アニメ!アニメ!では、「妹さえ」の魅力を深掘りするためスタッフ陣へ全6回にわたって連載インタビューを実施。第3回は、音楽を手がけた菊谷知樹氏に、クリエイターたちの日常を音楽面でどのように彩っていったのか話をうかがった。
[取材・構成=胃の上心臓(下着派)]
『妹さえいればいい。』
http://imotosae.com
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[菊谷 知樹(きくや・ともき)]
92年、「ムスタングA.K.A」でソニーレコードよりデビュー。
解散後ギターリストとして、05年よりコンポーザーとして作曲・編曲を中心に活動中。
近年はアニメの劇伴やCMなどのBGM作品にも定評がある。
ギターサウンドからストリングス、ブラスサウンドを始め、自らマンドリン、ウクレレ、三線、鉄琴など幅広い楽器演奏も好評を得ている。
■参考にしたのはピチカート・ファイブのような“渋谷系”
――まずは本作の音楽を担当するにあたり、原作小説を最初に読んだときの印象はいかがでしたか?
菊谷知樹さん(以下、菊谷)
僕はライトノベルをあまり読まないのですが、ひねりが効いていているし、えらく進化していると感じました。「妹」という概念で遊んでいて、こっちが付いていかないと置いてけぼりにされてしまう。妹というと、世代的にあだち充先生の『みゆき』のようなイメージを持っていましたが、だいぶ違いましたね(笑)。
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――業界の話を描いている作品でしたが、印象に残っているポイントは?
菊谷
クリエイターたちが締め切りに追われながら、どこまで延ばせるかと勝負しているところです。僕はそういう経験がなくて、締め切りで駆け引きをするよりは、安全策を取って早めに上げてしまいます。作業が完了していたとしても、マネージャーにまだやっていると言って余白を作ってしまうぐらいで(笑)。
――本作の音楽を制作するうえで、何かコンセプトはありましたか?
菊谷
はじめに大沼(心)監督や音響監督の土屋雅紀さんらと打ち合わせをした際に、全体的なジャンル感を決めようとなり、そこで「今回は渋谷系で」というオーダーがありました。本作は「ラブコメ」といえども、みんな大人だしお酒も飲むので、ベッタリとした甘い感じではなく、ちょっとフックが効いた感じにしたいと。
実際に曲をつくり聴いてもらったら、皆さんメインテーマをすごく気に入ってくださったり、やり直しもほとんどなくスムーズに進行しました。作品によっては、制作がスムーズにいかない場合もあるのですが、本作に関しては僕がどういう曲を書くのかわかったうえでのオファーだったと思っています。
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――「渋谷系」というと、具体的なアーティストではピチカート・ファイヴが有名ですが……。
菊谷
まさにピチカート・ファイヴです。監督も最初からそのイメージがあったし、僕も合うと思ったので参考にしました。彼らの楽曲はコード感がおしゃれで躍動感や疾走感がピッタリなんです。そこからイメージを膨らませてメインテーマをつくっていきました。
さらに派生してキャラクターそれぞれのテーマや日常曲をつくる際には、メインテーマの変奏になるよう要素を取り出し、そこだけに焦点を当てるよう進めていきました。
――各キャラクターのテーマはどのようなアプローチでつくられましたか?
菊谷
主人公の伊月だと、作品とイコールなところがあるので、基本的にはメインテーマを踏襲しつつも、彼の志やプライドの高さをニュアンスとして出そうと。春斗のテーマは、渋谷系にジャズやファンクの要素を取り込むことによって、彼のクールでキザなイメージを表現しました。
アシュリーは、極端にデフォルメして、同じジャズでもエキセントリックな感じ。ピチカートから派生しているんですが、そこからキャラに寄せたメロディやアレンジにしたつもりです。京はもうちょっとナチュラルな渋谷系の流れ。千尋は料理が得意なので、料理番組で流れる曲をイメージしました。
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――菊谷さんは数多くのアニメの音楽を手がけられてきましたが、『妹さえ』ならではの手応えや試みはありましたか?
菊谷
僕は渋谷系もピチカート・ファイブも大好きなので、それを楽しみながらいかにアニメの音楽として成立させるか、という作業が楽しかったですね。もちろん渋谷系をそのまま真似してつくればいい訳ではないので、そこは工夫のしがいがありました。
面白い試みとしては、メインテーマには口笛を取り入れました。70年代のテレビドラマのテーマにも、口笛が印象的に使われていたことを思い出し、それがいいなと思って。普通に楽器を使うよりは、フックが効いた楽曲になったのではないかと思います。