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藤津亮太のアニメの門V 第7回魅了する「傷物語」「昭和元禄落語心中」の演出

藤津亮太さんの連載「アニメの門V」第7回目は「傷物語」と「昭和元禄落語心中」の演出の魅力について。毎月第1金曜日に更新。

連載 藤津亮太のアニメの門V
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演出に印象が残ったもうひとつの作品は『昭和元禄落語心中』。雲田はるこの同名原作をアニメ化した本作は、元チンピラの与太郎が昭和最後の大名人と呼ばれた有楽亭八雲に弟子入りをするところから始まる。
OAD(コミックス同梱のDVD)で2巻に分けてリリースされた与太郎の弟子生活を描いたくだりを、再編集して1時間枠の第1話として放送した。続く2話以降は、時間を20年ほど巻き戻し、若き日の八雲(当時の名は菊比古)と助六(当時の名は初太郎)の落語修行の日々を描く。

目を引いた演出は第1話で、元チンピラの与太郎のもとを、アニキが尋ねてくるシーン。アニキは与太郎に、元の稼業に戻れと促してくる。与太郎は「落語」と「ヤクザ」の二つの世界で揺れ動く。
このシーン、原作ではアニキと与太郎のやりとりをアップ中心の切り返し中心に構成して、「与太郎がアニキの世界側に取り込まれそうになっていく」ことを感じさせた。それに対してアニメは、時間帯と舞台を巧みに使って、映像作品ならではの表現を行っていた。

舞台となるのは、縁側のある和室。時間は夕方。ヒロイン小夏は、和室の奥にいて影の中に入っている。一方、与太郎は日の当たる縁側にいて、アニキは縁側に腰掛けて足は外に放り出されている。このセッティングだけで、「和室」(落語の世界)と「家の外」(ヤクザの世界)の間で揺れ動く与太郎の立ち位置が明確に現されている。
それをさらに明確に見せるのがカメラのアングルだ。3人を同時にとらえる時には、家の外から望遠レンズで縦の構図でとらえ、影の中の小夏と手前で陽の中にいる与太郎とアニキの差がわかるように見せる。会話を追う時のアップでは、与太郎とアニキは同じフレームに入ることがあっても、小夏はそこに入ることはない。特にアニキが小夏に対し「だまってろ」と言うカットは、アニキと並んで与太郎の顔がフレームにおさまっており、再びヤクザの世界へと与太郎が取り込まれそうになっていく雰囲気がずばりと出ていた。
この状況を崩すのが、師匠の八雲。八雲は和室の奥から現れ、ずかずかと日の当たる縁側まで進んでくる。ここで、それまでアニキが優性に進めてきた空気が大きく崩れる。そして、与太郎は寄席の準備のために和室の奥方向へとはけていく。そちらはつまり「落語の世界(ヤクザの世界とは逆方向)」なのだ。

どうも『昭和元禄落語心中』は、二つの世界を分かつ境界線を意識しているようで、「敷居を越える芝居」とか「四角い枠で被写体を囲む」とか「光と影の境界線を活用する」などが多く感じられる。これから進むシリーズでそのあたりの要素が演出的にどうに活用されるかも、キャストの話芸と同じぐらい注目点といえる。

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ
ゼロ年代アニメ時評』がある。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。
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《藤津亮太》

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