「ピンポン」“僕の血は鉄の味がする…”忘れかけていた大切なものを思い出させてくれる、青春スポ根アニメ【夏アニメコラム】 | アニメ!アニメ!

「ピンポン」“僕の血は鉄の味がする…”忘れかけていた大切なものを思い出させてくれる、青春スポ根アニメ【夏アニメコラム】

アニメ!アニメ!編集部のオススメな「夏アニメ」を紹介するコラム第2弾。今回は編集長・沖本茂義より、『ピンポン』を紹介します。

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「ピンポン THE ANIMATION」(C)松本大洋・小学館/アニメ「ピンポン」制作委員会
「ピンポン THE ANIMATION」(C)松本大洋・小学館/アニメ「ピンポン」制作委員会 全 3 枚 拡大写真
いらすとや


    ◇◆◇ 夏アニメコラム ◇◆◇

    気温が高い日が続き、本格的な夏目前! 今年は夏休みが短くなったり、海開きが中止になったりして心置きなく夏を満喫するのが難しい状況。
    そこで、アニメ!アニメ!編集部ではオススメの【夏アニメ】をピックアップ! 編集部&ライターが連載形式で紹介していきます。ぜひさまざまな“夏”を味わってみてください♪




<第1弾>
「ばらかもん」外出自粛…人と会えない今こそ見たい! 元気な“島っ子”と過ごす田舎ハートフルコメディ

今回、第2弾として編集長・沖本茂義がオススメする作品は……

【No.2】ピンポン


「ピンポン THE ANIMATION」(C)松本大洋・小学館/アニメ「ピンポン」制作委員会
『ピンポン THE ANIMATION』

スポ根マンガでは珍しい、競争嫌いな主人公


甲子園やインターハイなど、これまでの努力と培った実力をぶつけ合う夏は、“競争の季節”と言えるでしょう。

アニメやマンガの主人公も“競争好き”が多い印象です。
「オラ強ぇヤツともっと戦いてぇ」とより強い相手を求める悟空、「海賊王に俺はなる!」と強者がしのぎを削る海賊界で頂点を狙うルフィ……自信たっぷりで太陽のように輝く彼らは、たしかにカッコいいし憧れる。一方で、臆病で競争が苦手な筆者からすると、自らとのギャップを感じることも少なくはありません。

そんな僕にも「お前は俺か?」と思うほど共感してしまう主人公がいました。
『ピンポン』のスマイルです。

『ピンポン』といえば、2014年にノイタミナで放送されたアニメ版が記憶に新しいですが、筆者がまず触れたのは2002年の実写版です。当時小学6年生でした。

映画『ピンポン』DVDパッケージ(著者撮影)
ペコ&スマイルのキャストは、窪塚洋介&ARATA。最高にカッコいい……。(写真 著者撮影)
スマイルは、抜群の卓球センスを持ちながらも、他人を蹴落としてまで勝ちたくないと主張するようなキャラクターです。優しさのあまり試合にわざと負けコーチにビンタされる場面もありますが、そんな不器用で生きづらそうなスマイルの姿に思わず自分を重ねてしまいました。


だからこそ、無愛想でいじめられっ子だった自分を救ってくれたヒーロー的な存在である親友ペコとの試合を経て、スマイルが笑顔を取り戻すクライマックスには、僕自身もどこかで救われた気持ちにさせられました。

アレンジが秀逸なアニメ版『ピンポン』 だがショックだったのは……


そして2014年に湯浅政明監督によるアニメ版が制作されました。


実写版の思い入れが強すぎたため、ドキドキしながらリアルタイム放送を見ていたのですが、さすが湯浅監督。まったくの杞憂でした。

卓球経験者の筆者から見ても、前陣速攻やカット主戦型などキャラクターごとの戦法スタイルをしっかり描き分けられていたし、下手をすると小ぢんまりとした印象になりそうな卓球の試合も、パースを誇張した画によってダイナミックに見せていました。
また、原作マンガでは描かれなかったキャラクターのバックストーリーや、海王の理事長やコーチの娘・百合枝などの新キャラクターを登場させるなどアレンジも秀逸。何ひとつ不満はなかったです。

ただ、作品の出来とは裏腹にショックなことがありました。
子どものときに観たとき以上に、スマイルに共感してしまったこと。

実写版に比べてよりスマイル視点で描かれていたことも大きいのですが、「ヤバい、子どもの頃から変わってない!」と自身が成長していないことを突きつけられた感じがしたのです。

劇中、闘争心の無さを無理やり矯正させようとしてくるコーチにストレスを爆発させたスマイルは、本来持っていた優しさや気づかいを捨て去り、正確無比で容赦なく弱点をつくプレースタイルに変貌を遂げます。
アニメならではのユニークな表現として本当にロボットとして描く演出がなされていましたが、当時仕事に忙殺されるうちに感情を無にして過ごしている自分そのまんまだなと感じました。

アニメのスマイルは「ロボット=血が通っていない」という見立てから、「彼も赤い血が通っている人間なんだ」という変化に焦点が当てられています。最終話のサブタイトル「血は鉄の味がする」も実に象徴的です。

ロボットとしての外装が剥がれ赤い血管が見える描写や、挿入歌「手のひらを太陽に」の「まっかに流れる ぼくの血潮♪」の歌詞……スマイルのように感情を無にして過ごしていた自分にとって刺さりまくりの最終話でした。

「誰のために卓球をしているのか」


スマイルと僕は、なぜペコとの試合で救われたのか?
カギとなるのは、キャラクターたちに投げかけられる「誰のために卓球をしているのか?」という問いです。

答えはキャラクターごとに様々で、強豪校・海王学園のドラゴンは「チームのため」という義務感、スマイルは「死ぬまでの暇つぶし」と言い、他方、スマイルとペコの幼馴染であるアクマは、圧倒的な才能を持つペコへの“嫉妬と羨望”を努力の源としています。

そこへくると、ペコは唯一「卓球が好き」という純粋な気持ちを駆動力にしています。
だからこそ理屈を超えていき、常識に縛られない。何より自由で、どこまでも突き進んでいける。

経験を重ねた自分は理屈に縛られて生きていないか? 「好き」ではじめたものなのに義務感から行っていないか?

スマイルとペコが子供に戻ったかのように楽しくプレーするアニメのクライマックスは、大人になるにつれ忘れかけていた大切な何かを思い出させてくれます。


(C)松本大洋/小学館 (C)松本大洋・小学館/アニメ「ピンポン」製作委員会

《沖本茂義》

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