下村
監督が「ココネとして歌ってほしい」と、高畑充希さんに直接おっしゃったんです。私はもう、最初に聴いた時に歌のお上手さにびっくりしました。曲の頭から順番に録っていくんですけど、一番最後のリフレインの部分ですごく良いテイクがあったんです。それを聴いた瞬間、「もう絶対にこれしかない!」っていうくらい、本当に素晴らしくて鳥肌が立ちました。
神山
歌い出した瞬間にもう、空気が変わりましたよね。
下村
変わりましたね。そこで、その部分を絶対的に活かして、あとのところを戻って録るという風に進めていきました。
神山
そのくらい実力のある方なので、逆にもう演出とかオーダーは出さない方が、彼女が持っている素の部分の一番良いところが出るなと思って歌っていただきました。
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――劇中のココネは明るくてハツラツとしていますが、歌声はけっこうハスキーというか大人っぽいですよね。
神山
そうなんですよね。歌う時と演技の時の雰囲気が全然違うんですけど、それでいいんです。高畑さんは演技の時は割とおっとりしているというか、ちょっと鼻にかかったという感じで。歌がお上手なのは知っていましたが、あんな声が一発目からくるとは思わなかったですね。
下村
歌い上げるけどバラードじゃない、元気だけど元気すぎない、そのさじ加減というのはなかなか出せるものではありませんよ。
――ではこの対談の締めくくりとして、音楽的な視点で作品の見どころを教えていただけますでしょうか。
下村
監督からの「ピアノをメインでいきたい」というお話から、この映画の音楽が始まりました。私もピアノという楽器が大好きで思う存分使っていますので、私の曲や私の書くピアノが好きな方には音楽面でもすごく楽しんでいただけると思います。映画を観て音楽も聞いて、気に入っていただけたらまた映画館に行ってもらって、何度も楽しんでいただけると嬉しいです。
神山
音楽的な要素で言うと、今まで自分が作ってきた作品には、音楽とぶつかるような演出が多かったと思うんです。それは意識してというよりは、セリフが延々とあったりして、音楽の聴かせどころがある画を作れなかったんですけど、今回はそのあたりを意識して映画を作りました。また意識しなくても、書いていただいた曲がすごくハマったりして、すごく相性が良かったというか、音楽に委ねた部分もあります。後半も「ここはずっと音楽が流れているはずだ」というのがすごく見えたというか、ようやく音楽を必要とする画作りができたなと思います。再度観ることで、なぜこの音楽が鳴っているのかと気づくような演出もありますし、あまりにも見事に音楽が感情をコントロールしてくれているので、音が良かったと気づかないこともあるかもしれません。そのくらい下村さんの作られた音楽に感謝しています。お客さん方も映画館で音に集中するという視点でも観ていただけたら嬉しいです。
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映画における主題歌。それは監督にとって映画を締めくくる最後の演出パーツだ。TVシリーズと異なり、流れる機会は一度きり。そこに歌手や内容、音色やリズムまで考え抜いた1曲を投入する。本作の『デイ・ドリーム・ビリーバー』は、その点ですばらしい効果を観客にもたらしてくれるだろう。対談で語られているように、ココネらしさあふれるサウンドと、本編の彼女とはまた違った側面が見える歌声。そして、”夢”と“去った人への想い”を込めた内容。歌詞自体はすでに広く世に知られている27年前のそれと変わらない。だがこの映画を観て彼女の想いを受け取った観客は、美しいメロディが乗った歌声に耳を傾け、そしてそのときスクリーンに映る映像を噛み締め、温かく爽やかな気持ちになること間違いない。最後の瞬間までこの“夢”に浸ってほしい。
映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』
大ヒット公開中
http://hirunehime.jp
配給:ワーナー・ブラザース映画