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「あにめたまごは無二のチャンス」アニメスタジオ・トマソンがオリジナル作品「ミルキーパニック twelve」で目指すもの

若手アニメーターの育成事業「あにめたまご」より『ミルキーパニック twelve』を手がけたトマソンの沼田心之介監督と沼田友之介プロデューサー兄弟にインタビューを敢行。

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左から沼田心之介監督、沼田友之介プロデューサー
左から沼田心之介監督、沼田友之介プロデューサー 全 7 枚 拡大写真
■あにめたまごのシステムと「動画マンの重要性」

――ところで、若手アニメーターがトレーニングをしている期間、実務の方はどうなるのでしょう? 若手とはいえ6人分のマンパワーが抜けるのはスタジオとしても痛手だと思うのですが、その分プロジェクトからコスト面でのサポートがあったりしたのでしょうか。

沼田監督
ええ。通常の30分アニメと比べると潤沢な予算がつきました。

沼田P
ただし、その予算は全て若手クリエイター人材育成に使わないといけないように定められています。明細もかなり細かく提出することが義務付けられていますし、若手アニメーターたちに支払う給料も決められています。

――なるほど、国の助成事業ですから、不正な使われ方がされないよう徹底されているんですね。

沼田P
アニメーターの待遇について昨今テレビ番組などでも取り上げられたりしていますが、あにめたまごというプロジェクト自体がちゃんとクリエイターの待遇を改善するための仕組みになっているんです。これは素晴らしいことだと思います。

沼田監督
なので会社にとってのメリットは金銭的なものではなく、先述の通り、作品とその権利が残ることにあります。

(C)トマソン/文化庁 あにめたまご2018
――プロジェクトとしてのレギュレーションのようなものは他にもありましたか?

沼田監督
はい。たとえば、レイアウトの指導には「指導側が直接直してはいけない」という決まりがありました。指導側は「こういう風に直して」という指示だけを出し、若手自身に直してもらうというルールです。
通常ですと若手が制作したレイアウトはベテランの演出家によって修正を加えられ、何をどう修正を加えたか本人にフィードバックされないまま完成となります。そもそも動画マンと演出家が同じスタジオ内にいないことの方が多い、という物理的な問題もあります。
今回のレギュレーションだと、若手は普段得られないフィードバックを細かく受けられましたし、ベテランスタッフと同じ空間にいることでも何かと学ぶところがあったと思います。

――それは確かに得難い機会ですね。プロジェクトとしても若手育成の観点でレイアウトを重視していることも伺えます。

沼田監督
そうですね。他には外注スタッフに関するレギュレーションもありました。このプロジェクトでは若手アニメーター以外のスタッフも多数参加しているのですが、動画を外注する場合、国内のスタッフにしか発注できない、という決まりもあります。
何10社にも電話したのですが、受けてくれるところがなかなか見つからなくて困りました。特に動画マンがつかまらないんです。

――それはつまり、日本国内に動画の仕事の担い手が少ない、ということでしょうか?

沼田監督
そういう事だと思います。何故かというと、動画から原画、作監、監督……と上がっていくにつれて給料や立場も上がる構造になっているからです。
今回、私が改めて感じたのは、動画マンの重要性です。「ずっと動画の人、つまり動画のプロがいてもいいのでは?」ということです。現状、アニメスタジオに入って初めて担当するのが動画です。なので立場的に下というイメージがありますが、実際にはどれも同じくらい重要な仕事ですから、動画のプロフェッショナルという考え方があってもいいと思います。

――そのためには、動画が下に見られない風潮と、相応の給料が支払われる必要がありますよね。

沼田監督
その通りです。動画より原画、それより作監、監督という風に上がっていくのではなく、本来それらの業務は上下関係ではないと思います。それぞれのプロフェッショナルが同等にいるのが正しい形なのではないでしょうか。
私の師匠である杉井ギザブローさんが「監督は『俺が俺が』というよりも『たとえば、こんなことをしてみたらどうだろう?』とクリエイターに発想の種を植え付ける役割」「クリエイターの発想や創作を応援する人、やる気を出させる人」という趣旨のことをおっしゃっていました。そういう風にやっていきたいな、と私も思っています。

(C)トマソン/文化庁 あにめたまご2018
■アニメ制作現場? ミュージカル? アニメファン的作品の見どころ

――『ミルキーパニック twelve』の作品自体の魅力についてもう少しお訊きしたいです。

沼田監督
10歳くらいの子どもが見ることを想定した、見ていて飽きない楽しい作品になったと思います。トマソンでは「日本の昔ばなし」もそうですが、教育的な作品を多く制作してきたので、今後も「子供にいい」と思っていただけるような作品を作っていきたいと思っています。
3月10日の試写会以降もテレビなどで見る機会もあるそうですので、ぜひ多くの方にご覧いただけたらと思います。

――キャラクター設定など、アニメファン的な見どころはどうでしょう?

沼田監督
それでいうと、主人公のイッポンは次世代のリーダー像として描きました。具体的には、理想は掲げるし旗振りもするんだけど、よく見ると自分では何もせず、最後においしいところだけもっていくんです。
途中で仲間たちが一生懸命戦ってる時も、イッポンは何もしていないのに、ひと勝負終わった後には「フゥーッ!」とため息をつく(笑)。最初はそんな設定ではありませんでしたが、作っていく中で「結局何もやってないじゃん」と気付きました。

(C)トマソン/文化庁 あにめたまご2018
――集団作業の中の旗振り役という意味では、アニメ監督に似ているかもしれませんね。

沼田監督
そうかもしれません。シリーズ化するならそのキャラを濃くしたい。もっとひどくなるかも(笑)。

――それはぜひ見てみたいです。

沼田監督
あともう一点、私自身が元々音響制作を担当していたこともあり、音にこだわって作りました。
『この世界の片隅に』など数々の作品で音響監督をされている清水洋史さんが先輩なのですが、その方にセリフ収録を担当していただきました。声優さんも歌のシーンがある前提でキャスティングしています。30分の作品の中に3曲も流れますので、そこはぜひ聞いていただきたいです。目指したのは『ラ・ラ・ランド』です(笑)。
また、一か所、びっくりするような音の演出を入れています。「あれっ?」「事故?」と思われるかもしれません。実際スタッフさんからも注意が入ったんですが、あくまで演出です。それもぜひ楽しんでいただけたらと。

――本日はありがとうございました。
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《いしじまえいわ》

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