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「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」プロデューサーが仕掛ける話題づくりの“妙”【インタビュー】

筒井康隆のミリオンセラー小説を現代版にアレンジし、数多くの“仕掛け”で話題をさらったテレビアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』。今回、企画の発起人となったフジテレビの松尾拓プロデューサーにインタビューを行った。

インタビュー スタッフ
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『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』場面カット(C)筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』場面カット(C)筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥 全 13 枚 拡大写真

さまざまな“バディ”要素が作品の魅力を引き立てる


『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』場面カット(C)筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
神戸大助&加藤 春
―― 本作に登場するガジェットの中でも特に活躍している、ピアス型AI執事“ヒュスク”のアイデアはギズモードさん発信ですか?

松尾:ヒュスクはギズモードさんが入ってきてくれる前からアイデアを出していました。もちろんギズモードさんにはアドバイスをいただいていますし、“ヒュスク”という名前も考えていただきました。

でも、大助の片耳にピアスをつけたいというのは、たしか僕が言ったような気が……。片耳だけピアスをつけている男って、悪そうでカッコよくないですか?

―― 分かります! セクシーですよね。

松尾:そうなんです!
加えて、大助には人間ではないパートナーがほしかった。『ナイトライダー』では “ナイト2000”、『スター・ウォーズ』では“R2-D2”、『インターステラー』では”TARS”……そんな感じで大助にもクールなパートナーがほしいと。

『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』場面カット(C)筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
大助の耳元には…
「片耳のピアスが実は相棒だった」というのは、そこまで非現実的ではないし、何より主人公のビジュアルとしてもすごくカッコいい。そんなアイデアからきていたと思います。

―― 神戸大助を含め、本作に登場するキャラクターはかなり個性的です。キャラクターを考える上で意識されたことはありますか?

松尾:原作の大助は大富豪なのにものすごく感じのいい上品な好青年、というギャップがあるユニークなキャラクターですが、アニメにするなら「俺の言うことには黙ってついてこい!」みたいなタイプにしたいと思っていました。これは僕の好みです(笑)。

そして、大助の異常性を引き立たせるために、視聴者の目線であるキャラクターを横に置きたいと考え、原作にはいない加藤春というキャラクターが生まれました。何より“バディもの”って面白いですしね。

―― たしかに、視聴者からすると加藤のほうが感情移入しやすいキャラクターかもしれません。

松尾:加藤というキャラクターは、伊藤監督や岸本さん、村上さんなど、いろいろな方のアドバイスを含めて組み上げていきました。

また、加藤春に限らず、佐々木さんが描いてくださったキャラデザのビジュアルを見て、「こういう見た目の人はこういう考え方をしそうだね」と把握していく作業もしていましたね。

『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』場面カット(C)筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
加藤 春
―― キャスティングについてはいかがでしょうか。大助役の大貫勇輔さんはテレビアニメでの声優は初挑戦ですよね。

松尾:声優さんのキャスティングは伊藤監督が考えています。声の好みというか、こだわりが強いと僕は思っていて。有名な声優さんを使うのではなく、作品の中にオリジナリティを加えたいのだと思います。

今回も、監督から「絶対に大貫さんがいい」と要望がありました。大助は唯一無二で存在感がある人にしたいからキャラクター性を立たせたい。大貫さんの声はそのイメージにとても合っていたんだと思います。普通に喋っているだけなのにすごくお金を持っていそうだし(笑)、自然と声にリバーブ(残響)がかかっている感じですよね。

―― 一度聴いたら耳に残る声です。加藤役に宮野真守さんをキャスティングされたのは?

松尾:宮野さんのキャスティングもキャラクターに合わせ、話し合って決めた記憶があります。大助はユニークなキャラクターで視聴者が感情移入しづらいけど、加藤は視聴者のカメラなので、ベテランというか安定感のある方がいいんじゃないかと。

大貫勇輔、宮野真守
大貫勇輔さん&宮野真守さん
―― アフレコなどでのおふたりの印象はいかがでしょうか?

松尾:大貫さん、宮野さんのアフレコは素晴らしいという一言に尽きます。

おふたりでよく宣伝稼働をして頂いているのですが、お互いにリスペクトし合って仲良しですし、実際のふたりの関係性もすごく素敵だなと思いますね。本当にバディのようです。

Twitterトレンド入りを果たした、OPテーマ“SixTONES”の戦略とは



―― 『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』のOPテーマはSixTONESの新曲「NAVIGATOR」ですが、第1話放送前にアーティスト名の発表は一切なく、OP映像でもアーティスト名の記載はありませんでした。なぜ、このような仕掛けを取り入れたのでしょうか?

