佐野
そうですね。今回は制作に入る前に教育カリキュラムを作って臨みました。行けると思ったんですけど、実際は人によって感じ方が全然違った。理論的な子、感覚的な子とそれぞれいて、ひとりひとりに合わせて微調整していったところは苦労した点かもしれません。でも人はみんな違うというのは教育するうえで当然のことかなと思っています。もともと僕は教員をやっていたので、その経験も活かせましたし教えるのも好きなタイプなんです。日本のCG業界はまだ教育面が未熟だと思っていたので、こういう機会があってよかったですね。
――育成で意識したところはどういったところだったのでしょうか。
佐野
理論をキチンと叩き込む、ということです。ベテランの作画スタッフだと、たとえ言葉で説明できなくても、実はしっかりとした理論を持っているものなんです。キャラクターが立つ、走る、といった絵には動きの原理があってそれを落とし込んで描いている。でなければ原画になれないですから。でも3Dの場合は何もわからなくてもモデルがあれば動かせてしまう。そのぶん、言葉で理論を叩き込まないとちゃんとしたアニメーターにならないので、普段から「ただ動いているものとアニメーションは違う」と教えていました。ある程度理論を伝えたら、実戦させてつまづいたらまた理論に戻る。そういうやり方をして理論と技術の感覚を繋げていきました。
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――人はそれぞれ違う、という話から発展させて伺いたいのですが、例えば手描きだとそれぞれの個性というのがどうしても出てきて、逆にそれが味になったりします。若手CGアニメーターさんの個性というのはどこからか感じ取れるものなのでしょうか。
佐野
そこは面白いところで、やっぱり個性はすごく見えてきますね。同じモデルを使っているからこそ、動きで個性が浮き彫りになってくる。しかも今回は、各自が自分の動きをビデオ撮影して演技の参考にしました。まず演技プランを立てて、僕のチェックでOKが出たら、シューティングルーム(撮影用の部屋)で撮影、それを元にアニメーションを付けていく。するとどんどん本人に近づいていきますし、ダイナミックな動きにこだわる人とか、手のちょっとした動きにこだわる人とか、人によって全然違ってくるんです。ディズニーの3Dアニメを見てても「この動きを作ったのはあの人だろうな」とやっぱりわかってくる。それと同じですね。
――若手CGアニメーターさんたちの成長は実感しましたか?
佐野
ものすごく成長したと思います。動きもかなりよくできていて、作画監督の清水さんも「これだけの動きはそう簡単には作れないよ」と言うくらいです。そんなCGアニメーターが6人も揃ったCGスタジオは中々ないと思います。みんなものすごく頑張ってくれましたね。
――通常の制作現場とスケジュール感の違いなどはありましたか?
佐野
『RedAsh』で若手の子たちは原画と動画をやっているのでスケジュールとして楽ではなかったですし、僕が妥協せずかなり細かくクオリティーも見ていたので大変だったと思います。この作品をやりきったことで、充分タフになっていますし、他の現場でも動じずやっていけると思います。実際、もうすでに次の現場に入ってバリバリやっている子たちもいるので、すごいなと感心しています(笑)。
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――作品を見る人にどのあたりを注目してほしいですか?
久江
細かいところまで作り込まれているキャラクター達の演技ですね。一コマ一コマこだわって作った手付けアニメーションですので、機会があったらコマ送りで見ても面白いと思います。それから、Koji Nakamuraさんに作曲して頂いた音楽も物語の展開に合わせて変化していくので楽しみにしていてください。
佐野
作画の場合、絵として活き活きと描かれているものですが、CGは逆にコマ送りにしたときに絵が死んでいるように見えたりするんですよね。でも今回はそういうことがないように若手の子たちが頑張って作ってくれているのでCGでは珍しいくらいキャラクターが活き活きとして見えるんじゃないかなと思います。ぜひ注目して下さい。
――ありがとうございます。最後に読者へメッセージをお願いします。
佐野
人類がナノレースとピュアレースというふたつの種族に別れた世界に生きる、ベックとタイガーというふたりのハンターの物語です。そのふたりのところに、家出をしたコールという女の子が加わって……という作品です。子どもが見ても面白いアニメーションにしたいという思いで作ったので、純粋に楽しめるアクションやコメディを見ていただきたいです。物語的にはまだまだその先を予感させて終わるので、今後の展開も広げていければなと考えています。STUDIO4℃が作る新感覚のアニメーション、ぜひお楽しみください。