このドラマ、日本語吹き替え版も注目だ。主人公の中年アッシュを演じるのは、サム・ライミ監督の『スパイダーマン』シリーズなどで俳優ブルース・キャンベルの声を演じた江原正士。そしてドラマの予告映像に熱い叫びでのナレーションを付けたのが、映画『死霊のはらわた II』でアッシュ役を演じたことのある大塚芳忠。吹き替えのプロフェッショナルであるふたりに、ドラマの魅力や、互いの吹き替えテクニックについて対談していただいた。吹き替えファン、声優ファン注目の内容だ。
[取材・構成:大曲智子]
『死霊のはらわた リターンズ』
2016年12月2日(金)
ブルーレイBOX&DVDコレクターズBOX発売、DVDレンタル開始
http://video.foxjapan.com/tv/evildead/
■アドリブを入れちゃったんです(江原)
――おふたりは本当に旧知の仲なんですよね。仲の良さが伝わってきます。
大塚芳忠さん(以下、大塚)
30年、いや40年ぐらいの付き合いかなぁ。
江原正士さん(以下、江原)
がっぷり四つでやった作品はずいぶんあるよね。でもベタベタしてるわけじゃないんです。適度に距離感があって、でも親しい。僕にとっては一番理想的なんですよ。現場では甘えられるし、無理も言える。逆に芳忠ちゃんは僕にあまり無理は言わないけどね。
大塚
というか江原さんの方が年上ですからね? 僕は江原さんを尊敬してついて行っているだけ。
江原
いやいや、ほとんど同世代だからね。僕はいつも芳忠ちゃんって呼んでます。
――大塚さんにとって江原さんはどんな方ですか?
大塚
最初は変な人だなぁと思ったので、確かに最初はちょっと距離を置いてたんですよ(笑)。でも一緒に仕事をするうちにどんどん好きになってきてね。こんなに正直な人はいないなって思ったんです。言ってることもやってることも嘘がない。あまりに嘘がなさすぎて、誤解される部分もあるかもしれないけど。本当に心の中が真っ白な人です。
江原
同じセリフを200倍にして返しますよ。芳忠ちゃんはシャイで、でもとても温かい人。写真が趣味で、有名なフィルムカメラで同僚の役者さんを撮った写真があったんだけど、それがまたいい写真なんだ。普段は苦み走った人なんですが、同一人物とは思えないほどの素晴らしい笑顔の写真でしたね。写真には撮る人の心が出るというから、芳忠ちゃんはそういう人なんだなって思いました。シャイだからこう言っても照れ臭そうにしてるだけなんだけどね。

――今回はドラマ『死霊のはらわた リターンズ』の主演アッシュ役の吹き替えが江原さん。そして、かつて映画『死霊のはらわたII』の吹き替え版でアッシュ役を演じた大塚さんが、『死霊のはらわた リターンズ』の予告映像に熱いナレーションをつけるという、夢の組み合わせとなりました。
大塚
僕がやった『死霊のはらわたII』はもう30年前の作品になるんですね。30年前というと30代。申し訳ないですが、当時のことは何も覚えていないんですよ。どういうつもりでやってたんだろう。
江原
フォローすると、芳忠ちゃんは当時、仕事の本数がすごかったんですよ。1週間のうち相当録ってたよね。
大塚
当時は、洋画の吹き替えを毎日やってましたね。テレビのゴールデンタイム放送用に、深夜枠の映画。飛行機の機内上映用というのも別に録っていたんですよ。それもまた航空会社別に録っていた。毎日朝から晩まで洋画の吹き替えをやっていたんです。若いし、毎日が一所懸命でね。ひとつひとつの作品についてしっかり考える暇もなかった。終わったら飲んでおしまい(笑)。
江原
朝10時から録りが始まって、夕方6時とか7時ぐらいまで。たまにかかっても8時ぐらいまでやってたよね。終わったら打ち上げに行って、帰ったらまた次の日の準備。
大塚
また翌朝10時から別の吹き替えだからね。
――『死霊のはらわたII』も叫ぶお芝居も多かったです。
大塚
きっと叫んでたんでしょうね。若い頃は微妙なセリフが言えなくて、叫ぶことしかできなかったから。昔はみんなよく働いてたよなぁ。
江原
叫んで叫んで、体力のある人だけが残ったということだね。
大塚
江原さんはとても几帳面な役者なんです。仕事のすべてを下調べする。勉強をたくさんしてくる人なんです。朝行くとすでに台本に丁寧な書き込みがいっぱいしてあるよね。
江原
芳忠ちゃんみたいに記憶力がないから書いてるだけですよ。
大塚
僕は記憶力ないよ。それに僕の書き込みは汚いし(笑)。江原さんは自分の前後のセリフ、キャストとの絡みも考えて、微妙に自分のセリフを修正したりするところもあるんです。
江原
だからよく先輩に怒られてたんだよ(笑)。実は誤解なんだ、当時、放送中のTVシリーズのディレクターさんから「この時間帯を守るには君がアドリブを入れて盛り上げるしかないんだ」という至上命令を受けてたから頑張っちゃったんだよね。

