■『宝石の国』で変わった制作体制
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――会社が大きくなる過程で、苦労したことはなんでしたか?
井野元
『宝石の国』までは、ずっと下請けでやってきましたが、受注が増えれば、当然物量もカロリーも増え、それに対応するために人を増やすという具合だったので、少人数でやっていた頃よりもどんどん苦しくなっていました。
これ以上、下請けでやるには、会社の体力が持たないという限界ラインに到達したタイミングで、運良く『宝石の国』の話を頂いたので、「元請けにチャレンジしてみよう」ということになりました。
ですから、『宝石の国』の制作に入る直前ぐらいが、一番危ない橋を渡っていましたね。
和氣澄賢(以下、和氣)
私は『宝石の国』のために呼ばれたので、入社前後がまさにその時期。当時は下請けの仕事がメインだったので、10タイトル以上の作品に関わっていました。
誰がどの作品の担当なのかもわからず、毎週ビデオ編集、毎日納品という感じでしたので、確かにそのままの状態だったら厳しかったと思います。
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――プロデューサーとして、その厳しい制作状況をどのように変えていったのでしょうか?
和氣
当時スタッフが70名ほどいましたが、CGアニメーターとモデラーだけでした。ですから、まずは「元請け」として必要なスタッフを集めました。
次は全体のスケジュールです。今もそうですが、日本ではTVシリーズのCGアニメーションの制作本数がまだ少なくて、業界内でも作り方が定まっていません。そこで、いろんなCG制作会社さんに制作体制について教わりながら、オレンジとしてどういう制作体制を作っていくかを考え、実現していきました。
現在オレンジには、アニメーターが50名、モデラー15名のほか、『宝石の国』以降に入ってきた美術、撮影、作画、制作スタッフがいます。
『宝石の国』の制作時は、プロデューサーは私だけでしたが、その後3名増えて、今それぞれ現場を担当しています。
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――スタジオとしてさらに成長するためには、スタッフ育成も重要なポイントだと思います。普段から、スタッフ育成に関して行っていることはありますか?
和氣
アニメーションは、CGクリエイターだけでは作れません。今は、CG以外のクリエイターに入ってもらい、それぞれのセクションが何をやっているのかということを間近で感じてもらうのが、ひとつの育成、考え方を変えられるポイントだと思っています。
ですから、いろんなセクションの人間が対話しやすい状況づくりを心がけています。
具体的に言うと、メインの打ち合わせのときには、基本的に関係するスタッフにも出席してもらいます。今まで、美術スタッフとCGアニメーターが顔を付き合わせる機会は少なかったのですが、互いの仕事の領分を知って会話をすることで、作り方が変わったと感じています。
同じように、色彩設計とCGモデラーさんとで話し合ってもらうと、キャラクターの色味も変わってくるんです。その対話が生まれやすい「場」を作ることが、成長に繋がると思っていますね。
――お互いの仕事を知ることで、より良いクオリティの映像、新しい表現が生まれる土壌をつくるということですね。技術面では、社内で勉強会を開くなど、最新情報の共有・伝授に力を入れているそうですが。
井野元
やはり「腕が良くなって欲しい」という願いは当然あります。でもそれを実現するためには、長期的にトレーニングして、技術を磨ける環境が必要だと思っています。
一方で、業界の体質として、いろんな会社を渡り歩いて修行していくのが当たり前という風潮もあります。
これは私の個人的な考えですが、アニメやCGの仕事にはいくらでもやることがあって、何十年トレーニングし続けてもゴールがない世界。
だからこそ、同じ場所でじっくりと腰を据え、コツコツと研鑽を積んだ結果、技術や精神などいろいろなものが向上し、良い作品を作る糧になると思っています。
そういうスタッフが増えて欲しいというのが、社長としての理想です。
とはいえ、まだまだ難しい。今は試行錯誤しながら、会社の福利厚生を充実させたり、無理のない勤務態勢を作ったりと、働きやすい環境作りを心がけています。
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