そう言って、自ら驚く大塚明夫さんと堀内賢雄さん。
多くの作品で共演し親交の深いふたりだが、“次”の対談の機会はないまま長い年月が過ぎた。
そして、今。渡辺信一郎総監督による最新TVシリーズ『キャロル&チューズデイ』で念願叶い、対談の場が設けられた。
「俺たちはちゃんと話せないから」と謙遜しつつ、グラスを傾けるベテランふたり。しかし、最終的に記事を2本立てにするほど濃い内容になった――。
このインタビュー前編では、2019年9月に最終回を迎えた『キャロル&チューズデイ』についてネタバレアリで見どころや役への想いをうかがった。
後編ではベテランふたりから見た“声優業界の過去と今”を聞いている。こちらも合わせてお読みいただきたい。
[取材・構成=松本まゆげ、撮影=YOU ISHII]
■ベテランも感じる「実力派とやれる楽しみ」
――まずは、放送を終えたばかりなので(インタビュー時)、最終回の感想から伺いたいです。
大塚:それはもう、やっぱり泣きましたね。「奇跡の7分間」と呼ばれる最後のシーンは、とくに。
ただ、よくよく考えると(「Mother」という曲を)歌っているだけなのでアニメーションの中で“奇跡”は起きていないんですよね。第1話から観て、いろんなエピソードの胸の中にしまってきた視聴者たちのなかに“奇跡”が生まれたんだと思います。
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――音楽ってそれだけ想いが伝わるものなんだなとも思いました。
大塚:うまいこと作ったもんだなと。ナベシンさん(渡辺総監督)、佐々木さん(フライングドッグ代表取締役社長・佐々木史朗氏)、南さん(ボンズ代表取締役・南雅彦氏)が力を合わせて素晴らしい形の音楽アニメにしてくれました。
映像に先駆けて「Mother」の曲だけを聴かせてもらったんですが、それだけでも泣けましたね。
戦うこともあったけれど、最後はみんなで同じ音楽を紡いで思いを共有して締める。泣かせるように作っているよなと。素敵なクライマックスです。
――堀内さんが演じられたダリアは、最終回を待たずに亡くなったんですよね。
堀内:ええ、だから現場では確認できず。僕の最後の収録(第22話「Just Like Heaven」)では、お花をいただいたんですけど。
大塚:黒いダリアだったね。
堀内:そうそう。気を遣っていただきました。そこで、僕自身は「あぁ終わったんだな」と思っていたんですよ。
だけど、最終回(第24話「A Change is Gonna Come」)の収録のあとで撮った集合写真、僕だけ右隅にいるんです。欠席者がされるあの感じで!
――別枠で顔写真が貼られてしまうあれですね。公式ツイッターにもアップされていました。
間もなく放送の最終回の前に「キャロル&チューズデイ」最終回のアフレコ終了後の1枚をご紹介
— TVアニメ「キャロル&チューズデイ」(公式) (@carole_tuesday) October 2, 2019
ここにいらっしゃらない方も含め、この作品には本当に多くの役者の方々にご参加頂きました。本当にありがとうございました#キャロチュー #CandT pic.twitter.com/irGM1oe6qd
堀内:「賢雄さん、大変なことになってますよ!」ってみんなが僕に送ってくださるので、なんだろうなと思って見たらそんなことになっていました(笑)。
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堀内:それ見てすごくウケちゃったんですけど、同時に「俺のいないところで錚々たるメンバーが出てるじゃん!」と、キャストに驚いたんです。
ガスが毎話オープニングで言っていた奇跡の7分間って本当にすごかったんだなと見せつけられましたし、「どうなるんだろう?」と気になりましたね。
だから先にそこだけ観たんです。聴かずに終われないよな!と。
大塚:しかもその曲の後に「To be continued」って出るんですよ。最終回だけど、みんな(視聴者)の心の中で続いていくってことなんでしょうね。「こんにゃろう!」と思うニクい演出でした。
――ではそこから時間をさかのぼりまして、おふたりがこの作品やキャラクターに出会った頃のことを。お互いのキャラクターでも構いませんが、最初はどんな印象を受けましたか?
