葛藤を乗り越える
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――担当すると決められてから、いろいろ考えることがあったと思いますが、そのあたりもお聞かせいただけますか?
沼田
うちの会社にも『けものフレンズ』のファンが何人もいたので、スタッフも光栄というか、まさかこんな作品に関われるとは思ってもなくて。僕が最初に社内に伝えたときは、誰も信じませんでしたね。
――(笑)。誰も信じなかった。
沼田
そう。誰も信じなかったし、その後は「いやいや、無理無理」というか。むしろファンであるからこそ「ちょっと難しい」と。「あれはできない」というふうな反応でした。
でも時間がたつにつれて、さっき言ったみたいに、この作品に関われるということは、すごくありがたいことだなという意識に全員が変わってきて、葛藤を乗り越えたという感じですね。
スタッフみんなで何度も作品を見直したり、監督の木村隆一さんと脚本のますもとたくやさんと毎週毎週シナリオ会議というのをやり、それからキャラクターのモデリングから作業に入っていきました。
毎日がエキサイティング
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――どんなことを考えながら制作を進められていますか?
沼田
最初の作品というのは、色んなところに色んな伏線がちりばめられたりしてて、それを視聴者が見て発見して、何度も戻って見るみたいな楽しみ方ができる作品になっていて。
そこに気付くことによって感動し、さらに視聴者自身も「見つけられた自分もすごい」みたいな高揚感を得られる作りになっています。
雰囲気も可愛いくて、ストーリーもゆったりとしたところがあるんですけども、どこか尖った部分もあって、ポストアポカリプス感と申しますか、そこがゆるふわ感と相まって魅力となり、ヒットした要因でもあると思います。
もともとの設定、世界観にそういうものがあったんですね。
あとは現在のモデリングは、原案の吉崎観音さんが描かれたキャラクターを元に作っているんですけども、とにかく可愛い。
絵だけで引き込まれるというか、面白そうだなって思えるんです。本作では「より丸く」「より柔らかく」「よりやさしく」というコンセプトでデザインを進めたんですが、吉崎さんには細かく監修もしていただきました。
動物をモチーフにしたアニマルガールがいて「こんな動物がいるんだ」ということで名前を調べたりとか、そういう楽しみ方もありますよね。
実際に動物園へ行って「あれはサーバルちゃんだ」とか。知的好奇心も刺激されるというのが魅力の1つですね。
それを受けてセカンドシーズンは、この尖った作品の足元を固めるじゃないですけど。
これまでのファンや初めて『けものフレンズ』を見る方、子どもたちも楽しめるような、より国民的作品に近づけるじゃないですけども、そういうふうな役割を考えながら作っています。本当に毎日がエキサイティングですね(笑)。
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――アニメスタジオ「トマソン」の歴史について教えて下さい。
沼田
まずトマソンという名前の由来から説明させていただくと、赤瀬川原平さんというアーティストがいらっしゃって、1980年代に『超芸術トマソン』という本を出されたんですよ。トマソンとは「無用の長物」で役にたたない無駄なものという意味なんです。
なくても生きていけるし困らないかもしれないけれど、実はとても面白くて大切なものってあるよね、という意味が込められていて、それがアニメ制作とも重なってトマソンと名付けたんですね。
スタジオの代表は僕の父親なんですけど。いい名前だなと思ってます。
父はもともと『まんが日本昔ばなし』の制作会社の出身で、「これからはCGが来る」と踏んで、アニメ・CG会社として独立したんです。
当時の仕事としてはCMだったり、番組のオープニングのロゴだったり、CG回りの仕事が多かったと聞いています。
だからCG制作はスタジオのDNAとして組み込まれていて、今回の『けものフレンズ』の制作でも活きていると思いますね。
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