海外市場の成長鈍化/配信がビデオを追い越す…「アニメ産業レポート2019」二大トピックが示すもの【藤津亮太のアニメの門V 第54回】 | アニメ!アニメ!

海外市場の成長鈍化/配信がビデオを追い越す…「アニメ産業レポート2019」二大トピックが示すもの【藤津亮太のアニメの門V 第54回】

アニメ評論家・藤津亮太の連載「アニメの門V」。第54回目は、前年のアニメ産業の概況を知ることができる『アニメ産業レポート2019』より、そのトピックと今後の情勢を考察する。

連載・コラム 藤津亮太のアニメの門V
  
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2019年末に毎年恒例の『アニメ産業レポート2019』(日本動画協会)が発表された。このレポートは前年のアニメ産業の概況を知ることができる貴重なもので、今号では2018年の状況が報告されている。

当欄として今回の『アニメ産業レポート2019』で注目したトピックは2つ。ひとつは海外市場の伸びにブレーキがかかりそうな気配がでてきたこと。もうひとつがビデオパッケージの売上を配信の売上が上回ったことだ。

トピックに触れる前に、まずは最初に2018年のアニメ産業の全体像を確認しておこう。
エンドユーザーがアニメ本体を含む関連商品・サービスに支払った払った金額の総額(レポートの中では「広義のアニメ市場」と呼ばれている)は2兆1814億円。
2016年以来、3年連続の2兆円超えで、6年連続最高値の更新となっているが、前年(2017年)比は100.9%で、ほぼ横ばいの状況となっている。
なおこの2兆円のうちのおよそ半分の1兆円は海外での売上であるということは頭に入れておいたほうがいい。

一方、アニメの製作・制作会社がどれだけ売上をあげたかは「狭義のアニメ市場」といわれ、こちらは2671億円(前年比108.9%)だった。微増の傾向にあるのは、これは企画の数が増える一方で制作現場・スタッフの確保が難しくなった結果、制作費が上昇傾向にあるということも反映されていると思われる。

TVアニメの放送タイトル数は332本で、前年の340本よりもやや減ったが、制作分数は13万0808分と、2006年に次ぐ過去2番目に多い制作時間となった。
ここにはネット配信のみの作品は含まれないので、2018年が過去でもっともTVアニメが制作された可能性も十分ある。ただでさえTV作品が多いといわれているが、その傾向は収まるどころか一層加速していることがわかる。

一方、公開された映画は74作品で前年より10作品減。時間換算で6186分と、こちらは前年と比べてほぼ横ばいだ。
これは2019年にアニメ映画が多数控えていたこととも無縁ではないだろう。興行成績の合計は426億円で、2017年の410億円を上回る堅調な数字だった。

こうして数字を見ていくと2018年の概況は、近年再び拡大傾向にあったアニメ産業としておおむね予測可能な範囲(TVアニメの制作分数の増加のみ予想を上回るものであったが)の数字であったということができる。
ここで重要なのは、近年のアニメ産業の拡張傾向を何が支えてきたか、ということだ。産業が大きくなるには、なんらかの形で多くの資金が流入してこなくてはならない。
『アニメ産業レポート』ではそれは海外市場の急進であった、と解説する。2013年に2823億円だったものが2017年には9948億円までアップしている。これが近年のアニメが作られる大きな資金源になっていたということだ。

ところがこの海外市場にブレーキがかかってきたという。2018年の海外市場は前年より144億円増の1兆92億円。2013年から2017年までに352%も増大したことと比べるとはっきり成長が鈍化している。

これは2018年に中国が「海外視聴番組の輸入、配信管理規定」を打ち出して、総量規制、内容審査などを行うという方針を打ち出したことが大きい。
これによってそれまで行っていた、国内放送から少ない時差で中国でも配信をする(サイマル配信)、というビジネス展開が難しくなってしまったのだ。