堀内:ガスは、明夫にぴったりだなって思いましたね。昔からの仲だから、わかるんです。
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大塚:こんなに腹の出た役は初めてだけどね(笑)。
堀内:昔ならもっと強面系のイメージだったからね。いわゆる人間の柔らかさって年々出てくるものだけど、それが出てきた今の明夫にガスはぴったり。
「なんで俺に来ねえのかなぁ?」って思ったりするもん。いや、冗談よ、冗談!
大塚:俺、ダリアはできないよ(笑)。
堀内:あはは(笑)。今の明夫なら包容力がありますし、一方でヤサグレ感もスムーズに出せているなって。
20年前のガスだったらまた違っていただろうし、10年くらい前の明夫だったら“二枚目”が入っていたかもしれないね。
大塚:(二枚目は)やる必要なくなっちゃったし。もう忘れちゃったよ。
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――大塚さんはガスと向き合ってみてどんな印象を持ちましたか?
大塚:こんなに腹を出た人やれるかなと思ったけど、実際はそんなことどうでも良くて。キャロルとチューズデイがキラキラするためにはちょっとすすけていないといけないので、そこを繊細に考えましたね。
あとは図々しさと、ふたりがキレイにかわいく感じられるためには、こっちはキレイにしゃべるべきではないとか。そういう対比みたいなことをよく考えました。
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――演じるキャラクターひとりと向き合うのではなく、周りとの関係性のなかでキャラクターが出来上がっていくんですね。
大塚:主人公じゃないですから、「この役は何をするためにいるのか?」ということが大事ですね。自分が演じるばかり考えていると面白くないんですよ。
――では堀内さんはダリアについてどう感じましたか? 火星の環境により性別の境がなくなっているという複雑なプロフィールですが。
堀内:ダリアには違和感なかったですね。両性具有でしたが、だからといって見た目にはとらわれず“ステージママとしてアンジェラを愛している”ところが出ればいいのかなと。
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堀内:年齢的にも「声を作ってみよう」という役作りはしなくなったので。
大塚:年齢どうこうの話じゃないよ、きっと。あなたの人生が滲んでダリアの声になっているんだよ。
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堀内:嬉しいねぇ……この調子でずっと褒めあっていようか?(笑)
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――(笑)。では、共演も嬉しかったでしょうね。
大塚:それはもう(笑)。
堀内:今までどれくらい共演してきたかわからないくらいいーーっぱい共演してますけどね!
大塚:アンジェラとのやり取りは、現場で見ていてすごく素敵だなと感じました。
倒れる前に言った「自分が誰かも知らないくせに!」っていう言葉は、もはや呪いみたい。積み重なってきた思いが溢れ出てしまっているようなお芝居で、とても良かったです。
堀内:僕は年を取ってきたからかわからないんですけど、セリフにその人の人生や哀愁を感じてしまうんです。明夫がガスに投影している声は、ガスの人生そのもの。
バーで飲んだくれているときなんて、なぜ今そうなっているのか過去に何があったのかすごく興味が沸きましたね。
大塚:ガスとダリアの掛け合いも面白かったなぁ。
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堀内:馬鹿にし合っているようなセリフばかりだったけど、面白かったね。
大塚:しっかり届けるために、セリフの“寸法”を気にしてやるのもいいんだけど、ただただまっすぐ罵れるようなニュートラルさって楽しいんですよね。それがガスとダリアの掛け合いにはありました。
視聴者にバレてはいけない楽しみなんですけれど。
――その他にも、演じるうえで楽しさを感じられた場面はありますか?
大塚:一流の役者のなかでできるのは、楽しかったです。例えば、マモ(宮野真守)や神谷(浩史)くん、(入野)自由くんたちがなんで売れているのかというと、実力が伴っているから。ちゃんと理屈があるんですよね。
探りながら一生懸命やっている人たちと一緒にやるのも楽しいんだけど、やっぱり評価の高い人たちは評価の高い理由がある。
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――信頼感もありますし、掛け合う芝居も変わってくるでしょうね。
堀内:そうですね。人気声優でありながら実力派。さらにはベテランの方たちも大勢いらっしゃる現場でした。
監督もよく見ているなって思います。“役者として演技派”という方たちをちゃんと散りばめているんですよね。だから楽しい。
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