■「今、この瞬間も燃えている」クレイの炎の正体
――クレイを演じるにあたり、役柄をどう解釈し、どんな風に演じようと思いましたか?
堺:はじめに思ったのが、実写だったら相当準備に時間をいただかないと、体の大きさが無理だと思いましたね(笑)。
――たしかに、逆三角形のメチャクチャ良いガタイをしています(笑)。
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堺:1年かけてプロテインを飲んでも、体が作れないから、別をあたっていただくか、僕でというならちょっと違うことをしようと思いました。それくらい、クレイの体の大きさに違和感を感じていたというか、最後まで悩んでいたんです。
今も、悩んでいるんですよ。クレイのあの体の大きさと生命力、迫力というものを表現するためには、もっと頑張らなければいけなかったのでは、初号試写を観た時に思いました。
中島:アフレコの様子をブースで見ていた僕たちは、全然いけていると思った。でも脚本もそうですが、当事者は常に「ここはこうすれば良かった」と思ってしまいますよね。
堺:クレイは、もっと要求していた感じがしました。収録前は、ラストから逆算して、大体5段階くらいの声の大きさを考えていて、熱量がどんどん高くなるクライマックスでレベル5を出す予定だったんです。
ところが、半ばの「旦那と呼ぶな!」というセリフでいきなりレベル5を要求されて。
一応できるからやりましたが、「レベルMAXをここで使っちゃった」と目眩がしました。プロレスラーが、技を全部出し切ってカウント2も取れなかった心境でしたよ。この後どう戦えばいいのって(苦笑)。
中島:そのセリフで初日の単独アフレコが終わって帰って、「次の日またよろしく」ですからね。
堺:終わった後、正直に「もうないです、明日が心配です」と打ち明けたんですが、「やってください!」と言われたので、まあ、なんとかなりましたね(笑)。
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――実際、クライマックスの演技は、レベル5を振り切っているように感じました。ちなみに、今石監督からは、堺さんになにかアドバイスされましたか?
今石:アクションシーンで、細かい息の芝居が必要なところだけでしたね。パンチのタイミングや体の動きなどを1回説明しただけで、すぐに演技をバッチリ合わせてくれたので、本当にすごいなと思いました。
――後半は、松山さん、早乙女さんと3人で収録に臨んだそうですが、やはり相手がいて実際にセリフの掛け合いがあると、テンションも上がりましたか?
堺:やっぱり3人でやらせて頂いたのは、とても良かったです。特に、松山くんの全力な演技に、助けられましたね。「この感情を出すために、声だけでどう表現すればいいのかな」と考えた瞬間は、一度もありませんでした。気がついたらまずやるという。
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中島:まるで劇団☆新感線の稽古を見ているようでしたよ。吹き替えではなく、3人が普通に芝居をやっていましたね。
今石:アフレコを聴きながら、普通の絵を描いたら負けると感じるくらい、生のお芝居の迫力がすごかったです。
堺:クレイの面白いところは、他人に影響をされないところです。彼は殴られても、「ウガーッ!」と殴り返さないんです。彼の炎は、わかりやすい表層ではなく、もっと奥のややこしいところで燃えている。でもそこが素敵なところだと、映像を観て感じました。
クレイの熱は、過去のエネルギーが溜まっていて、それが吹き出しているんだと思っていたんですが、実はずっと燃え続けていた。悲しかったり、自分に対するモヤモヤや違和感だったり、悩みだったりで、「今この瞬間も、クレイの炎はある」と。クレイの炎は、自分と世界との摩擦で燃えているんだと思って。
中島:僕の中で、そういう役が“堺雅人的”だったんだよね。後半テンションは上がりっぱなしだし、尺もないからかなり駆け足で終わりになるんだけど、ガーッと燃えていた炎が、ちゃんとクレイの一言で燃え尽きている。そこが、やっぱりさすがだなと思いました。「フォーサイト」にちゃんとなっていると、ホッとしましたよ。
堺:なるほど。ギリシャ語の「プロメテウス」と英語の「フォーサイト」は、実は似た意味を持つ言葉だったんだなって、さっき知ったんです。2人とも全然教えてくれないから、そういう話。
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中島:教えちゃったらつまらないじゃない(笑)。『蛮幽鬼』のサジはわかりやすかったでしょう?
堺:今石さんがおっしゃった「アニメっぽい」という感じですかね。アニメって時々、人物が二等身になるときがあるじゃないですか。サジは、二等身になってもパワーと凶暴さは変わらない。。
住む世界がぐっと変わって、力が抜けているのに、質量が保存されている感じがおもしろい。そういうことを思いつくかずきさんが、本当におもしろいと思います。
――ちなみに、松山さん、早乙女さんとのアフレコで、印象に残っていることはありますか?
堺:休憩になったら、すぐに松山くんが弁当を食い出したことです。どうしたのって聞いたら、「腹減ったんで!」と。ついさっきまで、丁々発止をやっていた人間がですよ(笑)。そういう座長には着いていていこうと思いました。だから結局は、人間力なんですね。
太一(早乙女)くんとは、『蛮幽鬼』で共演していましたが、当たり前だけど芝居の色が増えましたね。大人になって、さらに上手くなられたなと思いました。
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――最後に堺さんの演技の見どころと、作品の注目ポイントを教えてください。
中島:ある意味、ファンの皆さんが予想していた通りのクレイですが、その想像を超える存在感を、堺雅人が見事に出してくれました。そんな堺くんの役作りを観ていただけると、うれしいです。
今石:クレイの常識から外れた“なにか”が、完全に声で再現されていて、この声に合う画をどう描いてやろうかと、意欲を掻き立てられたことが、すごくうれしかったです。
そんなレベルの演技は、ブースで「もっと、もっと」と要求しないと出てこないのですが、一発目でこれかと唸ってしまいました。堺さんが声を枯らしたほどの「叫び」を、ぜひ劇場でお楽しみください。
堺:僕のつたない言葉では、作品の魅力を語ることができないのですが、新しい“なにか”であることには間違いありません。僕たちは作品を皆さんに渡す作業をしたので、今度は作品を観た皆さんが自由に作品を楽しみ、いろいろな言葉で語っていただければと思います。そしてまた、松山くん、太一くんの3人でやれたらいいなと思います。
中島:ぜひやりたいですね!