松尾:通常のタイアップでは、アニメ放送前に主題歌楽曲を使用したPVを制作し、「主題歌は〇〇(アーティスト名)に決定!」と情報解禁し、そこで視聴者のみなさんに楽曲と作品を同時に楽しみにして頂くという流れがほとんどだと思います。

ですが、“いま最も勢いのあるアーティスト”であるSixTONESさんということで、彼らであれば一般的な情報解禁ではなく、少し違う仕掛けをしてみようという話になりました。

1話の前に曲を解禁しない、1話で流しても誰が歌っているか分からない、かなりトリッキーなボールを放ったんです。非常にイレギュラーな提案だったのですが、アーティストサイドも話に乗って調整してくださって。

―― Twitterではトレンド入りするほど大きな反響がありましたよね。

松尾:アーティストサイドや宣伝チームとも戦略を練り、ほかにも話題になるためのタネを蒔きました。アーティスト名を公表しなくても勘がいい人なら気づくのではないかと、SixTONESファンの方への挑戦状として、スマホ広告を打ちました。

広告には、“型破りの御曹司 × バディ × 事件 × 「10億入れておいた」 × AI執事 × 残高無限大 × COOL&HOT=『富豪刑事』”と作品の魅力ポイントを7つ記載。広告に記載されている6つの「×」を第1話放送前はモノクロにしていたのですが、第1話が放送された瞬間にSixTONES6名のメンバーカラーに変更したんです。アーティスト名は明かさずに、この広告を打ち出し、世の中の“バズ”を生む期間をあえてつくりました。

『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』(C)筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』(C)筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

スマホ広告 第1話放送前/放送後
―― 面白い仕掛けですね……!

松尾:アーティストサイドの皆様も面白がって協力してくださって、実現できました。アーティストファンの方々はメンバーカラーにとても敏感だと伺ったので、この仕掛けをしようという話になったのですが……結果、すごくバズりました。面白い試みだったと思います。

あとは、仕掛けだけではなく、何より本編の顔となる楽曲自体がものすごくカッコいい。基本ではありますが、やはりここは一番重要なところだったと思います。

『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』プロデューサーが語る3つの見どころ



―― さまざまな仕掛けもあり、現時点でかなり注目を集めている作品だと感じています。プロデューサーの視点から、視聴者のみなさんの反応をどのように捉えていますか?

松尾:思っていた遥か上をいく反響の大きさです。本当に嬉しい。

僕としては企画に自信があったし、「『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』は絶対にキますよ!」と放送前から、社内外各所でずっと騒ぎ続けていました。とはいえ、連載中の大人気コミックが原作とかでない限り、視聴者さんからしたら、どんな作品なのかは分からない。自分の中で絶対の自信があっても、お客さんの中で受け入れてもらえるかどうかは蓋を開けてみるまで分かりません。

情報解禁や放送開始直前は夜も眠れないほどでしたし、情報解禁直後は1週間ぐらい、ずっと1日10時間くらいエゴサーチをしていましたね(笑)。『富豪刑事』でツイートしてくれている方の呟きは冗談抜きで全て見ていました。最近はファンアートの数やツイートの数が増えすぎて、追いつかなくなってきましたけど……それでもほとんど見ていると思います。

―― どんなファンの方が多いのでしょう?

松尾:熱量の高い女性ファンが多いですね。女性向けアニメとして企画したわけではないですが、女性の視聴者さんにも楽しんでもらいたいと思って、積極的に女性スタッフからアドバイスを聞いていきました。

歌舞伎町の喫茶店でひたすらブレストを繰り返していたという意味で、シナリオの中心メンバーは、伊藤監督、岸本さん、僕、と全員男性なので、男性の視聴者さんに楽しんでもらう自信はあったんです。

でも、男性だけで進めると女性に楽しんでもらうための加減がわからなくなる場面も多々発生しますので(笑)、アニプレックスのプロデューサー松本さん、アニメーションプロデューサーの賀部さんなど、さまざまな女性の皆さんから「女性だからこそ熱狂できるポイント」の意見を伺って、こっそり反映しています。
僕が出すアイデアは「それはちょうど25年前のセンスですよね!」的な袈裟切りに遭うこともありましたし、やはりいろいろな人の意見を聞くべきだなと改めて思いました。

