今年も多くの企業団体が名乗りを上げ、最終的に4団体によるオリジナルアニメ企画が採択され、その制作を通じて若手アニメーターたちがアニメの基礎となる技術を習得した。
今回企画が採択された団体のうち1つがFlying Ship Studioだ。
少人数による3DCG映像制作スタジオで、『うっかりペネロペ』『うちのウッチョパス』など絵本テイストのショートアニメを手がける一方、CM、MV、ゲームムービーや、アニメ『結城友奈は勇者である』シリーズの3DCGパートなども手がけており、カバーできる幅は広い。
そんなFlying Ship Studioが「あにめたまご2019」で生み出した初のオリジナル作品が『キャプテン・バル』だ。
「あにめたまご」を受託する日本動画協会は、手描きのアニメ制作会社を中心とした団体だが、そのカリキュラムを3DCGスタジオが受けることでどんな効果があったのか?
そして完成した『キャプテン・バル』の見どころは? 本作で監督を務められた沼口雅徳さんと中島弘道プロデューサー(以下、中島P)にお話を伺った。
『キャプテン・バル』
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(C)Flying Ship Studio/文化庁 あにめたまご2019
【ストーリー】
とある島で暮らす超貧乏な少年バルが、大金持ちになるため、おんぼろ船に海賊旗を掲げ、仲間の豚(犬?)プー、妹のムゲ、オオサンショウウオのクーナを加え海賊団を結成! 悪逆非道を尽くし「海賊として成り上がってやるっ!」と意気込むのだが、なぜか毎回良い事をしてしまったり、借金取りにお金を持っていかれたり、そもそも相手にされなかったりと……何もかもがうまくいかないのであった。果たして、キャプテン・バル海賊団の運命やいかに!?
【取材・構成=いしじまえいわ】
>あにめたまご2019特集ページ
■少年海賊団あらわる! 物語の着想は意外なところから
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――今回、どういったきっかけで「あにめたまご2019」にエントリーされたのですか?
沼口監督
昨年の上映会に山元さん(「あにめたまご2018」で『TIME DRIVER 僕らが描いた未来』を手がけた山元隼一監督)にお招きいただきまして、作品を拝見いたしました。
弊社はオリジナル作品を作るという目的が元々あったので、これはチャンスがある面白い場だなと思い、企画書を書いてエントリーしました。
――本年度の4作品はキッズ向けのテイストが強いものが多く本作もそのうちのひとつですが、元々こういったジャンルは監督の好みでもあるのでしょうか?
沼口監督
そうですね。子どもが全力で楽しめる冒険感のある作品に惹かれますね。
特に幼少期に見た手塚治虫先生の『ユニコ』や、出崎統監督が手がけた『ガンバの冒険』のような、少し毒のある冒険ものが好きですね(笑)。
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――毒。本作は2話構成ですが、1話目のバトルシーンの後にもそれを感じるシーンがありましたね。
沼口監督
あれも入れようかどうか悩んだんですが、「いいかな?」と思って入れました(笑)。
中島P
シュールな感じも監督の持ち味なので。
――一見子ども向けですが、絵柄のテイストもあり毒もあり、実はサブカル向け含め広い層に響きそうな作品だなと感じました。でも監督としては、狙いはあくまで子どもということでしょうか?
沼口監督
はい。あくまで子ども向けです。ただ、子どもと大人、どちらが見ても楽しめるようなものを目指しました。
カートゥーンネットワークで放送の『ぼくらベアベアーズ』や『アドベンチャー・タイム』などは大人でも子どもでも結構ハマって見てますもんね。そういう作品が作れたらなという思いはありましたね。
今回は『ガンバの冒険』と『アドベンチャー・タイム』、それにメビウス(※1)などバンドデシネ(※2)にも影響を受けて作りました。
※1:バンドデシネ作家ジャン・アンリ・ガストン・ジローのペンネーム。マンガだけでなく映画『エイリアン』『トロン』『フィフス・エレメント』にはデザイナーとして参加。大友克洋、手塚治虫、宮崎駿など多くの日本人クリエイターが彼の作品に影響を受けている。
※2:19世紀からの歴史を持つフランス流のマンガのこと。
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――「少年海賊団」という着想はどこから得たのでしょうか?
沼口監督
作品の基本コンセプトは私が用意したのですが、昔の日本では貧しい漁村の農民が副業として海賊をしていたということがあったそうなんです。
子どもが家の手伝いをしたり主婦が子守をする、その片手間で海賊をやっていた……そんなことをイメージベースにしています。
――意外です。史実に基づいているんですね。
沼口監督
過去の日本に限らず、現代でも海外では海賊が居るところもあるそうですが、どの場合も原因は貧困なんですよね。
本作は基本的にはコメディですが、貧困と海賊、何があってもくじけない彼らの姿を通したコメディ、というコンセプトは企画書の段階から変わりません。
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――社会風刺とまではいかないまでも、かなり現実に着想を得ているんですね。
沼口監督
社会風刺ではありませんね。コメディです。
ただ完全なファンタジーよりも現実に発想の起点があって、そこからキャラクターが生まれて……という程度です。社会問題の要素は裏の裏の裏、くらいの感じですね。
――そういったコンセプトが作品に厚みを与えるわけですから、これもまた監督の作風ですね。
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