SNSアニメ「モモウメ」誕生秘話! 共感の嵐を呼ぶ“あるあるネタ”はどう生まれる? スタッフが明かす【インタビュー】 | アニメ!アニメ!

SNSアニメ「モモウメ」誕生秘話! 共感の嵐を呼ぶ“あるあるネタ”はどう生まれる? スタッフが明かす【インタビュー】

「職場あるある」をネタにしたショートアニメ『モモウメ』より、内田真之介プロデューサーと中道一将監督にインタビュー。キャラクター設定やネタづくり、さらにマーケティング会社ならではのSNS戦略とは――。

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『モモウメ』(C)モモウメ2019
『モモウメ』(C)モモウメ2019 全 3 枚 拡大写真
「職場あるある」をネタにしたショートアニメ『モモウメ』が今、アツい。

新人OLとベテランOLコンビによる“ゆる面白い”漫才のようなやりとりが人気の秘訣。
YouTubeで毎週1話配信され、人気の動画は900万回以上の再生数を誇る。SNSを中心に幅広い層から人気を集めているのだ。


『モモウメ』の制作を手掛けるのは、デジタルマーケティング会社の株式会社キュービック。アニメ制作会社ではない同社が、なぜアニメ作品を制作するに至ったのか――。

本稿では『モモウメ』誕生秘話に迫るべく、本作のプロデューサーである内田真之介氏と制作担当の株式会社ファニムビの中道一将監督に取材を決行。
キャラクター設定やネタづくり、さらにマーケティング会社ならではのSNS戦略についても話をうかがった。
[取材・文=阿部裕華]

■仕事の楽しさを表現したい。『モモウメ OL篇』誕生秘話


――マーケティング会社であるキュービックが、なぜアニメの制作に至ったのでしょうか?

中道監督:僕もそれ知りたい。

内田P:何回も聞いてるから知っとるやろ。

中道監督:あはははは。

内田P:僕が入社した当時はキュービックに動画やアニメをつくる部署はありませんでした。でも、僕は動画クリエイティブとして入社したんです。
それで「内田さんの強みが活きそうだからやってみよう!」と動画制作がスタートし、そのままアニメ制作が進行しました。

――実写ではなく、アニメにしようと考えたのには何か理由が…?

内田P:僕ら日本人にとって、アニメは特別な存在です。ずっと慣れ親しんできた友だちのよう。幼少期から大人になるまで、アニメはいつも僕らの側にあり続けますからね。
老若男女問わず、世代を超えて多くの人々に愛されるものにしたいと思ったら、やっぱり「アニメ」だなと思いました。

そんなタイミングでちょうど僕の同級生で映像監督をやっている友だちから「これを見て」とURLが送られてきました。それが中道さんの制作したカナダ留学のアニメ作品だった。
「めっちゃおもろいやん!一緒におもろいことできそう!」と思ってすぐさま電話をしました。


『モモウメ』を制作する前に、「こういうのつくりたい!」と僕からいくつか広告案件の映像を依頼し、そのあと、弊社で展開している薬剤師の転職メディアのプロモーションとして『モモウメ(薬剤師篇)』が誕生しました。


――中道監督はお話をいただいたとき、率直にどう思いましたか?

中道監督:光栄でした。お電話いただいた時、僕からも詳しくお話を聞かせてくださいとお願いしました。内田さんからは「アニメでおもしろいことをやろう!」と言われました。

――モモちゃんとウメさんははじめ薬剤師でしたが、様々な職業を転々として、今はOLに落ち着いていますよね。この展開はふたりで話し合って決めていったのでしょうか?

内田P:2人が薬剤師からいろんな職業に挑戦することになったのは、もっと多くの仕事の悩みを解決したいと思ったからです。薬剤師さんだけじゃない、様々な職業につく皆さんを元気にしたかった。
でもいざ「いろんな職業篇」をつくり始めてみると、『モモウメ』の世界観をなかなか醸成できないことに気づきました。

「薬剤師篇」は全12話の中で薬剤師であるモモちゃんとウメさんのストーリーや世界は一通り出来上がっていました。
でも「いろんな職業篇」では1話につき一つの職業を取り扱うため、世界観が都度異なり、ストーリーがリセットされてしまいます。アイドルや美容師などいろいろつくってみたものの、1話で完結してしまうと『モモウメ』全体の世界観が表現できない。

やはり『モモウメ』の世界観を大事にしたいよね、という話になって。方針転換を決めました。

中道監督:『モモウメ』の世界観をつくって毎週配信していくと考えたとき、自分たちがやりたいことじゃないと続きません。
たとえば、いろんな職業の中に占い師がありますけど、僕は占い師をやったことはないし、普段から占いへ頻繁に行ってもいない。深く知らない職業を軸に作品をつくり続けるのは難しかった。


内田P:まず自分たちが共感できないと作品づくりで分からないところが出てきてしまいます。「いろんな職業篇」では題材にする職業の人にヒアリングしたり、徹底的に観察したりしていましたが、とにかく大変でした……。

占い師の方の仕事を理解するために何度も占いへ通いました。時には「あなたの前世は牡蠣です」と言われたことも(笑)。どんな反応したらよかったんでしょう…?(笑)

――最終的に、OLを題材にしたのはなぜですか?

