2020年6月にスマホ向けゲームとしてはサービス終了を迎えるも、同年9月からクラウドファンディングを利用したノベライズプロジェクトが始動していた『ららマジ』。
ノベライズプロジェクト開始から約1年が経過し、2021年8月に制作が完了。すでに小説やサントラを手に、改めて文字媒体に落とし込まれたこれまでの物語と、アプリでは見ることのできなかった「物語の続き」を楽しんでいる方も多いかと思います。
今回は、そのノベライズプロジェクトにて、ストレッチゴールの達成により制作が決まった「ららマジ スペシャルサウンドトラック」についてのインタビューを実施。Disc3に収録されている新曲群について、ノイジークローク・いとうけいすけ氏&CloverWorks・蟹江氏にお話を伺いました。
約3年前、筆者が「インサイド」にて実施したサントラのインタビューやライナーノーツと合わせてお楽しみください。
『ららマジ』サントラ発売記念―西村悠氏&いとうけいすけ氏インタビュー(2018)
サントラDisc1ライナーノーツ
サントラDisc2ライナーノーツ
なお、今回のインタビューは、小説版のネタバレありで実施しています。まだ本編を読んでいないという方は、ご注意ください。
――では最初に、クラウドファンディングを終えていかがでしょうか。
蟹江アプリの運営が終了した時点では「まだ終わってないぞ」と思っていたのですが、今は達成感が大きいです。
今回の返礼品制作の一番最後が、電子書籍版への曲の配置だったのですが、小説の一番最後に「魔法の音楽は、続いていくから。」を配置し、試聴したところで「ああ、ようやく終わった……」と。物語としてはもちろんまだまだ途中なのですが、気分的には一息つけた気でいます。
いとうサービス終了した後に、この勢いでコンテンツが続いて行くというのは初めての経験で。あれよあれよという間に楽曲制作が決まり、純粋に『ららマジ』の音楽をまた作れるという喜びと、驚きの連続の中でしたね。
今回は比較的自由に曲を作れるということで、それはそれで大変なこともあったのですが、それ以上に、原稿を執筆された西村さんや、特別仕様の装丁やサントラなど、物理的なモノを作られていた方には頭が上がらない思いです。お疲れさまでした、と言いたい気持ちでいっぱいです。ジャケットも良かったですよね。
蟹江今回は、前回の百花が見ていたもの、ということで対になっていますね。
いとうだからこそ、あの子の正体は何なんだろうというところまで、小説化してほしいですね。
蟹江現状、まだふたりとも何者なのかよくわかりませんからね(笑)。
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――ぜひ続きはお願いしたいところです。では、早速ですが、今回新録となるサントラDisc3の楽曲について、お話を伺っていければと思います。
◆部員たちのテーマ曲について
――「楓 智美のテーマ」はゲーム版でも流れていましたが、今回初収録となる曲ですね。
いとうまず、智美の前に12幕の幸の音楽(「いつかの ~卯月幸のテーマ~」&「あの日 ~幸せを願う~」)がありましたね。サントラのクレジットにもありますが、こちらは私ではなくGOUTERさんという方が曲を作っています。
前回のインタビューでお話しましたが、シーズン2後半は担当楽器をフィーチャーした楽曲を作っていましたが、幸の曲は南国イメージの有名な曲をモチーフにしながらも、ウクレレそのものにはそこまでフィーチャーしておらず、どちらかといえば物語に寄り添った素晴らしい曲に仕上がっていました。
それなら私もその路線を引き継ごうということで、智美の楽曲ではバンド色をあまり強く前面に出さず、フロウライン編(小説版で言うAct.3)のテーマを基調としたホームドラマ路線で作っています。
――意外としっとりとした曲でしたよね。
いとうそうなんですよね。ベースをきちんと弾くという部分は残していますが。
智美のストーリーってコミカルな部分が多いじゃないですか。学ランにリーゼント!みたいな雰囲気で、昭和の香りがするというか、昔のヤンキー漫画みたいなテイストがありますよね(笑)。
なので、バンドサウンドの上にブルースハープが乗っているという割と古めな編成でしっとり作ってみたのが「楓 智美のテーマ」ですね。
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――昔のヤンキーもので、最後に流れてるようなイメージもありますね。
