先月、68歳で亡くなった東野圭吾氏の同名ベストセラー小説であり直木賞受賞作を原作とする「朗読劇ガリレオシリーズ『容疑者Xの献身』が、2026年8月15日に一ツ橋ホールにて開催された。

「ガリレオ」シリーズの中でも最高傑作との呼び声も高い本作。2024年に上演された「朗読劇『探偵ガリレオ』に続き、“ガリレオ”こと主人公の天才物理学者・湯川学役を江口拓也、その大学時代の友人であり、彼の研究室に難事件の解決のために相談にやってくる捜査一課の刑事・草薙俊平を仲村宗悟が演じた。
そのほか、本作で湯川と草薙の前に立ちはだかる天才数学者であり、高校の教師をしている石神哲哉役を浪川大輔、彼が秘かに好意を寄せる隣人の花岡靖子役を石井未紗が務めた。
冒頭、白衣を身にまとったメガネ姿の湯川(江口)がタイトルを読み上げ、物語は幕を開ける。続いて、高校の数学教師として暮らす石神(浪川)、その隣人であり娘と2人で暮らしている靖子(石井)が登場する。

靖子は、かつては水商売で暮らしていたが、暴力的な夫と離婚し、いまはかつての同僚が営む弁当屋で働き、娘と仲良く暮らしていた。石神は、そんな彼女への秘かな想いを胸に、彼女が働く弁当屋に通っていたのだった。


だがある日、靖子の元夫の富樫が彼女の仕事先を訪れたことで、靖子たちの運命は一変する。富樫は、靖子から金をせびりつつ復縁を迫り、さらには彼女が娘と暮らすアパートにまで押しかける。そして、もみ合いの末に靖子と娘は富樫を死なせてしまう。途方に暮れる母と娘。隣で起きた異常な事態に気づき、彼女たちに助けを申し出たのは石神だった。全てを察した石神はその天才的な頭脳を駆使し、知略と緻密な計算によって完全犯罪を仕立て上げる。


捜査一課の刑事・草薙(仲村)は、顔を潰され、指紋を焼かれた身元不明の遺体が発見された事件を担当することになる。遺体の発見場所から少し離れたところで盗難自転車と衣服の燃えカスが残ったドラム缶が見つかり、事件と同時期に富樫の名前で借りられたレンタルルームから採取された指紋と自転車に残った指紋が一致したことなどから、警察は遺体の身元が富樫であることを突き止め、捜査を進める。事件直前の富樫の行動から、草薙は靖子を犯人として疑うが、彼女と娘には事件当時、映画を見に行っていたという、証拠と証言付きの完璧なアリバイがあった。


草薙は靖子の隣人の石神にも聞き込みを行い、そのことを湯川に漏らしたことで、湯川はその隣人の男が、かつての大学の同期であり、彼が唯一天才と認めた数学者・石神哲哉であることを知る。湯川は石神の元を訪れ、久々に語り合い旧交を温める。