筆者も2018年年末から2019年年前半にかけてアニメ制作会社の経営者の何人かに取材する機会があったが、いずれもこの“チャイナ・ショック”によって、ここ数年のようなビジネスはもはや難しいという認識で共通していた。

この規制の実施は2019年4月ということなので、本格的な影響は今年の秋以降に出るであろう『アニメ産業レポート2020』のまとめに注目したいが、いずれにせよ、数の多さも手伝って“活況”と見えていたアニメの状況に大きな影響を与える可能性は大きそうだ。

ほかの海外市場が改めて伸びて、ある程度中国市場の鈍化をカバーするのかあるいは合作など中国ビジネスの新しい方法論が確立するのか、それともシュリンク傾向に傾いていくのかしばらくは目の離せないトピックである。

当欄としては、アニメの制作環境・労働条件をよい方向に変えていくには、人口が縮小していく国内市場だけでは限界があると考えており、海外市場が伸びていくのは前提条件と考えている。
これはアニメというローカルな“郷土料理”が、その個性を生かしたまま、いかに世界商品として成立しうるのかという問題――海外で作られた日本アニメ風な作品がそのポジションを埋めてしまう可能性も含めて――とも地続きである。

そして、もうひとつのトピックが、配信の売上がパッケージの売上を上回ったという事実である。いつかは来るだろうと思われていたが、「その日がついにきた」のである。
ビデオパッケージの売上は587億円で前年比76.7%。一方配信の売上は595億円で前年比110.2%。例えば2015年にはビデオパッケージが928億円で、配信が437億円と、ほぼ半分程度だっただが、3年でその関係が逆転したことになる。

とはいえこれから配信がどれだけのペースで伸長していくか。社会全体の経済状態も含めて、注目していかなくてはならないところだ。

例えばパッケージビジネスが一番盛んだった頃の2005年には、ビデオパッケージは1388億円を売り上げているのである。
配信はどれぐらいのペースでその水準に至るのか。配信単体で見れば拡張傾向なのは間違いないが、いつ「アニメ産業の大黒柱」になるかどうかはまだ注視が必要といえる。

また、この2つのトピックにまたがる形で注目なのがスマホゲームの存在感だ。『アニメ産業レポート』の中でも、“チャイナ・ショック”の影響がありつつも、海外市場の売上が下がらなかった一因として「スマホゲームの存在感」があげられており、同レポートの中では「世界的なメディア構造の変化に伴う配信需要の拡大に加えて、アニメ由来のスマホゲームが量的に増加し、その配当がアニメ産業全体に行き渡るようになると海外市場はさらに増大する可能性がある」という形で今後の可能性に触れている。

今でもスマホゲーム原作のアニメは多い。しかもスマホゲームが世界的なヒット作になれば、アニメの販路も広がる。
あるいは逆に――かつてアニメ『ポケットモンスター』が北米でゲームの宣伝のために先行して放送されたように――アニメが突破口となってスマホゲームが知られるという可能性もある。
海外市場を含めて考えると、アニメとスマホゲームの関係は、もう少し広い視点で考えることができるという指摘は今後の情勢を考えていく上でも重要な視点と思った。

『アニメ産業レポート2020』はこのほかに「アニメ商品化等二次利用」「アニメ音楽」「ライブエンタテイメント」など、アニメと関係のある産業などの現況についても、レポートがまとめられており、北米や中国の市場についての分析も載っている。

業界関係者向けのレポートで決して安くはないが、興味のある方は目を通してみるのもよいだろう。
また同書を購入した人は、リスト制作委員会による「2018年アニメ全作品パーフェクトデータ」をPDF形式で入手できる(昨年まではレポートの冊子内に掲載されていたが今年からデータ化された)ので、こちらも大きな魅力といえる。

>「アニメ産業レポート2019」詳細はコチラ
[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』、『声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~ 』、『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』がある。最新著書は『ぼくらがアニメを見る理由 2010年代アニメ時評』。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。

《藤津亮太》

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