いとうヤンキー同士の友情が芽生えて、夕日の河川敷で語り合っているシーンで流れているような(笑)。イメージとしてはベタですね。智美のストーリーともハマってくれたのではないかと思っています。
蟹江シナリオ側では、古典的なヤンキーものをモチーフにしつつ、今の人たちにイメージが伝わるようにと気にしながら制作されたストーリーなので、それを支えてくれる曲をいただけたと思っています。
いとうよかったです(笑)。ありがとうございます。
――「洲崎 麻衣のテーマ」についてもお話伺えますか。
いとう智美と麻衣については、シナリオを事前に頂いて作っていたのですが、麻衣の方はオーダー的にも「おまかせ」な面が多くて、さぁどうしようかなと(笑)。ドラムがにぎやかな音楽も考えましたが、シナリオ終盤の救いのシーンで使う音楽となると、どうやってドラムを使いながらしっとりさせようかと、結構悩んでましたね。
結果的には、ドラムのパートを作りつつも、それ以外の楽器で作るメロディ部分があまり強く主張しすぎないようにしました。ドラムが暴れるスローバラードのような。ゲームの音楽を作るというよりかは、映像作品の劇伴を作るイメージでしたね。
このときは事前に頂いたテキストをフル活用しようと思いまして。テキストファイルを開いて、頭の中で音読しながら、それと同じくらいの速さで自動スクロールし、即興でピアノを弾いてみたんですよ。そうしたら最初5分以上の曲ができてしまって。
でも、読む速度とバッチリ合っていたので、一回これで納品してみないかと弊社のサウンドディレクターに聞いてみたのですが、却下されてしまいましたね(笑)。そこから今の2分台の尺に頑張って収めています。
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――ドラムから来ると思っていたので、ピアノから始まったのは結構意外でした。
いとうあそこが即興で弾いていた部分ですね。読みながらリアルタイムで曲を作るというのは、私自身初めてだったんですけど、楽しかったです(笑)。
――以前は「パーカッション系部員の楽曲は悩みどころ」という話もありましたが、麻衣先輩はどうでしたか?
いとう太鼓やカスタネット、トライアングルなどは考え方を変えなくては、という話ですね。今回の麻衣のドラムについては、雰囲気に溶け込ませつつも、良いところ取りの楽曲になったのかなと思っています。
――フロウライン編ということで、激しめの曲が来るかもと思っていたのですが、智美も麻衣先輩もしっとりめなんですね。その分「ケジメバトル」「弾んで弾けて」は元気な感じが出ていますが。
いとういつも曲名は後で決めていたので、制作段階ではどちらも部員イメージの楽曲のつもりで作っていますね。
蟹江『ららマジ』のキャラテーマって、どうしても使用するシーン的に暗めの楽曲になってしまうんですよね。便宜上、各部員のテーマと曲名が付いていますが、救われたあともこの雰囲気の曲でいいのか、と。ゲームのための曲なので、仕方ない部分ではあると思うのですが。
その点、フロウライン編は、部員たちの遊びのある面と、シリアスな面、単純に言葉で二面性と表現するよりもずっと、人間的な奥行きを感じられる楽曲を作っていただけて、非常にありがたかったですね。
いとうよかったです、本当に。
蟹江今回の小説についても、電子書籍版では音楽が流れる仕様になっていますが、バッチリハマったので、改めて驚きました。Act.3のラストなどは、まさしく劇伴のように収まっていて、映画の終わりみたいになってましたよね。本当だったら本文の終わりに停止ボタンを置くんでしょうけど、思わず奥付部分にボタンを置いてしまいました。これはもうエンディングロールだと(笑)。
いとういやぁー、よかった!ようやく肩の荷が降りました(笑)。
――さて、ここからは完全新曲ということで、「藤巻 雪菜のテーマ」からお聞きできればと思います。智美、麻衣先輩とはガラッと変わりますね。
いとうすごく違いますよね。様々な効果音やオノマトペを口にして、場を和ませるようなシーンが多い子でしたので、曲を作るときにも、楽器にこだわらずとにかく色々な音を入れたいと前から思っていました。
そこに、予告編でゲームモチーフという情報が入り、さらに幸・智美・麻衣の舞台設定が日常から地続きになっていることに対して、雪菜編ではファンタジー世界に飛ぶことになるというのが明らかになりまして。そうなると、シーズン2(小説版で言うAct.2)での自由なイメージをもう一回持ってくるのもいいなと思ってのあの曲です。