――おふたりともアッシュという同じ役をやるということは、何かおふたりに近いものがあるんでしょうか。
江原
声質は似てないしなぁ。僕は芳忠ちゃんのようにシャープじゃなくてふにゃふにゃしてる。
大塚
江原さんは見た目がブルース・キャンベルとよく似ているよ。
江原
変なおっさんという意味なのはよくわかるよ
――大塚さんは、江原さんのアッシュはご覧になりました?
大塚
実はまだ見ていないんです。自分がやった仕事も見ないぐらいだからなぁ。
江原
自分の芝居はNG含めしっかり覚えてるしね。
大塚
僕は単純に、自分のやった芝居があまり好きじゃないんだ(笑)。

――今回のアッシュは映画からずいぶん経って、すごく女好きのキャラクターになっているんですよ。
江原
本当に女好きのエロいおじさんです! いいのかなと思うぐらい。アフレコは若手の人たちと一緒にやってるんだけど、初回からエロいからぶったまげちゃって。とてもこんな激烈なシーンをストレートに流せないと思って、アドリブを入れちゃったんです。観てて引かなかったかな?
――私は大丈夫でした。江原さんのお芝居のおかげでいやらしくなくて、あっけらかんとしていたので楽しく見ましたよ。
江原
よかったぁ~! ちょっとコミカルな、生命賛歌の方に持っていきましたから(笑)。

――こういった海外ドラマの場合、声優さんはどの程度アドリブを入れるものなのでしょう?
江原
相手が芳忠ちゃんみたいに親しい役者さんだと、僕のわがままを受け入れてくれるので、アドリブも入れやすいです。プロだから、何をやってもちゃんと返してくれる。でもまだ経験の浅い人だと、おどおどしちゃう。
大塚
でもここまでアドリブを入れてくるのは江原さんぐらいですよ。アドリブって考えるだけで大変だから、他の人はここまでやらない。それにたいがいアドリブって、みんなハズすんですよ。ちょいちょいやってみる人はいるけど、たいがい失敗して冷たい空気が流れたりする。江原さんも最初は冷たい空気を作ってたけどね(笑)。でも続けるもんだなぁと思いました。最近はみんな納得してるから。江原さんは心が折れないんです。相当批判もあったけど。
江原
芳忠ちゃんは僕の全部を見てるから、もう何も言えないよ(笑)。
大塚
演出家に「勝手に変えるのやめてくれよ」なんて怒られてましたからね。それでもやめなかった。続けることってひとつの才能だなと思いましたね。そうこうしているうちに、僕も江原さんが相手だと心の準備をするようになった。どうせまたやってくるんだろうって(笑)。最近はアドリブをやられるとプッと吹いちゃうこともあります。
江原
芳忠ちゃんだって、この辺はちょっとアドリブ入れちゃおうってあるでしょ。やっぱりそこは手練手管ですから、すごいんですよ。絵を見ながら、ここを逃すとかここは滑るとかが、自動的にできちゃうんです。原音とは合っていないんだけど、絵を見ると全然ズレていない。どこでそんなテクニックを手に入れたの?
大塚
僕は頭とお尻が合えばいいと思ってるから。ねぇ、もう褒め合うのやめようよ(笑)。
江原
彼ぐらいの達人がやると、絵を見ていてもアテレコじゃなくドラマがちゃんと動いているように見える。こっちが引きずられることすらあるんですよ。ドラマはひとりでやるものではないので、相方がいいと気持ちよくセリフの呼吸が取れるんです。やりやすいというのはとても大きな宝ですよね。だけど誤解していただきたくないのは、馴れ合いじゃないんです。わりと厳しい関係ですからね。
大塚
こんなこと言ってますけどね、以前、僕らふたりでW主演という映画の吹き替えがあったんです。その時江原さんは勘違いして、僕の役を一所懸命準備してきたんですよ。台本におびただしい書き込みがしてあるんだけど、それは全部僕の役だったんです。
江原
(立ち上がって恥ずかしがる)
大塚
本来の自分がやるべき役のことは全然準備してなかった。思い込みがすごいんですよ。この役は僕だと思っちゃう。
江原
あの話をされると未だに肩身が狭い。またふたりの役名が似てたんだよね。
――普段はすごく準備をして臨む江原さんが、その場で役作りをしなくてはならなくなったわけですね。

『死霊のはらわた リターンズ』
ブルーレイBOX&DVDコレクターズBOX
発売日:2016年12月2日(金)
価格:Blu-rayBOX 8,000円(税別)、DVDコレクターズBOX 6,000円(税別)
http://video.foxjapan.com/tv/evildead/
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■2ページ目「江原さんはよく先輩とケンカしていた。絶対に折れない人なんです(大塚)」に続く