「国宝」で歌舞伎に熱狂した人へ 挫折したダンサーが「静」の極致に挑む!本格能楽漫画の金字塔「シテの花」【おすすめマンガ手帖】 | アニメ!アニメ!

「国宝」で歌舞伎に熱狂した人へ 挫折したダンサーが「静」の極致に挑む!本格能楽漫画の金字塔「シテの花」【おすすめマンガ手帖】

アニメ・マンガに目がないアニメ!アニメ!編集部がまだアニメ化されてないけどおすすめしたいマンガを紹介するコラム<おすすめマンガ手帖>。今回はサンデーうぇぶりにて壱原ちぐさ先生が連載中の『シテの花 ー能楽師・葉賀琥太朗の咲き方ー』をピックアップ。

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「国宝」で歌舞伎に熱狂した人へ 挫折したダンサーが「静」の極致に挑む!本格能楽漫画の金字塔「シテの花」【おすすめマンガ手帖】
「国宝」で歌舞伎に熱狂した人へ 挫折したダンサーが「静」の極致に挑む!本格能楽漫画の金字塔「シテの花」【おすすめマンガ手帖】 全 4 枚 拡大写真

アニメ・マンガに目がないアニメ!アニメ!編集部がまだアニメ化されてないけどおすすめしたいマンガを紹介するコラム<おすすめマンガ手帖>。今回はサンデーうぇぶりにて壱原ちぐさ先生が連載中の『シテの花 ー能楽師・葉賀琥太朗の咲き方ー』をピックアップ。

2025年、映画『国宝』が社会現象とも言えるヒットを記録し、伝統芸能への関心がこれまでになく高まっている。歌舞伎の華やかな物語が多くの人を惹きつける中、同じ古典芸能の源流にありながら、独自の精神性を守り続けてきた「能」をテーマに据え、注目を集めている漫画がある。「サンデーうぇぶり」で連載中の『シテの花 -能楽師・葉賀琥太朗の咲き方-』だ。

2024年に「週刊少年サンデー」でスタートを切った本作は、壱原ちぐさが圧倒的な筆致で描く本格能楽漫画である。伝統芸能という一見すると敷居の高いテーマを、少年漫画の持つエネルギーで解き放った意欲作だ。

※以下の本文にて“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意下さい。

芸能界の光を失った少年、仮面の世界へ

物語の主人公・葉賀琥太朗(はがこたろう)は、大人気ダンス・ボーカル・グループのメンバーとして、ステージの最前線でスポットライトを浴びていた。卓越したダンススキルを持ち、踊ることだけに人生を捧げてきた琥太朗だったが、公演中の事故により顔に大きな傷を負ってしまう。踊ること以外のすべてが不器用だった彼は、絶望とともに芸能界を引退。自分にはもう何も残されていない――そう思い詰めていた彼を救ったのは、亡き祖母が遺した能のチケットだった。

能楽堂の張り詰めた空気の中で、最小限の動きの中に無限の情念を込める「能」の表現に触れた琥太朗は、激しい衝撃を受ける。派手な演出や音楽で観客を圧倒するダンスの世界とは異なる、余分なものを削ぎ落とした先に宿る「花」。祖母との縁に導かれるように、彼はゼロからシテ方(主役)を目指し、能の世界へ身を投じることになる。

琥太朗の成長とともに学ぶ能の神髄

本作の大きな魅力は、ダンスという表現の第一線にいた琥太朗が、能という全く別の身体技法を学んでいく過程に、読者が並走できる点にある。一流のダンサーだった琥太朗にとって、能の基本である「構え」や「運び(足運び)」は、一見簡単そうに見えて、実は全身の筋肉を極限まで統制しなければならない、過酷な所作であった。

琥太朗が直面する壁を通じて、読者もまた能の基礎や、その背景にある深い精神性を自然に理解できるようになっている。

例えば、面(おもて)をつけることで極端に狭まる視界、わずかな首の角度で表情を劇的に変える「クモラス」「テラス」といった技法。これらが知識としてではなく、琥太朗の必死の稽古や、舞台上での焦燥感、そして掴み取った瞬間の高揚感とともに描かれ、能という未知の芸が、琥太朗の葛藤を通じて、読者自身の成長の物語として迫ってくる。

宝生流宗家の監修がもたらすリアリティ


本作が「超本格」と称される理由は、宝生流二十代宗家・宝生和英による徹底した監修にある。装束の襞(ひだ)ひとつ、面の光の当たり方、そして能楽師たちが交わす言葉の重み…これらが綿密な取材に基づいて描かれているため、作中からは能舞台独特の肌がヒリつくような緊張感が漂う。

また、琥太朗の師匠となる「鬼の泰山」こと丑満泰山や、若き天才・宝華至龍といったキャラたちも、単なる「師匠」「ライバル」という言葉では収まらない。伝統を継承する者の孤独、師弟関係の厳しさ、そして家元制度という特殊な環境下での苦悩など、人間ドラマとしての厚みが物語に真実味を与えている。

独自の表現で描かれる躍動感

劇中で特に印象的なのは、琥太朗が初めて舞台で舞うシーンだ。ダンスで培った身体能力を武器にしながらも、それを能という「型」の中に抑え込み、昇華させていく。無音のコマの中から、琥太朗の息遣いや、板張りの床を踏む音が聞こえてくるような感覚に陥る。

また、壱原ちぐさ特有の美しくもどこか幻想的な描写は、能が持つ「夢幻の世界」と完全に調和。過去の挫折という闇を抱えた琥太朗が、面を被ることで自分以外の何者かになり、同時に自分自身の本質をさらけ出していく。その自分との対峙は、少年漫画における修行や成長の要素を色濃く反映している。

能舞台の持つ迫力がより鮮烈な形で届く

近年、伝統芸能は人気バラエティ番組やアニメとのコラボを通じて、次の世代へ届き始めている。本作もまた、600年続く能という文化を、現代の人々が引き込まれる身近なものへと変えていく可能性を秘めており、もしアニメ化されたなら、映像作品ならではの「音」と「間」が加わることで、作品の魅力はさらに増幅されるだろう。緊迫した場面で響く鼓の音や、静寂を切り裂くような謡(うたい)が映像と融合したとき、能舞台の持つ迫力はより鮮烈な形で読者の心に届くはずだ。

<おすすめマンガ手帖>
アニメもマンガも大好きな編集部がイチオシのマンガをご紹介!アニメ化された注目作の原作や、まだアニメ化していないけど面白くて続きが読みたくなる、話題沸騰中の作品のおすすめポイントをお届けします。

《竹内らんま》

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