『ゾンビランドサガ リベンジ』の壮大なライブシーンを支えるMAPPAの「こだわり」【あにつく2021オンライン】 | アニメ!アニメ!

『ゾンビランドサガ リベンジ』の壮大なライブシーンを支えるMAPPAの「こだわり」【あにつく2021オンライン】

2021年9月18日から20日まで開催されたアニメ総合セミナー「あにつく2021」。そのセッションのひとつとして『ゾンビランドサガ リベンジ』の制作裏側を解剖するセミナーを実施。本作の特徴であるライブシーンなどCG制作にまつわる「こだわり」が語られた。

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会 全 39 枚 拡大写真

ゾンビとして復活した少女たちが、その正体を隠しながら佐賀県のご当地アイドルとして奮闘するコメディアニメ『ゾンビランドサガ』。

宮野真守さんが演じるプロデューサー「巽 幸太郎」の無駄にテンションが高いキャラクターや、ストーリーの奇抜さ、そしてアイドルとして逆境に立ち向かう「フランシュシュ」のメンバーのけなげさに共感が集まり、2021年4月には続編『ゾンビランドサガ リベンジ』が放送されるなど人気を博した。

そして2021年9月18日から3日間開催されたアニメ総合イベント「あにつく2021」では、セッションのひとつとして、そんな本作の制作裏側を解剖するセミナーを開催。

他のセッションと同様、アニメファンや次世代のクリエイターへ向けて、3DCGやデジタル制作にまつわるテクニックやこだわりを制作スタッフが語ってくれた。

▲TVアニメ「ゾンビランドサガ リベンジ」運命のPV


続編の目標は「前作と同じモデルで表現を高める」と「ライブパートのクオリティの平均値を上げる」こと


「『ゾンビランドサガ リベンジ』魅力的なキャラクターとライブ表現を追求した3Dワーク解説 」と題してはじまった本講演では、まずライブシーンのスケジュールについて解説がスタート。

▲画面左より、『ゾンビランドサガ リベンジ』のCGIプロデューサー「淡輪雄介」さん、3DCGディレクター「黒岩あい」さん、3DCGサブディレクター「平田千佳」さん、3DCGアニメーター「太田南」さん。
▲ライブシーンの全体スケジュール表。

ライブシーンの作業は放送約半年前からスタート。ダンスの表現は作画の回と3DCG回の2パターンがある。

もっともコストを要したのが最終回となる第12話。
物語後半にあたるBパートの大部分がライブシーンであることに加え、観客が約3万人という、気を失うほどの作業が待ち受けていた。

その点について3DCGディレクターの黒岩あいさんは「続編に取りかかる前にワークフローの見直しと、観客の並べ方を見直す必要がありました」と前作よりもパワーアップした部分について対処方法を語った。

▲本作におけるCG制作の編成。CGIプロデューサーは協力会社の選定や技術相談を担当。3DCGディレクターはチェックと仕事の割り振りに加え、モーションキャプチャーの切り出しから納品までのカット制作も兼任。3DCGサブディレクターは3DCGディレクターの手が回らないチェック部分を分担する形で受け持った。

『ゾンビランドサガ リベンジ』でめざすのは、「前作と同じモデルを使用してどこまで表現を高められるか」と「前作のノウハウを活かしてライブパートのクオリティの平均値を上げること」の2つ。

そのためになるべく破綻した絵を見せないよう心がけた。

▲ライブシーンの制作で使用したツールの一覧。
▲ライブシーンの制作工程。モデリングとセットアップで3D作業の準備を整え、モーションキャプチャーでダンスの動きを収録。動きをもとに制作した絵コンテから、画面構成を決めるレイアウトを作業。プライマリでカット制作の実作業をして、セカンダリで微調整を行った。