確か、以前の西村さんと蟹江さんのインタビューで、雪菜の音楽の趣味の話をされていたと思うんですが、それが私が持っていたイメージと近かったんですよね。ジャンルで言えばフューチャーベースが近く、その上にチップチューンのテイストが乗り、さらに様々な音を詰め込んで行く。そして何よりかわいい曲にしていこうと。
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――「ノベライズプロジェクト達成記念イベント」で聴くことができた新曲のひとつですが、これは一発で「雪菜先輩だ」とわかりました。
いとうわかっていただけると嬉しいです。あの曲こそ、雪菜編以外では使えないような専用曲になってますね。小説なので、あまり流用とかは考えずに、雪菜のイメージのど真ん中に投げてみたつもりです。
――そういえば、前回のインタビューでは、雪菜先輩が音を色に感じるような「共感覚」を持ってるんじゃないかと話されていましたが、まさしくそのとおりでしたね。
いとうでしたね。いやぁ、雪菜編、とてもよかったですよ。(同席しているノイジークロークの方の顔色を伺いながら)ストーリーに関する話なので程々にしますが、雪菜編が一番おもしろかったですね。本当に雪菜、めっちゃ好きです(笑)。
蟹江ありがとうございます(笑)。
いとう一番自分を重ね合わせて読んだ気がします。菜々美・紗彩・亜里砂・雪菜、このあたりはダイレクトに音楽との向き合い方を扱ってると思いますが、雪菜編が一番しっくり来ましたね。
蟹江ちなみに、今おっしゃっていただいた通り、この4人の話は同じ種類のコンセプトを持っていますよね。一応、高校生の部活話なので、全キャラ音楽とその周辺という話にしていますが、この子たちは特に「音楽と向き合っている人」という所に軸を置いて書かれています。
音楽をやっていない人から見ると「天才」に見える人たちなんですけど、それぞれの内面は当然違うものであるという。百花や梨花あたりの物語も、そういった要素を持ったものになるのかもしれません。
いとうそうなんですね!百花が雪菜をしごいて「見たことのない景色を見せてあげる」と言っていて、それがどんな景色だったのかっていうのは結局わからないんですよ。楽しみですねー!
――雪菜先輩の話は色々な意味で衝撃でしたよね。2020年6月のインタビューでもありましたが、たしかにここで止めたら暴動が起きるなと(笑)。
いとう確かにそうですね。本当に衝撃でしたよ!ゲームで見れたとしても、2場の終わりくらいに「退部する」という話が出て、ストレスMAXの状態で全国のチューナーさんがしばらく更新を待つとなると、本当に小説で一気に読めてよかったなと(笑)。そうじゃないと辛すぎる!雪菜編で一度失敗して、「調律の是非を問う」というAct.3の裏テーマが浮き彫りになり、カグラの介入もあり……と衝撃の連続でした。
――通しで読めて逆に良かったところはありますよね。では、音楽の話に戻しまして、今回の新曲作りのオーダーというのはゲームの頃と結構違いはあったのでしょうか。
いとうゲームの頃は、シナリオやイベントがあり、それに対して開発側のサウンドチームが「どう音で演出するか」を考えてくださった上で、我々にオーダを頂く形になってました。
今回はそこが一番の違いで、小説を作ることになってからすぐに音楽も作ることに決まったので、小説と同時進行で音楽作りも進むことになりました。本の完成を待ってからだと、またそこから更におまたせすることになってしまいます。なので、実は今回、1曲を除いて完成原稿を読む前に曲を作っています。
雪菜の曲に関しては、フューチャーベースでチップチューンのような共通認識が知らず知らずのうちにできていたので、非常にうまくいったかなと思います。
――ゲームと小説で楽曲の作り方自体は結構変わってくるものなのでしょうか。
いとう変わってくることもあるにはあるんですが、今回は近い感覚で作れましたね。作っていて楽しかったです。気持ちも込めていますので、今回残念ながらお手元に届けられなかったチューナーの皆さんのためにも、いつか一般販売もできるといいなと思っています。
――出してほしいですね。では、一旦カグラくんの曲は置いといて「卯月 真中華のテーマ」から先にお話を伺えればと思います。
