■EDによさこいを選んだ理由
――パッケージ発売記念上映イベントで、「『海門決戦』は無名のアイドル映画」と語っていたのが印象的でした。
荒木:今回の作品は最初から60分だと決まっていため、できることも限られてくるので、最初に「『カバネリ』を好きでいてくれる人に対して感謝を伝えるファンムービーにしよう」と決めました。
みんなが好きな『カバネリ』を再確認できる作品にするために、ヒロインの魅力、もっと言えば「生駒と無名のボーイ・ミーツ・ガールを中心に据えよう」と。
自分でも意外なほどボーイ・ミーツ・ガールがよく描けたのは、『カバネリ』TVシリーズの中でも最大の成果でした。生駒と無名がとても好ましいキャラクターになったと思えたので。
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――それに関連して、映像面で意識したことはありますか?
荒木:端的に面積比を上げる。画面の中に無名が映っている時間を多くすることを意識しました。
TVシリーズの後半って、ストーリーの展開上仕方がないのですが、無名の出番が少ない回もあって、そうなると「無名が足りない!」とやっぱり思ったわけです。ショートケーキでいえば「いちごが乗っていない」みたいな物足りなさ。
だからこそ『海門決戦』では、とことん無名を推そうと思いました。たくさん映すぞと。
イメージしていたのは大林宣彦監督の映画『時をかける少女』。主演である原田知世さんのアイドル映画ですが、作中の人物から監督から、みんなが主演の子を愛でている感じ。「あの感じにならんかな」と思って作っていました。
ラストの歌や踊りも、大林監督版『時をかける少女』の、あの多幸感を出そうとして至った演出です。
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――ED映像はファンとしてもかなり嬉しかったです。数ある踊りの中からよさこいを選んだ理由はありますか?
荒木:和ものであり、女子が踊ってかわいいもの、と条件を付けて探しました。
僕の家からそう遠くない場所にある光が丘公園で毎年よさこい祭りが行われていてよく見かけるんですが、前々から「この踊りいいな」と思っていたのでよさこいにしました。
でも作り始めたあとで、よさこいの鳴子は稲を鳥から守るための道具だったと知ったんです。だから後付けで、もっともらしい説明を加えました(笑)。
――無名の本名である穂積につながったんですね。
荒木:そうなんです。まったくもってこの作品のためにある踊りだな、と。知らずに決めましたが(笑)。
――EDの衣装もとてもかわいかったです。デザインは美樹本さんがされたのでしょうか。
美樹本:はい。監督から全体のイメージと、「衣装をキャラクターごとにアレンジしてほしい」と要望があり、それをもとにデザインしました。
荒木:よさこいの資料を見せて「こういったイメージのものをください」と。あとは完全に美樹本さんにお任せしましたが、素晴らしいものを上げてくださいました。
■アニメの絵として完成した『海門決戦』
――美樹本さんは完成した『海門決戦』をご覧になっていかがでしたか?
美樹本:先ほど監督がおっしゃっていたように、江原さんがキャラクターをアニメとして動かしやすく整備してくださったな、と感じました。「こうすると線が減ってアニメとして描きやすくなるのか」と勉強になりましたね。
とくにロング(遠くからキャラクターを映したカット)はかなり簡略化して描いていたのではないでしょうか?
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荒木:そうですね。省略しても美樹本さんの絵をキープできる部分はどこか、江原さんが試行錯誤してくれました。おかげでアニメーターに無制限に負担をかけないよう進行できたと思います。江原さんいわく、絵を動かすのであれば、初期設定時にはディテールを描き過ぎないほうがいい、と。たとえば膝パーツの針金がひとつなくなるだけでも、作画の手間が大きく減る。だから設定には描かず、もし欲しくなったらクローズアップのカットにだけ自分が描き込んでしまえばいいと。あえて設定のディテールをダウンさせることで、映画としての全体のクオリティーを底上げすることを今回とくに意識されていたと思います。
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美樹本:デザインの精査はゲーム版(『甲鉄城のカバネリ-乱-』)の頃から行っていましたよね。
荒木:ええ。オープニング映像を江原さんが手がけたのですが、作画だけでなく絵コンテから演出まで、ほぼ監督のような立ち位置でつくってくれました。
そのとき「これだ!」と掴んだ感触を『海門決戦』に全面的に持ち込こまれたようで、江原さんのこれまでの仕事の中でも、もっともいい出来になったのではないかなと。代表作だと僕は勝手に思っています(笑)。
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