ドラム経験者のスタッフが本領発揮! 興奮度が増したライブシーン


それでは実際にどのような作業が行われたのか、その一例を見ていこう。
まずは線画の設定と、その設定をもとに作られた3Dのキャラクターモデルだ。

▲「フランシュシュ」のメンバー「源さくら」の第12話の衣装。
▲「源さくら」の3Dモデル。衣装の特徴となっているラメの部分はCG処理ではなく、CG作業が完了した後、「撮影」段階の特殊効果でキラキラと光を反射させた。
▲第9話に登場した「ゆうぎり」の衣装設定。この回は、ゆうぎりがセンターになって楽曲を披露する回だった。
▲ゆうぎりの3Dモデル。
▲3Dモデルのコントローラー。こちらの衣装は第4話に登場したものだ。

今作では、前作の3Dモデルを使いつつ表現を高めるということで、「リグ」と呼ばれる3Dモデルの可動機構を随所で改修。

まず髪など部分的に動く、いわゆる「揺れもの」はスクリプトの「SpringMagic」を使用する前提でボーン(骨)の量が多くなっている。柔軟性が問われるダンスシーンを想定し、特に腕周りを強化することで可動時の不自然さを軽減した。

またスカート部分も、足の動きに連動して可動するよう「スクリプトコントローラ」でプログラムを組み調整。これによりめり込み修正の手間を減らし、破綻のない動きを実現した。

▲スカートも足の動きに合わせて自動で動くよう調整。
▲キャラクターのほかにもプロップ(小道具)を社内で作成した。
▲ドラム経験のあるスタッフが、ペダルを踏むとハイハットやバスドラムも連動するようギミックを盛り込んだ。
▲実際の演奏シーン。9才からドラムを叩いていたというCGスタッフが監修している。

ここからは問題の第12話にスポットを当てて解説しよう。
第12話ではダンスシーンを3Dにするということで、背景となる美術も3DBGで作成した。
第12話で使用した3DBGモデルは、早い段階から背景会社で「blender」によるモデリング作業がスタート。 美術設定に色をつけた「美術ボード」が上がった段階で、3Dステージのテクスチャ作業が進められた。

▲第12話に登場する駅前スタジアムの美術ボード。
▲3DBGのレンダリング素材。素材が多いため、ボタンを切り替えるだけで作業できるよう、操作パネルを設置した。
▲3DBGのテストカット。客席の手すりがどのように見えるか等をチェックしている。

モーションキャプチャーは、ダンスや演奏の振り付けの時点でキャラクター性が出るよう動きを考慮した。しかしアニメ的な動きを完全に再現できるものではないため、最終的には収録したデータをアニメーターがブラッシュアップすることになる。

▲センサーを頭部と各関節につけて動きを収録。画面右下は、収録時の演者の動きをリアルタイムのストリーミングで描画しているMotionBuilderの画面 。
▲ドラムのシーンはドラマーの川口千里さんがモーションアクターを担当。
▲収録したデータは、ノイズの除去や体格差の補正などを経て仕上げられる。

3Dモデル、3DBG、モーションキャプチャーが準備できたら、いよいよ画面づくりのスタートだ。絵コンテが上がったら、そのコンテをもとにどの部分をCGにして、どの部分を作画にするかを、スケジュールと照らし合わせてケースバイケースで判断する。効果的な方法を検討するのだ。

なおモーションキャプチャーはそのままCG動画になるばかりでなく、作画用の動きのガイドとしてアニメーターに提供される。

▲実際に使用された絵コンテ。
▲絵コンテが上がったらモーションキャプチャーや楽曲と合わせて動画コンテを作成。動画コンテをもとにカットごとモーションキャプチャーを切り出して各作業に回す。

「CG打ち合わせ」では、ミニチュア模型やバーチャルカメラを使用。
バーチャルカメラは「広いライブ会場をどう見せるか?」といった打ち合わせで活用され、リモート化された現場において、監督のイメージをスタッフにスムーズに伝えることに役立ったという。

▲ミニチュア模型が使用されたCG打ち合わせ。
▲今作で取り入れられたというバーチャルカメラ。スマートフォンをセットしたバーチャルカメラを握っているのが監督だ。この様子は録画されて作業関係者に配布された。

