カオルさんがリラックマに癒やされる姿を観ている内に、こちらまで癒やされてしまう内容に仕上がっている本作。
だが、どこかゆるさを感じさせる第一印象とは違い、本作の現場にはこだわりとチャレンジがあらゆるところに詰まっている。
そこで、制作を担当したドワーフスタジオに所属する小林雅仁監督にインタビュー。作品の内幕を語っていただいた。
[取材・構成=山田幸彦]
■やるからには魅力的なカオルさんを作る!

――まず、今回の『リラックマとカオルさん』監督としてオファーがあった際のご心境はいかがでしたか?
小林
今回シリーズものということで、正直なところ最初は「リラックマ」というキャラクターと「ドラマ」というのが結びつかず、戸惑いました(笑)。
僕は娘がふたりいるのですが、彼女たちを通してリラックマは子どもが好きなキャラクターであることは知っている……くらいの認識だったんです。
でも、話を聞く中で、30、40代の女性ファンも多いということがわかり、それでやっと今回の企画に合点が行ったんですね。
実際、サンエックスさんやNetflixさんの方々も、そういった女性ファンたちに向けて作れば、個性ある作品になるのではないかと考えられていたようで、そこから脚本の荻上直子さんを中心としたスタッフが決まっていきました。
――今回、リラックマと共に主人公を務めるOLのカオルさんですが、いままで全貌が明らかになっていなかったキャラクターでした。それを今回どう描いていこうと考えられましたか?
小林
これまでファンの人たちはカオルさんの後ろ姿しか知らなかったということで、それぞれの中にカオルさん像があるのだろうと思いつつ、「やるからには魅力的なカオルさんを作ってやろう!」という意気込みでスタートしました。
具体的には、東京のどこかに住んでいるリラックマとカオルさんをより身近な存在にしたかった。そこでカオルさんの住む街、アパート、部屋、職場までの距離といった設定を作ったんですね。
その設定をベースに部屋や服のデザインを決めていきました。
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――作品を拝見したのですが、疲れている社会人の方々の心にリラックマの存在が響くような内容に仕上がっていましたね。
小林
カオルさんの年代の方に届けばいいなと思っていますね。
観ていると、セリフが喋れるカオルさんがドラマを動かしている風に見えるんですが、実はそれを言わせているのはリラックマたちであり、彼らがいるからこそカオルさんは素が出てしまう……という部分を肝として考えました。
――リラックマの魅力はとぼけている表情にもあると思うのですが、「激しく感情の変化を表に出さない」といった表情付けの制約は設けられましたか?
小林
最初にキャラクターの動きをテストしていた段階で、スピード感や表情についての基準を版権元であり製作のサンエックスさん、クリエイティブアドバイザーのコンドウアキさんと詰めていく期間がありました。
それを踏まえて、現場ではその基準の中でリラックマらしい表現をしていきましたね。
――カオルさん、リラックマ、コリラックマ、キイロイトリといったキャラクターたちが登場しますが、画面上で動かす中で、それぞれのキャラクターの表現の違いはどう意識されていましたか?
小林
コリラックマはピュアネスの象徴的な存在ですが、リラックマは、これは僕が魅力に感じているところなんですけど、日曜日に昼寝してるオヤジ的な面ももっていると思うんですよ(笑)。
日常の動きから歩くスピードまで意識して、それぞれのキャラクターの動きにそういった個性を付けています。そこにも注目していただけると嬉しいですね。
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