いとうこの曲が一番難しかったかもしれません。確か、まず蟹江さんから、卯月父や真中華の音楽の趣味を聞いていましたよね。
蟹江はい。卯月父が「グランジ」、真中華はそこを入り口に「オルタナティブ」や「ミクスチャー」と呼べるものならなんでも、という感じですね。
いとうその上で「真中華のテーマかつ、フロウラインの曲」というようにしようと。なので、フロウラインのメンバーが演奏しているというイメージで楽器の編成を最初に考えています。そこで一番の悩みどころになったのが「真中華の楽器」でしたね。
――確か、前回のインタビューでは、真中華が使っているギター「FERNANDES ZO-3」を入れたいとおっしゃっていましたね。
いとう実は探してみたんですけどどうしても見つからなくて……。今回、ギターの演奏はギタリストの方にお願いしていて、その方にも聞いてみましたが持っておらず。さらに中古市場にも状態の悪いものしかなく、極稀に見つかる完動品は中々にお値段が高めと。そういう事がありまして、今回「FERNANDES ZO-3」を使うのは諦めてしまったんです。本当に申し訳ないです。
それでどうしたかと言うと、ギタリストの方に真中華という女の子の情報を色々と伝えた上で「なるべく安い楽器で弾いてほしい」とお願いしてみたんです。それでも、安い楽器もないということになり……。
最終的には、「ギターはうまいけどプロではない中学生女子の、割と荒々しい演奏を、そこそこの楽器で弾いてください」という形になりまして。50万円くらいのギターで弾いてもらった素晴らしい音色を、私が後で荒々しく加工するという手法を取りました。
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――手が込んでますね……!
いとう結果的に「グランジ」や「ミクスチャー」は少し大人っぽい印象があったので、真中華フロントのフロウラインということを意識して、ポップでキャッチーな要素も結構入れています。それで実際に真中華のリードギター、幸のサブギター、智美のベース、麻衣のドラム、雪菜のキーボードで演奏ができる曲に仕上げています。感覚としては、以前制作した「wonderland」、アリス公演の曲に近いですね。結構いい感じにできたのではないかと思っています。
――最初に聴いたのは、イベントのときでしたが、このかっこいい曲はフロウラインがみんなで演奏しているんだなとすぐわかりましたね。少しガールズバンドっぽさもありますよね。
いとうまさにそれですね。ちなみに、イメージしてもらうとわかりやすいのですが、もしゲーム中にこの曲が実装されて通常の戦闘開始時に流れるとすると、この曲のイントロってめちゃくちゃ合うんですよ。
――確かに……!
いとうこの曲に関しては、結構ゲーム中に流れるようなイメージのまま作っていますね。私も気に入ってる曲です。
でも、もし原稿を読んだ後に作曲していたらこの曲もまた違う曲になっていたかもしれません。
――と、言いますと。
いとう私がもらった原稿には「父親が遺した曲」について、「カノン進行」についての話が出てくるんです。今回はその原稿を読む前に曲を作っていたので、完全にフロウラインに焦点を当てた曲になっていますが、もし原稿を先に読んでいたらこのあたりを汲み取っていたなと。
蟹江曲と小説の制作が同時に進行していたので、いとうさんには西村さんからあがってきた初稿からお渡ししていました。この「カノン進行」というモチーフはその初稿にあったもので、その扱いをどうするか相談した結果、実際の完成稿からは削られています。
「カノン進行」って、単純に解釈してしまうとポピュラーミュージックにおける黄金比のようなものになると思うんですけど、真中華の父親のキーワードに「カノン進行」を持たせてしまうと、そこに必要以上の意味が色々付いてきてしまいそうだなと言う話になりまして。真中華視点の父の物語として、妻と娘2人を遺して亡くなった男の人生が、「自分の音楽を貫くのか、大衆におもねるのか」というだけの話に見えてしまいかねないのは、ちょっともったいないんじゃないかなと。それで、父親の遺作については、本文中で具体的な音楽用語では書かれてはいないんですね。
なので、結果的にではありますが、そこに触れずに曲を作っていただいたことで、真中華の物語にぴったりの曲をいただけたんだと思います。
いとうそこは本当に運が良かったです。