中道監督:OLも僕らは経験したことがないけれど、僕は会社(ファニムビ)を経営しているので上司の立場や組織の難しさを分かっている。
内田さんの働くキュービックさんでもたくさんの人が働いているし、会社の中でインサイト(ユーザーが行動するために必要なニーズ)を見つけられる可能性がある、それならきっと共感してもらえるストーリーが描けるはず!という結論が出ました。

内田P:ちょうどその当時、「働き方改革」という言葉が走っていたこともあって、「働き方がどう変わったら多くの人が幸せになれるんだろう」と考えていました。

僕らは『モモウメ』を作る中でいろんな人にヒアリングをしますが、仕事が楽しくないと思う理由を尋ねると「会社の上司・同僚と上手くいかない」といった人間関係に対する不満がすごく多かった。
仕事そのものよりも人間関係に悩む人が多かったんです。

裏を返せば、心地よい関係性ができることで、仕事を楽しめるかもしれない。人間関係から働き方改革ができるような、仕事が楽しいと思えるような表現にフォーカスしたいと思いました。

アニメを通して職場の人との関係の豊かさや笑いを伝えたかった。「働く」にフォーカスした王道のアニメにしよう!と話し合って、「OL篇」に辿り着きました。
忖度せずにお互いにめっちゃ意見言い合いました。

中道監督:意見を言い合う中で衝突したことは何度もあります。意見を言い合わないといいものができないので。

■動物キャラクターから着想を得た『モモウメ』のトレードマーク


――テーマが変化していった一方、ずっと受け継がれているのが『モモウメ』ふたりのトレードマークであるマスクです。薬剤師以降のお話でマスクを外そうと思わなかったのか気になります。


中道監督:うちの会社(ファニムビ)でずっと動物のキャラクターを使ったおもしろいアニメをつくりたいと思っていたけど、全然上手くいかなかったんですよ。
だから、『モモウメ』のお話がきてキャラクターデザインを考えたとき、クマのキャラクターにあるような口元の白い丸い部分をどうにか表現したかった。あれ、めっちゃ可愛くないですか? 絶対につくりたいと思った。

それが人間だとマスクでできる!と思ったんです。なので、マスクは絶対外さない。
あれはクマのキャラクターの口元の白い丸い部分だから。聖域です。

内田P:一度聖域を外したデザインをつくってもらったこともありましたけど、無言で返しましたもん。

中道監督:全然可愛くなかった(笑)。

内田P:結局、コロナウイルスの影響で、マスクキャラクターの需要が上がってしまいましたしね……。
「コロナウイルスの影響ですか?」と聞かれたり、SNSでつぶやかれたりしていますけれど、もとからつけています。

――マスクにそんな事情があったとは……。『モモウメ』のキャラクターデザインはパッと見て分かりやすいのも特徴ですよね。

中道監督:アニメキャラクターをデザインするときのポイントの一つに、シルエットだけで誰か分かることがあります。
『モモウメ』の場合、丸を2個描いて認識できるシルエットにしようと思い、あの形にしています。厳密にはモモちゃんは丸2個ではなく、丸と雲のような形ですが。

というように、キャラクターデザインをしました。キャラクターを覚えてもらいやすいのはアニメとして強いですし、グッズ化もしやすい。
ほかにも、デザイナーや制作メンバーに「どういう人がベテラン(新人)に見えるか」といろいろ聞いて、ゆるいキャラクターデザインになりました(笑)。

――モモちゃんが24歳、ウメさんが40歳と絶妙な年齢差だと思います。どういった経緯でこの年齢差に決めたのでしょうか?

中道監督:実は僕が40歳、内田さんが41歳なんです(2020年9月時点)。仮にウメさんを30歳にしてしまうとどういうキャラクターにすべきか分からなくなる。理解に時間がかかるんですよ。
目指す世界観を実現する上で、とことん感情移入できるようにするためにこのウメさんの年齢を設定しました。

一方、モモちゃんが24歳なのは自分たちの周りの後輩と同じくらいの年齢差というのがあります。40歳と24歳だったらこの関係が成り立つだろうなと考えながら年齢を設定しました。

内田P:『モモウメ』を一緒に立ち上げたデザイナーと僕は、モモちゃんとウメさんと同じくらいの年齢差なんです。うちの職場のコミュニケーションのやり取りもまさにあんな感じなので、照らし合わせています。

歳が離れている分、先輩も後輩も互いに気を遣う。その垣根を『モモウメ』を通して無くしたいという想いもあるのかもしれません。

中道監督:モモちゃんの気持ちは正直分からないことも多いけど、歌謡曲が趣味とかは僕と同じなんです。僕らが楽しんでつくれそうな設定をキャラクターに組み込んでいきましたね。

――モモちゃんとウメさんの関係性が羨ましく感じます。なかなか新人とベテランがあそこまで仲良くするのは難しいような気もしていて。

内田P:そんなこともないですよ。僕が親父ギャグを言うと普通にスルーされますしね~(笑)。
普段から後輩とは軽口を叩き合いながら会議したりしてますよ。僕らにできるんですから、簡単に誰でもできるはず。

中道監督:「こんな関係性のふたりいないよ」とコメントをたまにいただくのですが(笑)、モモウメのなかのやり取りは制作チームでの実体験です。


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《阿部裕華》

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