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"音楽"から解き明かす「ひるね姫」の魅力! 神山健治監督×下村陽子(作曲家)対談インタビュー

『ファイナルファンタジーXV』、『キングダム ハーツ』、『ストリートファイターII』など、いくつもの超人気ゲームの音楽を手がける作曲家・下村陽子。そんな彼女が神山健治監督作品に参加するというのは、大きなコラボレーションだ。

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"音楽"から解き明かす「ひるね姫」の魅力! 神山健治監督×下村陽子(作曲家)対談インタビュー 全 7 枚 拡大写真
――ピアノをメインにしようと思われたのはどのような理由からだったのでしょうか?

神山
最初はインスピレーションです。でもあとから下村さんに教えていただいて、改めて理論的に納得をしたのですが、ピアノって音が持続せず、アタックが一番強くてそのあと減衰していくしかない楽器なんですよね。それが、ココネのハツラツとした感じを出すのにちょうど良かったんだと思います。ご説明を受けて、「そうそう、僕が求めていたものはピアノでした」といった感じでした。それで最初に各キャラクターのテーマ曲を作っていただいたんです。ココネとエンシェンはピアノメインですね。

下村
あとはベワン、ハートランド、お父さん(モモタロー)、そして最後にハーツ。

神山
だからメインテーマとしては6曲ですね。そこから広げていくという作り方をしてもらったので、自分としてもすごくイメージが分かりやすかったです。

下村
お父さんは「ロックっぽいイメージだから、ギターでいきたい」というのがありましたね。他にも、「ハートランドは他と比べてちょっとゴージャスに」といったような形で、監督からもイメージを提案していただきました。

神山
さらにそこに、「もうちょっとコミカルでいい」とか「ちょっとシリアスさを抑えてほしい」といったやりとりをさせていただきました。

――曲が付いたことで神山監督の想定以上の効果が表れたようなシーンはどんなところでしょうか?

神山
そうですね、たとえば森川家に渡辺が侵入してくる場面は、ココネと観客にだけ状況が分かるからこそ笑ってしまうようなシーンなのですが、そこにコミカルな音楽演出をしてもらったのは、これまでの僕の作品にはないパターンでしたね。曲で気持ちを盛り上げてもらいたいという思いがあり、今回はそこもすごくうまくいって、僕だけではとても表現できないところを作ってもらったなという感じです。やっぱり音楽って、映画の中でのエモーションをうまくコントロールしてくれる装置だと思うので、絵や物語だけでは絶対に出ない感情をたくさん表現できましたし、後半になるに従ってどんどん切れ目なく盛り上げていく感じが出たのも音楽のおかげですね。盛り上げるだけではなく、もう一段上に行くためにいったん落とす必要がある場面でも、感情コントロールを音楽が担ってくれました。1曲1曲がけっこう長くて、それがいくつもあるので作っていただくのは大変だっただろうと思います。


――主題歌のお話もお聞かせください。『デイ・ドリーム・ビリーバー』は、今や国民的に知られている楽曲です。主題歌として選ばれた理由はどこにありましたか?

神山
歌詞の部分が、この物語の裏で流れていた根幹の部分を言い当てているなと思ったんです。そのバックストーリーを最終的にココネが知ることでそれが浮上してくるという仕掛けだったので、脚本を書いているときもずっと聞いていました。それで、「これを主題歌に使えたらいいな」と思っていたところ、「森川ココネのカバー」であればというかたちでOKをいただきました。

――この歌詞に出てくる「彼女」とは、忌野清志郎さんが会うことができなかった実母を指しているというエピソードがあり、それは“夢”と“去った人への想い”という点で映画のテーマとも共鳴していると思います。

神山
そうですね。僕は清志郎さんはRCサクセションの頃からのファンだったので、その話は知ってはいたんですけども、それを知らなくても、あのちょっと倒置法的な歌詞は、聴く人によって「彼女と自分との関係」にそれぞれ置き換えられると思います。恋人でもいいし、死別した誰かのことを思ってもいいし、「だらしなく夢ばっかり見ていたから、いなくなったのかな」と思ってもいい。そういう、あの歌にしかできない表現というものがやっぱり音楽の素敵なところだなと思っていたので、そこを使えたらなと思っていました。


――下村さんはこの曲でも編曲を担当されています。どのように考えて組み立てられましたか?

下村
まさに今と同じお話を監督が打ち合わせで語ってくださいまして。もっと熱かったかも(笑)。監督がとにかくこの歌詞に感銘を受けているので、それをココネが歌うということですから、ココネちゃんに合った女の子らしいアレンジをする必要があるなと考えました。でも原曲は原曲で、絶対に壊してはいけないイメージを持っている名曲ですから、基本的には原曲の良さから伸ばしていきたいと思いました。最初にデモを作って監督に聴いていただいた時は「ちょっとしっとりしすぎているかなぁ」と言われました。女性らしさを出すには、しっとりさせる方が実は簡単なんです。でもそうじゃなくて元気っぽさもほしい。そういう部分を引き戻してくるというバランスが、今回の編曲において一番意識したところですね。これはデモのやり取りをしていた時に監督ともお話したのですが、モンキーズの原曲はリズム的にも歌詞の内容も割とやんちゃな男の子というか、あんまりしっとりとする曲でも感動する曲でもないというか(笑)。

神山
少しふざけているぐらいの感じですよね。

下村
そうなんです。私の中でそんなイメージだった曲を、女の子の曲にする。でもメロディ自体はそんなに変えてはいけない。ちょっと音楽的な用語になるんですけど、シャッフル(三連のリズム)が男の子のイメージになるので、それをやめてイーブン(均等なリズム)にしたんです。あと、この曲のアレンジを考えた時に、最初にピアノの“レドレ”っていうのが頭に響いたんですよね。それはちょうど、最初に作ったココネのテーマ曲の冒頭の“レドレド、シラシラ”と、部分的に重なっています。このリンクが思い浮かんだからにはもう、“レドレ”を使わざるを得ないなと(笑)。そのピアノの伴奏系からどんどん広がって、アレンジに繋がっていったような感じです。


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《日詰明嘉》

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