そのうちの1作『ミルキーパニック twelve』は、TVアニメ『日本の昔ばなし』シリーズなどを手掛けるアニメスタジオ・トマソンによる作品だ。今回は本作を完成させたばかりの沼田心之介監督と沼田友之介プロデューサー兄弟に、あにめたまご2018に参加した狙いとプロジェクトを通じて得られた手応え、作品の見どころについてお話を伺った。
【取材・構成=いしじまえいわ】
【ストーリー】
ミルキータウンは今や廃人まみれの町になりかけていた。多くの動物たちはミルキング社のミルクを飲み、次第に耳が尖って猫化し、いつしかやる気まで失せてしまう。すべては世界をわがものにしようという、悪しき発明猫ミルキングの企みであった。しかしそんな折、チャーミィー牧場の牧童だった虎のイッポンが、修行の旅から帰ってきた。ことの真相に気づいた彼は、ネズミなど仲間たちと共に、町を救うべく立ち上がる!
>あにめたたまご2018 アニメ!アニメ!特集ページ
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■トマソンが目指した2つの狙い
――あにめたまご2018には、トマソンはどういった目的で参加されたのでしょうか。
沼田心之介監督(以下、沼田監督):
大きく2つの狙いがあってあにめたまご2018に参加させていただきました。ひとつはもちろん弊社の若手アニメーターのスキルアップです。もうひとつは、オリジナル作品を制作する機会を得るためです。
――前者についてはあにめたまご2018の趣旨の通りですね。後者について詳しく教えてください。
沼田監督
会社を大きく育て、クリエイターにとって良い環境を整えるためには、オリジナル作品やそのキャラクターの権利を運用し、制作会社に利益をもたらす必要があります。トマソンでは、『日本の昔ばなし』シリーズを除けば受注業務がほとんどで、オリジナル作品を一から自社で制作する機会は多くありません。
あにめたまごの前身であるアニメミライで制作された『リトルウィッチアカデミア』は、シリーズ化され、成功した有名な例ですが、このプロジェクトで制作された作品の権利は最終的に各、制作会社に譲渡されます。アニメスタジオにとって、あにめたまごは自社で作品の権利を持つうえでまたとないチャンスなんです。
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――会社の成長はアニメーターの労働環境を整えるため、という、より大きな目的のためなんですね。
沼田監督
その通りです。ヨーロッパだと制作会社が著作権を有するよう法整備されていると聞きますし、国内でもクラウドファンディングで制作費を集めてオリジナル作品を作るケースが出てきていますが、今回トマソンがあにめたまごに参加したのも、自社で作品の権利を持ち、クリエイターに還元するためという側面があります。
若手アニメーターのベーススキルが上がることで産業全体が活性化するという面もありますし、会社が大きくなり環境を整えることでアニメーターを目指す若者も増えると思うのです。つまり、若手アニメーターの育成とアニメスタジオが作品の権利を獲得して成長することは、アニメ業界全体の押し上げに必須なのです。
■実務から離れてこそ学べた、アニメーションの基礎
――作品制作を通じた若手アニメーターの育成について、詳しく教えてください。
沼田監督
入社してから3年未満の若手アニメーター6名に、昨年2017年の8月中頃から原画を、若手動画3名には9月中頃から3カ月ずつやってもらいました。教わる側の人数が多かったのと、干支がモチーフなのでキャラクター数もかなりあったので、育成する側のスタッフも60代の大ベテランを中心に作画監督、作画監督補佐、演出、指導原画と4名の方に入っていただきました。
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――指導にあたってはどういった点で苦労されましたか?
沼田監督
今回のキャラクターは最近のアニメのようなデザインではなく、ディズニーのような立体感のあるキャラクターでしたので、その感覚を掴んでもらうまでが難しかったと思います。
キャラクターがゴムのように伸び縮みするようなアニメーション本来の表現は、最近のアニメとテイストが異なるので、実務の中では学ぶ機会があまりありません。ですので、人によっては慣れるまで全然進まない、という状況にもなりました。
沼田友之介プロデューサー(以下、沼田P)
また、たとえば砂煙なら砂煙だけ描く、という風に、実務では分業制が進んでいますが、今回のプロジェクトでは基本的なことは若手アニメーターにひと通り全部やってもらうという形をとりました。大変ではありましたが、これも実務の中ではなかなか経験できないという意味で、育成には適していたと思います。
沼田監督
実際の業務から離れて、若手アニメーターがアニメーションを本当に基礎から学べたのは、あにめたまごプロジェクトならではだと思います。