だが湯川は、石神のある言動に違和感を抱き、石神がこの事件に関わっていることを確信する。石神もまた、湯川という天才物理学者が、自分が事件に関与していると疑っていることに気づき、天才と天才による極限の頭脳戦が展開する。徐々に事件の核心へと近づいていく湯川。やがて石神が仕掛けたトリックの真相――そこに隠された凄まじいまでの献身、そして彼の覚悟を目の当たりにすることになる。
最初に観客に一連の殺人の模様を見せつつ、犯行を隠蔽するためのトリックを明らかにしていく“倒叙ミステリー”であることが本作の大きな特徴だ。なぜ、湯川や草薙は事件の真相になかなか近づくことができないのか。いかにして石神は、母と娘の殺人を隠蔽したのか。
もちろん、そのトリックが本作の大きな見どころであることは間違いないが、それに負けず劣らず、観客を強く惹きつけてやまないのが、それぞれの登場人物たちによる人間ドラマの部分だろう。
普段から感情をあらわにすることなく、クールに事件の真相に迫っていく湯川は、本作では自身が唯一認めた“天才”である石神が事件に深く関わっていることを確信し、友情と真相のはざまで苦悩する姿を見せるが、江口はその微妙な心の揺れを好演した。草薙と接する時とはまた異なる、自分以外の天才と接することへの喜び、そして、そんな自分が認めた天才が思いもよらない事件に関わっていることへの困惑、悲しみを見事に表現する。
仲村が演じる草薙は、そんな、普段とは少し異なる湯川の姿を傍らで見つつ、刑事として冷静に事件を解決すべく捜査を進めていく。湯川の苦悩を理解しながらも、そんな湯川に協力を請い、事件の真相に迫っていく。刑事という立場と湯川の友人という立場の間で、草薙もまた苦悩を抱えており、そんな草薙を仲村が魅力的に演じている。
石井が演じる靖子も、突然現れた元夫のせいで運命を翻弄される複雑な役柄である。娘とのささやかな幸せを望み、シングルマザーとして弁当屋で一生懸命に働く。やがて思わぬ形で殺人を犯してしまい、加害者としてその十字架の重さに苦悩する。そして、かつての知人から好意を寄せられ、石神への後ろめたさを感じつつも女性としての幸せを感じる。――2時間の上演の中で、様々な表情を見せてくれる。
そして、やはり本作の最重要人物と言えるのが、浪川演じる天才・石神哲哉だ。暗い表情でボソボソと話し、登場時からどこかとっつきにくそうな陰鬱な印象を与える。だが、靖子ら母娘を救うべく、その明晰な頭脳を駆使し、驚くべきトリックで警察を欺こうとする。そこで石神が見せる“献身”と“覚悟”に、観る者は戦慄と感動を覚えること間違いなし。抑えた演技の中で、改めて浪川大輔という声優の凄みを感じさせられる。

四者四様の熱演、その果てにたどりつく感動に、幕が閉じると会場は割れんばかりの拍手に包まれた。キャスト陣を代表して、江口は「ご観劇いただいた皆様、ありがとうございました。無事に公演を終えることができました」と感謝の思いを口にすると共に安堵の表情を浮かべる。そして「アーカイブ配信もありますので皆様、何度でも観てください!」とアピールした。
江口拓也・浪川大輔・仲村宗悟・石井未紗が登壇した15日の公演は、昼夜とも配信チケットを発売中。ぜひ配信で、何度でも「朗読劇ガリレオシリーズ『容疑者Xの献身』」の世界を楽しみたい。
公演情報
朗読劇ガリレオシリーズ「容疑者Xの献身」
◆公演日程
2026年8月15日(土) 計2回公演
◆会場 一ツ橋ホール (〒101-0003 東京都千代田区一ツ橋2-6-2)
◆原作 東野圭吾『容疑者Xの献身』(文春文庫)
◆主催 エイベックス・ピクチャーズ
◆企画協力 文藝春秋
◆脚本・演出 私オム
◆出演キャスト
【湯川 学】江口拓也
【石神哲哉】浪川大輔
【草薙俊平】仲村宗悟
【花岡靖子】石井未紗
【アクター】篠原 功、上杉 輝、菊池友華
■配信チケット
販売期間:~8月30日(日)19:00
(1)【昼公演】【夜公演】配信チケット:各4,400円 (税込)
※2026年8月15日(土)昼公演・夜公演のうち1公演が視聴可能
(2)【特典映像付き通し】配信チケット:8,800円 (税込)
※【特典映像付き通し】配信チケットは、昼公演、夜公演がご視聴いただけます
※特典映像:全景映像(昼公演、夜公演)
■アーカイブ視聴可能期間
<各公演>公演終了時~8月30日(日)23:59
※上記時間以降のアーカイブ配信(見逃し配信)はございません
※アーカイブ配信は各公演終了後、準備が整い次第の配信開始予定
※アーカイブ期間中何度でも視聴が可能です
(C)東野圭吾・文藝春秋/エイベックス・ピクチャーズ株式会社2026




