アニメスタジオの地方進出、その可能性と意外な落とし穴とは? サンジゲンら4社が語る | アニメ!アニメ!

アニメスタジオの地方進出、その可能性と意外な落とし穴とは? サンジゲンら4社が語る

近年、アニメ業界を目指す人が世界的に増えている。こうした次世代のアニメ制作を目指す人や、アニメファンの方々を対象にした勉強会「あにつく2019」が9月28日、東京・秋葉原のUDXで開かれた。

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『あにつく2019』「地方スタジオ創在活誤」の模様
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近年、アニメ業界を目指す人が世界的に増えている。こうした次世代のアニメ制作を目指す人や、アニメファンの方々を対象にした勉強会「あにつく2019」が9月28日、東京・秋葉原のUDXで開かれた。

最新アニメ制作技術の紹介や、有名作品の制作にまつわる秘話、業界の現状など16セッションが無料で開催され(一部有料セッションあり)、いずれのセッションも大勢のファンで満席となった。

本稿ではそのうち、セッション「地方スタジオ創在活誤」の様子をお送りする。

昨今、それまで東京一極集中だったアニメ制作スタジオを地方に分散させる動きが盛んだ。これから地方でスタジオを旗揚げするときに一体どんなことに注意すればいいのか、地方スタジオ設立・運営のノウハウが熱く議論された。

パネリストには株式会社サンジゲン代表取締役の松浦裕暁氏、株式会社サブリメイションの須貝真也氏、株式会社ENGI取締役の吉岡宏起氏、有限会社オレンジの半澤優樹氏の4氏が登壇した。今回はオレンジの半澤氏が、地方スタジオ設立経験のある3氏に話を聞いていく。


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セッションではまず、業界全体の地方スタジオ事情について語られた。登壇している3氏の企業以外にも、多くの企業が地方に進出している実態に触れられた。

続いて各社、なぜ地方に進出したのかという点を紹介した。
サンジゲンについて松浦氏は、「アニメは東京でしか制作できなかったが、近年それがインターネットの発達によって壊れている」と、アニメ制作のあり方が21世紀に入って変わりつつあると指摘。そして「自分も地方出身だが、やはり地方出身者としては出身地に近いところで働きたいという人も少なくない」と話した。


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続いてサブリメイションの須貝氏は、地方にスタジオを作った動機について、松浦氏と同様「自分も地方出身だから」と明かした。さらに、「地方にも専門学校がたくさんあるので、そこにスタジオがあれば人材が集まりやすいのではないかと思った」と狙いを明かした。

松浦氏と須貝氏の両名が出身地に近いからと理由を挙げた一方、吉岡氏は、地方の専門学校の先生の依頼でその地方にスタジオを開設した体験談を話した。


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続いて地方にスタジオを設立してどうなったかという話に移った。
サンジゲンの場合、京都にスタジオを設立した際会社説明会を開いたところ、5,60人が集まったという。その中から15人ぐらい初年度で採用したエピソードが語られた。
その後、京都スタジオが社内のモデリングチームのトップになるなど、特色が出始めたという。

地方スタジオで事務所を借りる場合の利点として、東京に比べあまりコストがかからない点や、助成金制度が挙げられる。

松浦氏によると、「助成金制度はいまほぼ全国あるのではないか」と推察する。ただ、その中でも若干違いがあり、都市によってはスタッフを増員した時にもさらに助成金が出る制度を設けている自治体もあるという。


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須貝氏によると、サブリメイションも名古屋市で同様の助成金制度を活用したという。サブリメイションの場合、名古屋と仙台に拠点を置いているものの、これによって地域の専門学校に毎年授業を教えることが可能となり、その専門学校から安定的な人材の供給がされるようになったという。
地方にスタジオを開設するメリットは、こうした点にもあるようだ。


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しかしながら、メリットだけではなさそうだ。
サンジゲンの場合、京都にスタジオを開設したものの、東京が中心という考え方が根強いため、東京から地方にスタッフを異動させるのが難しかった。そのため、「新入社員の教育の面で難航した」と松浦氏は話す。

また、次第に地方スタジオでの採用が厳しくなっていく面もある。
例えばある地方スタジオにアニメーターしかいない場合、アニメーターしか新人の教育が出来ないため、モデラーなどといった別職種の採用ができない問題が発生する。
結局のところ、教育者がいない限り、採用ができない問題にぶち当たったという。


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サブリメイションにおいては、「データのやり取りで時間がかかるようになり、そこから様々なタイムロスが発生するようになったため、東京のディレクターの負担が増えてしまった」と須貝氏は振り返る。

また、思っていた以上にスタッフが集まらなかったという問題もあった。名古屋では上手くいっていたものの、仙台の場合、優秀な人材がそもそも東京に出てしまったりという問題に直面した。
一重に地方都市といっても、地方によって集まる集まらないといった差があるようだ。


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吉岡氏は過去に、肝心の専門学校からの人材が安定的に供給されなかったり、東京との研修面での連携が上手くいかずに、最初のうちはクオリティが出せなかったりという問題もあったそうだ。


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地方スタジオの運用の仕方は、各社において違いがあるようだ。
例えばサンジゲンやサブリメイションの場合、全スタジオで一つの作品の制作を進めていく体制を採っている。特にサンジゲンの場合、各地方スタジオでも東京のサーバーにアクセスして仕事を進めており、各地方スタジオにはサーバーを設置していない。
一方の吉岡氏の在籍していた会社は、各スタジオに別個に仕事を取ってくるような形で、それぞれ別タイトルの仕事を進めている。


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その後は、「地方スタジオの今後」というテーマで話が進められた。サンジゲンの場合、今後スタジオを地方だけでなく海外にも進出したり、仕事の発注の仕方を変えたりする方向で進める。
サブリメイションの場合は、今後個人スタジオという形で自宅作業の体制を整えていくことで、例えば家庭的な都合でスタッフが実家に戻ってしまった場合でも、変わらずに仕事が続けられるようする方針だ。

吉岡氏のENGIの場合、岡山をはじめ競合会社の少ない中核市に進出する考えだという。
半澤氏のオレンジの場合は、福岡に進出する準備を進めているほか、海外の企業と仕事する機会が多いため、海外スタジオとの提携を深めていく見通しだ。


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最後に松浦氏は「優秀な人材が東京に集まる構造が変化しているのではないか」と指摘する。アニメ制作会社も東京だけでなく、各地方の専門学校に積極的に出向き、優秀な学生をスカウトしていく必要性があるという。

そして「地方スタジオを運用することは、助成金や補助金制度も充実しているため、いろんな失敗もできる。いまの日本で積極的にトライできることではないか」と松浦氏は締めくくった。

[アニメ!アニメ!ビズ/animeanime.bizより転載記事]

《河嶌太郎》

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