の視聴率にこだわっているわけではないのである。ことアニメに関しては。

このように動画配信サービスとTVはポートフォリオの構成要素として互いの短所を補い合いながら共存していくものというふうに考えたほうが、今のアニメビジネスの状況は見通しがよくなるはずだ。だからこそどのタイミングでどういう形で動画配信を開始し、どのタイミングでTV放送をするのかについては、もうちょっと試行錯誤の時期が続くだろう。

しかし一方で、「TVで多くの人に瞬時に知ってもらう」「それがSNSで拡散される」というプロセスが今後、何年後まで有効なのかは疑問が残る状況でもある。以前検証したこと(https://qjweb.jp/journal/51558/2/)があるが、TV→SNS→話題という回路が有効なのは、現時点で「TVもネットも嗜む40代」がそれなりの人口でいるからではないかというのが、当該の原稿の趣旨だ。

これが現在の20代になると、人口も減るし、TVを見る習慣を持つ人もぐっと減る。つまりあと10年後には、TVはなくならないだろうが、TV→SNS→話題という回路が今よりもぐっと弱まる可能性は十分あるのだ。その時にアニメ産業は果たしてどのような「ポートフォリオ」を組むのか。「TV回帰」といった2~3年のトレンドの行方も確かに気にはなるが、現在はもっと大きな「時代の変化」の真っ最中であるように思うのだ。

《藤津亮太》

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