また、原作ファンの方や、さらに海外の方からの反響が非常に大きいと感じています。みなさん『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』の世界観やキャラクターへ魅力を感じてくださっています。

『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』場面カット(C)筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』場面カット
―― 国内外問わず人気を集めているんですね。

松尾:アメリカ、ロシア、タイなどのトレンドにも入りました。2話までしか放送していませんが、Twitterのフォロワー数は8.4万人(※2020年7月時点)、Instagramのフォロワー数やLINEの登録者を合わせると約10万人なので、昨今のアニメの中でも話題だと感じます。

今後もさらに面白くなっていくから、かなり沼が深い作品ですよ……!

―― 一視聴者として楽しみです! では最後に、7月の放送再開を待ち望んでいる視聴者のみなさんに向けて、改めて『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』の見どころをお願いします。

松尾:本作の魅力は大きくフェーズ1~3に分けられていると思っています。

フェーズ1は、佐々木さんのキャラクターデザインの強さ。最初に大助と加藤のふたりが並んでいるキービジュアルの情報を解禁したとき、キービジュアルだけなのにものすごい熱量の反応がありました。おそらく、いい意味でキャラクターを分かりやすくしたからかもしれません。大助はどう見ても金持ちだし、加藤はどう見ても大助に振り回されそうな人だし……キャラクターがパッと見で分かるという、絵の力があります。

フェーズ2は、伊藤監督のクリエイターとしての力が炸裂しているところ。伊藤監督の手掛けるアニメーションの快感は、当代随一だと思っています。テレビアニメで世の中の人がどうやったら熱狂するか、飛びぬけたセンスはもちろん、それに加えての客観的な視点を持ってモノづくりをしている方です。そんな監督が派手な世界観、ぶっ飛んだ主人公、振り回されるバディの関係値を描いたら、確実にハマる。本作でも世界観や演出など、アニメとしての面白さを感じるお客さんはかなり多いのではないでしょうか。

『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』場面カット(C)筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
神戸鈴江(CV.坂本真綾)
そして、フェーズ3は岸本さんのシリーズ構成力です。1話で大助のキャラクター性が、2話で鈴江という謎の女の正体や神戸家の財力が分かる。実験ラボ、ヘリコプター、バンカーバスターをぶっ飛ばす……何でもアリなことが分かったと思います。

このあと、同じような展開で進んでいくかと思いきや、僕たちはあえて狙って裏切り続けていきます。3・4話、全く失速せず、むしろ「このアニメどうなっていくの!?」という展開になる。シリーズ構成の力強さが炸裂するんです。それ以降も展開が波打っていくので、ぜひこの波を一緒に楽しんで頂けますと嬉しいです!

【作品情報】
『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』

<放送スケジュール>
放送再開7月16日より毎週木曜24時55分~
フジテレビ"ノイタミナ"ほか各局にて放送(第1話より放送。初回は25時10分より放送)

<キャスト>
神戸大助:大貫勇輔
加藤 春:宮野真守
神戸鈴江:坂本真綾
清水幸宏:塩屋浩三
仲本長介:神谷 明
亀井新之助:熊谷健太郎
佐伯まほろ:上田麗奈
湯本鉄平:高橋伸也
武井克弘:小山力也
星野 涼:榎木淳弥
ヒュスク:興津和幸

<スタッフ>
原作:筒井康隆『富豪刑事』(新潮文庫刊)
ストーリー原案:TEAM B.U.L
監督:伊藤智彦
シリーズ構成・脚本:岸本 卓
キャラクターデザイン:佐々木啓悟
サブキャラクターデザイン:田辺謙司
美術設定:藤瀬智康/曽野由大/末武康光
美術監督:佐藤 勝/柏村明香
色彩設計:佐々木 梓
メカデザイン:寺尾洋之
CG監督:那須信司
撮影監督:青嶋俊明
編集:西山 茂
音楽:菅野祐悟
音響監督:岩浪美和
音響制作:ソニルード
スタイリングアドバイザー:高橋 毅
ガジェットコーディネート:ギズモード・ジャパン
アニメーション制作:CloverWorks

(C)筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
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《阿部裕華》

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