「見えない空気を描く」アニメ脚本家・吉田玲子の原点となった作品とは?【インタビュー】 | アニメ!アニメ!

「見えない空気を描く」アニメ脚本家・吉田玲子の原点となった作品とは?【インタビュー】

『きみと、波にのれたら』の湯浅政明監督、『ガールズ&パンツァー』の水島努監督などヒット作を手掛けるクリエイターから引っ張りだこの脚本家・吉田玲子にインタビュー。後編では、アニメ脚本家として活躍する吉田さんの素顔に迫る、踏み込んだ質問もさせていただいた。

インタビュー スタッフ
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『きみと、波にのれたら』(C)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
『きみと、波にのれたら』(C)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会 全 5 枚 拡大写真
6月21日公開の劇場アニメ『きみと、波にのれたら』より、脚本を担当する吉田玲子さんへのロングインタビュー。
後編では、アニメ脚本家として活躍する吉田さんの素顔に迫る、踏み込んだ質問もさせていただいた。前編とあわせてお読みいただきたい。
『ガールズ&パンツァー』では戦車に乗り、劇場アニメ『若おかみは小学生!』では旅館を訪ね、今回の『きみと、波にのれたら』では消防庁に取材に行ったという吉田さん。

ひとつの作品に何百人というスタッフが関わるアニメ制作において、軸の部分となるシナリオを作る吉田さんのお話には、作品に向き合うこだわりと、脚本家ではなくとも活かせる処世術があると感じた。
[取材・構成=奥村ひとみ]

インタビュー前編

アニメ界で引っ張りだこの脚本家・吉田玲子、そのルーツと“場の空気”まで描く脚本術とは?

■「シリーズ構成」に求められるものは?



――2001年放送の『カスミン』では初のシリーズ構成を担当されました。初めてやってみて、どんな難しさがありましたか?

吉田:シリーズ構成は、作品の方向性を示すために第1話の脚本も担当するケースがほとんどなのですが、経験がなかったので、どう書けばいいかよくわかりませんでした。そこで、女の子が主人公のアニメの第1話をいろいろ見て勉強しました。

――何か分かったことはありましたか?

吉田:わたし的に一番面白かったのが、高畑勲監督の『赤毛のアン』の第1話でした。



二十数分間の大部分がアンとマシュウの会話劇で進み、大きな物語も描かれるわけではないのですが、すごくワクワクして印象に残ったんです。
これから失望することが目に見えているのに、アンの「つらく貧しい暮らしの中でも想像力を活かしながら前向きに生きていける子なんだ」というキャラクター像もすごくハッキリしていたんです。

あと、先ほど言ったような見えない空気(前編を参照)が描かれていて、養子になれることとワクワクしているアンに対し、手違いで女の子を連れて行かざるを得なくなったマシュウという、そこに生じている見えない関係がすごく面白かったんです。

これは、アニメ脚本家としてのある種の原点になっているかもしれないですね。

――シリーズ構成の立場では、各話を脚本家に振り分ける仕事もあります。自分以外の脚本家に書いてもらうときに気にかけていることはありますか?

吉田発注時に出来るだけコンセプトをしっかり伝えておくことでしょうか。そうでないと、シリーズの意図に沿わないものが上がってしまう可能性もありますので。

『カスミン』では、他のライターさんのシナリオを読んで、もう少しこうしてほしいとお
願いすることが初めての経験だったので、脚本を書くこととはまた違う能力を使うなと思いました。
シリーズ全体のバランスを引きで見て、「この人にはこういうお話をお願いすると面白く書いてくれるだろうな」といった管理職的な能力がシリーズ構成には必要かもしれません。

――脚本を直すときに大事にしていることは何ですか?

吉田「この話はシリーズ全体の中でどういう役割を担うのか?」というその話数の立ち位置を意識しています。
物語の本筋を追うストーリーがある一方で、ちょっと軸から外れるエピソードが作品に広がりを与えてくれる。これはお芝居と同じことが言えると思います。主役はいるけど脇役だっているし、脇役から見た主役のお話もあって、だから全体が面白く見えるということです。

――シリーズ構成をするにあたって色んな人と関わるかと思いますが、コミュニケーション面で気をつけていることはありますか?

吉田自分を守り過ぎないことでしょうか。やっぱり書いたものを否定されたり意見されたりするのって少しは抵抗があったりするんですが……でも、すぐに「そうじゃない」と否定するのではなく、まずは一旦話を聞いて、そのうえで素直に思ったことを伝える。

「自分を守ろう」とすると良い意見も弾いてしまうかもしれないし、「よく分からないな」という意見でも、「あ、もしかしたらこの人はココじゃなくて、コッチが気になっているからこういう意見になるのかな」と気づきが得られることも大いにあるので。


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《奥村ひとみ》

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