蟹江真中華の好きな音楽についても、同じように本文中ではボカされています。彼女は音楽の面でも父親の影響を大きく受けているわけですが、それが具体的な用語によってジャンル論的なものに見えてしまうのを避けて、より精神的な部分での親子の繋がりが伝わるようにと。
なので、頂いた楽曲が「父親の影響を受けた曲」というよりかは「フロウラインの曲」と捉えられるようなものになっているのは、こちらとしては「そうそう、それ!」という感じでした。
いとうこういう「キャラが演奏している」イメージの楽曲作りって本当に楽しいんですよね。「『ららマジ』好きだな」と改めて思いますね(笑)。
――歌詞も付けてほしいですし、何よりフロウラインのライブが見たくなりますね。では、キャラテーマ編の最後は「樋野 カグラのテーマ」についてお聞かせいただければと思います。
いとう小説用に作曲するなかで蟹江さんからアイディアをもらったもののひとつが「樋野 カグラのテーマ」でした。
しかしこれがとても厄介で……。この曲を作る時点で、カグラが敵か味方もわからず、どういうイメージにしたら良いかわからなくて。これは蟹江さん私が困るのをわかって言ってるなと(笑)。
厄介だけど味方サイド、な気はするんですけど、『ららマジ』のことだからわからないな、ということで本当に敵か味方かわからないような音楽になりましたね。
蟹江(笑)。
いとうこの曲は「樋野 カグラのテーマ」と名前はついていますが、「カグラが目の前に現れたときのチューナーの心境」みたいなイメージが近いですかね。『ららマジ』の物語を完結まで読んでから、改めて「樋野 カグラのテーマ」を作るとなったら、全然違う曲になるのではないでしょうか。どうですか、蟹江さん!?
蟹江バッチリだと思います(笑)。私にも本当にわからないやつなので。リクエストさせていただいた際も、意図的に詳細は伏せていました。「調律の是非を問う」というテーマの中で、調律師に問いかけてくる人物であり、正論を言っている気がするけど、とにかく胡散臭い。敵か味方か本当にわからないようにしたかったので。
いとう初登場のころから本当にそうですよね。言ってることは間違ってない気がして、人って正論で殴られるとどうしようもないなと(笑)。
蟹江すごく意地悪な言い方をすると『ららマジ』は女の子たちの心に入って、そして彼女たちを戦わせるというシステムのゲームなんですよね。もちろん彼女たち自身を救う為であり、みんな自発的に参戦を望んでいるわけなのですが、とはいえ改めて「果たしてそれは褒められることなのか」と問われると、ちょっと答えにくいところがあると思います。
シーズン3(小説版でのAct.3)には、その「それは褒められることなのか」というゲーム仕様的な問題に、シナリオ上で挑戦してみるという意図がありました。カグラは嘘は言っていないし、彼の問いは、ユーザーさんも心のどこかでずっと感じていることだったと思うんです。「調律師」という少女たちにとってのヒーローであるはずなのに、女の子を前に立たせて戦わせているのも自分であると。なので、「もっと上手いやり方があるんじゃない?」というカグラの言葉が刺さったり、引っかかる、胡散臭く感じるというのは、答えにくい部分を抱えながら『ららマジ』を遊んでいただいているということになるのかなと。
そのユーザーさんたちの想いをシナリオに組み込み、解決とまではいかなくても、ある程度の答えに辿り着ければ、ゲーム体験として大きなカタルシスになるのではないかと考えていました。
カグラは善悪で言えば本当にわからないです。でも、言われたくないことまでわざわざ言ってくるし、こちらから聞けばそれはそれで答えてくれるんですね。Act.3の最後の方にあったカグラとの対話は、ゲームではすべて選択肢にしようと考えていました。メインの更新が滞りがちな中で、ユーザーさんが聞きたかったであろうことをずらっと一覧にして、選択肢をタップさえすればカグラがネタバレも気にせずその全てに答えてくれる。でも後ろには、「これ全部押しても大丈夫なの……?」というような胡散臭いものを感じると。
なので、頂いた楽曲が「カグラが目の前に現れたときのチューナーの心境」というイメージになってるのは、バッチリなんです。
いとうなるほどそういうことですね。いちユーザーとしても、そこまで踏み込んでくるのはすごく誠実なシナリオだなと思います。
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――カグラくんの今後が気になりますね。