■本当は『北斗の拳』を寅さんみたいにしたい
――ではインタビューの締めに入りたいと思いますが、『蒼天の拳 REGENESIS』の今後の見どころを教えてください。
鹿住
まずは原作とは違うアニメならではの『蒼天の拳』をぜひ楽しんでもらえたら嬉しいです。色々な違いに驚いたり、ツッコミを入れていただいたり……。「なんでやねん!」というのも楽しみ方として全然アリだと思います。むしろ完璧にパッケージにするよりは、ご覧になった方々がイメージを膨らませてもらった方が楽しめるのかなと思って作ってきましたので。
堀江
それはまさにフィクションの作り方の本質だと思いますよ。人間の脳には補正能力があって、「あれ?」と思ったところを自分なりに想像して埋めるんです。それによって百人百様の見方が生まれ、作品をもっともっと面白くしてくれる。
すべてを合理的に作ってしまうと、理屈が分かりすぎて1通りの見方しかできない。だから物語が小さくまとまって見えてしまうんです。
良い描き手はあえて脇を甘く見せて、ちょっと疑問に思うような小さな謎を盛り込んでいるんですよ。
――アニメや漫画といったフィクションならではの楽しみ方ですね。
堀江
そして人間にしかできない楽しみ方でもあります。そういった部分を許容することがエンターテインメントを120%楽しむ秘訣だと思います。
僕は昔ラグビーをやっていたんだけど、スポーツだってルールがあるから競技として成立していて、面白いわけじゃないですか。人間社会もそう。法律があるから社会があるわけで、法律がなかったらどうなるか。
鹿住
『北斗の拳』のような世紀末になっちゃいますか?
堀江
(笑)。でもね、『北斗の拳』の中にも実は法律はあるんですよ。それがヒューマニティ、人間らしさという倫理観です。
本来は法律よりも優先されるべき観念なんだけど、現代は法律さえ破らなければ何をやってもいい、非道なことをしても許されると考える人たちがいる。
でもそれは順序として逆だと思うんですよね。倫理まで捨ててしまったら人間じゃなくてただの動物ですよ。って、なんか話が逸れちゃいましたね(笑)。
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――色々と面白いお話をありがとうございました。今後も『北斗の拳』シリーズがずっと観られることを楽しみにしてます。
堀江
本音を言うと、僕は『北斗の拳』シリーズの世代を超えたドラマを2年に1回くらい映画にしたいと思っていて。『蒼天の拳』の舞台は上海が中心だったけど、次はジャカルタ、その次は東京……みたいに未来にわたって続いていく。いわば世界規模の『男はつらいよ』だよね。
鹿住
それは素晴らしいですね(笑)。ぜひやりましょう!
堀江
もし実現したらアニメ!アニメ!さん、「今度の北斗は○○が舞台!」って記事を書いてくださいよ?(笑)
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『蒼天の拳 REGENESIS』
©原哲夫・武論尊/NSP 2001,©蒼天の拳 2018