CG打ち合わせが済むと、いよいよCGアニメーターの出番だ。「レイアウト」「プライマリ」「セカンダリ」の3つの工程で完成度をあげていく。

なお「レイアウト」はおもにカメラ位置を決める作業。「プライマリ」で表情、揺れもの、ポーズ、タイミングを整えて、「セカンダリ」で映像を仕上げていく。

▲アニメーターの作業フロー。いきなり完成品を作るのではなく、3つの工程で磨いていくイメージだ。
▲レイアウトの詳細な作業内容。
▲レイアウトの作業画面。ブルーのオブジェクトは、いわゆる「返し」や「転がし」と呼ばれる、演者がステージ上で音をモニタリングするためのスピーカーだ。
▲レイアウトのプレビュー映像。
▲映像の大枠を作る「プライマリ」の詳細な作業内容。

キャラクターの動きはモーションキャプチャーをもとに作成される。
モーションキャプチャーは生の動きなので、腕の角度を変えて愛らしくしたり、振り付けで顔が隠れてしまうような時は調整して見栄えを良くしたりしないと画面に映えない。プライマリではそういった部分を処理しつつ全体を整えていく。

▲調整の一例。左側の画像が調整前、右側が調整後。ポーズや立ち位置が最適化されている。

もちろんモーションキャプチャーの生の動きをすべて否定するわけではなく、手付けでの再現が難しい細かな仕草をそのまま残す場合もある。

▲モーションアクターの首や頭のわずかな動きを活かし、呼吸している感じ・力強く歌っている感じを表現したシーン。

制作現場がもっとも意識したのはキャラクターの表情だ。モーションキャプチャーで繊細な動きが付けられた分、フェイシャルにも細かく表情付けを行わないとCGっぽさが強まってしまう。そういった部分に気を使いながらキャラクターの魅力を引き出していく。

▲「3dsmax」の「モディファイヤ/モーファー」機能で表情のベースを作成。「モーフターゲット」で実際の表情変化をコントロールした。
▲キャラクターデザイン「深川可純」さんによる表情参考。

表情で重要視したのが「目を細める」というパターンだ。
今作はデザインに近い細目のパターンを追加した。閉じ目の50%と、デザインされた細目では形状が異なるため、このパターンがないと、目を閉じる際の中間の表情や、笑う時の目を細める表情をうまく描くことができない。

▲完成した表情。「目を細める」表情に付随して、閉じた目と、口を開いた時のアゴの動きもアップデートした。
▲最終仕上げとなる「セカンダリ」の詳細な作業内容。この作業で完成度を上げていく。


ライブの華やかさは客席にあり!


ライブシーンでステージを彩るのはアイドルだけではない。客席でペンライトを振る観客もライブの一部だ。
しかし本作第12話では約3万人の配置を予定しており、そのひとりひとりを作業するのは現実的ではない。
そこで今回は全体的に自動化機能を整えたり、モーションを増やしたりして、より効率的かつ効果的に作業できる環境を作り上げた。

▲アップに対応した観客のモデル。髪や服の色はランダムで割り当てられるよう自動化した。

観客のモデルはそれぞれ作り込むのではなく、アップに対応したものと、遠景に対応した簡易版の2種類のモデルを用意してデータ量を削減。
また前作ではペンライトの色を手動で切り替えていたが、今作では色をランダムで割り当てるプラグインを使用し、センターに立つキャラクターのイメージカラーに合わせ、使用する色の割合を調整できるようにした。

▲約3万人の観客をランダム配置するよう自動化。
▲曲はじまりは観客がステージを見守っているため動きは静かでバラバラだが、曲の中盤は動きを合わせ、観客が一体になるよう調整した。

このようにして第12話のダイナミックなライブシーンが完成した。

なおavex picturesの公式YouTubeチャンネルでは、本作のライブシーンを公開中なので、メイキングを踏まえてもう一度ご覧になってはいかがだろうか。

▲TVアニメ『ゾンビランドサガ リベンジ』第12話挿入歌『輝いて』のライブ動画


©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会

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《気賀沢 昌志》

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